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ユニバーサルデザインに活かすために体験型のユニバーサルマナー検定2級・3級を受験をしてきた話

ユニバーサルデザインに活かすためのセミナーや知識を調べる

フェンリルのデザイン部門に HCD やユニバーサルデザイン、アクセシビリティをメインに担当する部署であるエクスペリエンスデザイン課が新設され配属されてから早6ヶ月。ユニバーサルデザインを案件や提案に活かす上で、もしかしなくても健常者という側面でしかユーザ視点を持っていないのではないかと悩むことも多かった。

ユニバーサルデザインやアクセシビリティのセミナーにはたくさん参加し、実際に障害を持っていらっしゃる方と同席させていただいて、いろんな使い方や悩みどころを目の当たりにしたが、「なるほどそんなこともあるのか」と思う程度で終わってしまっていることも多いように感じていた。

これはアカンのではないかという危機感から、 Google検索に ”ユニバーサルデザイン” というキーワードで手当たりしだい検索していたらヒットしたのが、ユニバーサルマナー検定

ユニバーサルマナー検定とは?

というわけで早速ホームページをくまなく読んでみると、

ユニバーサルマナーとは
高齢者や障害者、ベビーカー利用者、外国人など、多様な方々を街で見かける現代。
私たちにとって、“自分とは違う誰かの視点に立ち行動すること”は、特別な知識ではなく、「こころづかい」の一つです。
多様な方々へ向き合うためのマインドとアクション。それを私たちは「ユニバーサルマナー」と名づけました。ハード(設備)を変えることができなくても、私たち一人ひとりの「ハート」は今すぐに変えることができます。
それが「ユニバーサルマナー」です。

自分とは違う誰かのことを考えられる社会。
困っている人がいたら行動し、助け合える社会。
皆が安心して、心から楽しく過ごせる社会。

わたしたちは、皆さんと共に、そんな社会を実現したいと思います。

※ ユニバーサルマナー検定ホームページより抜粋

まとめると、「こころづかい」を学び、活かし、助けることができるようになるような資格なんだなと分かる。

また

障害のある当事者がカリキュラムを監修
車いすを押すという一つのサポートでも「かける言葉」「歩くスピード」など細かいことを工夫すると、乗っている人の安心感は変わります。
ユニバーサルマナー検定では、障害のある当事者講師がカリキュラムを監修しています。本当に喜ばれる細やかな配慮を身につけられるのは、当事者視点ならではのこだわりと発想があるからです。

という、当事者視点からの検定というところも良い。

さらに

検定2級のねらいは、「高齢者・障害者に心地の良いサポートを実践できるようになる」こと
2級では下記のポイントを踏まえ進めていきます。
・知的障害・精神障害など多様な方々の特徴と心理状況について学ぶ
・車いすに乗って、押し方や持ち上げ方を習得する
・視覚障害者の誘導方法・不安を与えないコミュニケ―ションを習得する
・高齢者体験キットを着用し、高齢者への対応を習得する。
・筆談や口話など、聴覚障害者とのコミュニケーションのポイントを習得する
・試験に取り組んでいただいた後、合格者には認定証・認定カードを郵送

え、何これ最高やん?

特に、車いすに乗って押し方や持ち上げ方を習得、視覚障害者の誘導方法・不安を与えないコミュニケ―ションを習得、高齢者体験キットを着用し高齢者への対応を習得、聴覚障害者とのコミュニケーションのポイントを習得のあたり。つまり実技があって、自分自身が体験できて、納得できる検定であると。

さらに調べていくと、運営されているミライロ株式会社の方のnote記事を発見。「え?嵐の櫻井さんも持ってる資格なの!?」ということで、上司に検定受験を直訴(完全に余談ですが私はテレビを全く見ない関係で男性タレントやジャニーズの人に疎く未だに嵐の全員の顔と名前がわかりません…)

また、タイミング的にも9月中に2級・3級同時受験ができる日程があり、かつ消費税増税前で10月になると受験費用が2級3級合計で2,000円も高くなるということで上司を説得し業務に活かすことを約束。無事に9/26(木)に10:00〜18:00までみっちり受講・受験してきた。

