仕事のスキルをメタレベルと捉え直す

  商品説明が上手な自動車のセールスパーソンは、きっと不動産のセールスをしても成功するに違いない。さらにいえば、学校の先生になって活躍しても不思議はない。

 数年前に聞いた話しだが、JR四国がうどん屋さんを始めて成功した。鉄道会社とうどん屋さんとは何の関連もなさそうだが、地道にコツコツと作業をする鉄道マンの仕事へのマインドセットが、腰のあるうどんをつくるスキルに、うまくはまったらしい。

 このように、仕事で培ったスキルとは、相当汎用性があるのではないかと思う。半導体業界にいた人は同じ業界内でない転職しずらい、人事畑の人は、他業界に行っても人事の職種でないと転職できない、と考えるがちだろう。もちろん、転職市場にエントリーするには、過去の経験が重視され、それによって市場で値づけされるので、最初からいきなり、その汎用性を見込まれて値づけされるとは限らない。

 しかし、不慣れなことでも、やってみれば異なる仕事のスキルの汎用性があることに気づくのではないか。もちろん、スポーツや職人技と呼ばれるような、体の感覚に沁みこませたものは、他に応用することは難しいだろうが、対人関係のスキルや組織を説得するスキル、新しい価値を考えるスキルなど、知識労働者のスキルの根幹は汎用的である。

「文系の仕事は、業種・職種を問わずほとんど一緒」とある経営者は一蹴されていた。突き詰めて考えると、仕事とは人を動かすこと。営業も人事も、企画も経理も、相手は違えど人を動かし組織を動かすのが仕事である。

 編集者を見ても、紙メディアでずっと仕事をしてきた人がネットメディアで活躍している例は珍しくなく、動画の編集まで新しい領域として取り入れいる人もいる。さらに編集という仕事の本質をメタレベルで見直せば、さまざまな要素を一つのコンセプトに結びつけるスキル、多様な関係者を束ねるスキル、従来になかった新しい価値を見つけるスキル、人の行動を変えるスキルなどと捉えられ、紙メディアをつくる以外の場面でも活かせそうだ。

 ある編集者は、このような概念を「編集の拡張」と呼んだ。どの方向に拡張できるかは、その人が編集者として何を目指していたか、何を実現したいと思って仕事をしていたかによって変わるだろう。

 この拡張の概念を使えば、キャリアの幅は大きく広がるのではないか。自らの能力を「保険のセールスしかやってこなかった」などと狭く捉えるのではなく、「人に安心を提供してきた」「一生の買い物を説得してきた」などと捉え直すことができる。また、スキルの拡張ができれば、自社や産業の栄枯盛衰から自由になれるのではないか。

 


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