控えめに言って、ユニバーサルマナーの受講は大正解だった

午前中は3級の座学(2時間)から。3級は座学を受けたら自動的に3級の認定書がもらえる仕組みだ。

当日の会場は東京モノレールの流通センターの会議室だった。かなり大きい会議室をどーんと使って5〜60人が座れるようなセッティングがされている。ほとんど空席もなく満員で講義がはじまった。

講師の先生は株式会社ミライロ 山田大地先生で、先天的に難病である軟骨無形成症とのこと。骨の生成が阻害されているせいか身長が成人男性の半分より少し高いくらいだろうか。しかしながら、自身の経験や障害についての深い知識を明朗な語り口で話されていて超パワフル。全身をフルにつかって解説してくださり、また途中には4〜5人程度のチームとなって簡単なワークショップを行ったのだが、それの模範解答なども笑いをはさみつつ、とても平易な言葉で語られていた。

また、今回はワークショップを行ったチームメンバーもとても優秀な方々で、大学生が2人に航空会社の方やサービス業の方、そしてデザイン業(私だ)という多様性でいろいろな視点や意見が飛び交った。さらにウチのチームだけが発表を行った人にだけ配られるユニバーサルマナー公式シールを全員がゲットした(笑)

yes! I'm a suppoterと書かれているステッカーを4枚集めた写真

座学の内容としては、普段から気にかけていたことも多かったが、いくつかのパワーワードも学べたので紹介したい。

わたしたちに求められている姿勢はさりげない配慮
「○○しなければならない!!」という気持ちは要注意
これを回避するには押し付けではなく選択肢を提示してあげること。

(例)”相手のできる・できないを聞く” のではなく”自分自身が(相手に対して)なにができるかを聞く”

基本フレーズは「お手伝いできることはありますか?」
もし断られたとしても、見守ることも一つのサポート
100点満点を目指さない。できることを、できる範囲で行動する
失敗してもOK。失敗したら反省しよう。

あと、深く頷いたところでいうと、高齢者の話。

できていたことができなくなってしまうのが老化だが、自分でやろうとして無理をしてしまうのが高齢者。

これは私自身にも覚えがすごくあるのだが、若い頃のような体力も筋力もないのにいきなりハッスルして100mを全力でしてしまうようなものだと思った。できなくなって一番ショックを受けているのは自分自身なのだが、こういうときに他人に「だから言ったでしょ?」などと指摘されるとカチンとくるものである。日本は超高齢化社会に突入しており、全人口の1/3という途方も無い人数の方々がこういう心理状態に陥っている可能性があるとあらためて認識できたことは今後のユニバーサルデザインの視点に活かせるのではないかと感じている。

ハード(施設)は変えられなくても、
ハート(行動)は今すぐ変えられる。

これはユニバーサルマナー検定のコピーだが、いい言葉だと思う。ふつうは3級の受講だけでも十分な講義内容だったと思う。

講師の山田先生と一緒に撮らせていただいた記念写真

ユニバーサルマナー検定2級は実践的なサポートを学べる

思い思いにお昼を食べて、午後1時。ここから検定2級の座学、実技、試験を休憩をはさみながらも5時間ほぼノンストップで行った。

3級受講だけで帰る方が1/3ほどいたか。2級もその後の空席がほぼ埋まるくらいに入れ替わり、また満員の状態で座学がはじまった。

まずは講義が75分。身体障害だけでなく精神障害や知的障害などにもフォーカスを当て、応用やコミュニケーションの仕方など、より具体的な講義となっており実践するにはどうしたらよいかがメインの3級よりも大きく踏み込んだ内容だった。

当事者になりきっての実技研修がアツい

今回、特に楽しみにしていたのが実技研修。1チーム15人ぐらいの3つの大きなグループに分けられ、150分かけてすべての実技研修をぐるぐる回すという方式。1つの実技を行うのに1部屋づつ会議室を使う。つまり3つの大きな会議室をフルに使って体験するかなり大掛かりな実技となる。

我がチームは、高齢者体験から。高齢者の身体の不自由さを疑似体験できる装具を足、腕、腰、首に着け、ぼんやりとしか見えないような弱視になれるゴーグルと聴覚障害を体験できるイヤーマフを装着する。指先が乾燥したり敏感さがなくなるなどは軍手を装着することで体感できる。

装具を着けて歩き回るときに杖があるのとないのではこんなにも歩きやすさに差が出るのかとか、レジで待っている時に高齢者の方が小銭をジャラジャラ全部出して確認する、あのついイライラしてしまう原因になりがちな出し方をなぜするのかが、自分の身体で実体験として分かる。視野がボケて手の感覚が弱まるだけで小銭が恐ろしいぐらい判別できなくなる上、装具が四肢の動きを阻害して細かい動きが全くできなくなるのだ。これが高齢者になるということか!

人間誰しも老いる。超高齢化社会に突入しているということは、すなわちこういう動きをする高齢者がこれから人口の4割ぐらいの数になって行くということだ。たとえばスマホ決済がこれから更に進むと思うが、そもそも小銭を使わなくて良くなるはず。仕組みやアプリなどで解決できるようになるかもしれないというか、解決したいなという視点を持てたのがとても良かった。

その他耳の聞こえない人や聞こえにくい人へ、どのようなジェスチャが情報を正確に伝えることができるかや、手話話者はそんなに多くないことなども学ぶことができた。

※どんな装具を付けるのかなどは検定のホームページを参照して欲しい。

車いす体験は義務教育で必須にすべきじゃないか

次は車いすだ。
会議室に10台ほど車イスがずらりと並び、部屋の中央には木箱のようなもので段差を作ってある。2人1組となってまずは車いす各部位の名称を教えてもらいつつ、たたみ方と広げ方、乗るときの注意点や介助するときに気にするべき車輪の方向など詳細かつピンポイントな説明がある。まずはそれぞれ交代で車いすに乗り自分で動かしてみたり、スロープを登るのを補助したり、大きな段差を上げるときのコツなんかも全員が体験できる。車いすは目線が低いことや、ドアノブの形状によっては一人で開けられないものがあるなど、経験しないとわからない情報がいっぺんに入ってくる。

さらに、なかなか経験できないだろう実技の一つが、4人がかりで人が乗った車いすを持ち上げるというもの。段差の補助も人が乗っているため何かあってはと緊張したが、4人で同時に持ち上げる方はタイミングを掛け声を掛け合って全員揃えて引き上げる必要があり、また乗っている人へ不備があってはいけないため本当にドキドキした。車いすに乗って、持ち上げられる側も経験したが、自分の制御が効かない状態で目線を引き上げられる怖さみたいなものは、この体験がなければ思いもつかなかったことだ。年齢に関係なく、怪我や病気などでいつ車いす生活になるか分からない。こういうことは私自身もっと早くに知りたかったし、これはぜひ義務教育ぐらいの時点で教えておくべきものだと思う。意識や気の使い方、情操教育に大いに役立つと思わせる経験だった。

視覚を制限されると方向やまっすぐ進んでいる感覚が分からなくなる

実技の最後は視覚障害体験。こちらも2人一組で取り組んだ。

まずはどちらかがアイマスクで目が見えない状態にする。晴眼者役の方は課題として出された写真や絵を使って、浮世絵に描かれている情景を伝えたり、どんな食べものがセッティングされていてテーブルの上に何が置かれているかなどを口伝で伝える。表現や伝えるアプローチ、順番などで受け取る側の印象が代わってくることもわかった。目が見えない方の趣味が見える人に解説してもらいながら回る美術鑑賞という話を以前どこかのSNSで読んだことがあるが、なるほどこれは想像力が刺激される。先天的に全盲の方ではなく、特に昔見えていたがある年齢から視力を失った方などには色や形をうまく想像してもらえるように伝えたりする工夫をするといった配慮を行うと効果が高いなと感じた。

さらに、全員に白杖が配られ白杖の使い方レクチャーと、全盲者または介助者となっていすの座り方などのロールプレイング。介助や声掛けの仕方やタイミング、歩き方や肩の貸し方を一通り学んだら、ここから全盲者になりきって、ペアの肩の掛け声と引率で詰めて座れば100人は入るだろう大きな会議室の中をぐるぐると曲がったり進んだり、段差や障害物を避けたり。

見えない上に声を聞いてその指示通りに動くことにフォーカスしていると、方向感覚や距離感が全くわからなくなる。
例えば「あと10m先、左側に障害物です」というような簡単な声掛けでも、まずあと10mがどれくらいの距離か思い出せない。

(一歩で踏み出すとどれぐらい進む1m?50cm?)

加えて左右盲で、右⇔左が瞬時に分からない私の脳はさらに混乱を極める。

(いつも左右をどうやって確認していたっけ?白杖持っている方?いま介添えで支えてもらっている腕の方?)←正解は白杖を持っているほうだった

距離が分からない。曲がる方も分からない。曲がったこともわからないし、周りでしゃべっている人の声も入ってくるため、介助者の声を焼き付けほかが聞こえないように意識的に耳にもフィルターをかけたり。

もう大パニックである。

もしかしたら、日常ずっとこういう状況の方は慣れていて自分の中で距離や感覚、雑音や雑踏、生活音なんかの聞き分けはすぐにできるのかもしれないが、少なくとも私は急に全盲状態になったら介助があっても満足に動けないような気がした。

また全盲者を体験したあと介助者となって案内したのだが、自分の経験が役に立ち、声かけの仕方も工夫することができた。

△ もう一声:「あと10m先、左側に障害物です」
○ よくなった!:「あと10歩ほどいったところに、杖を持っている方の左側に障害物があるので、少し反対側に寄りますね」

こんな感じで大きく迂回しますよみたいなアドリブも入れられるようになった。直後にどういう動きを入れたいかみたいなものを伝えるとスムーズだった。これは本当に経験しないと得られないものだと思う。

ドキドキの検定試験30分

最後は30分間の検定試験。実技の間は5分づつ休憩があるのだが、移動やらなんやらで時間が押したりとほとんどトイレ休憩すらいけないような濃度の濃いノンストップ150分間。一回は復習としてテキスト流し読みしたいと思っていたがそんな悠長な暇はなく、先程の視覚障害体験の声掛けでしゃべりっぱなしだったカラカラの喉を水で潤している間に、すぐに試験開始になった。

最初に解答の方法と解答用紙への表記の仕方に混乱したものの、30分のテスト自体は見直しを1周できる程度に時間が余った。ただ、解答に迷ったのが4問だけあった。

70点以上で合格のところ、88点で無事に合格したが、設問配分からいくと1問4点かなという感じだったので、3問は間違っている計算になる。イチかバチかは外れてしまった。上長には「100点で合格してきます!」と大見得を切ってしまったので、満点ではなかったのは残念だが合格は合格だ。

証明のために、合格証書の写真を掲載しておこう。

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※2級は3年毎に更新手続がいる

さいごに

3級の受講だけでも十分に実のある検定だと思う。実際、付近の席で2級の取得を目指している方はサービス業の方や航空会社で、会社の要請で受験が必須だったのでという方も多かった。これからオリンピック・パラリンピックに向けて7万人以上の車いすユーザが日本に訪れるというが、3級の内容でも十分配慮ができるだろうなと感じる内容であった。

私の場合は業務であるユニバーサルデザインにこの体験を活かすというミッションがあったので、やはり2級までの受講を選択したのは大正解だったなと思う。見たり聞いたりだけでなく、自分自身が体験し体感した感覚というものは、どんな優秀な教本なんかよりも多くのことが学べる。

この試験のあと、会社にとんぼ返りして会社の飲み会に参加したのだが、そんなに飲んでいなかったのに帰りの電車の中の記憶が全くない(苦笑)。本当に一日フルに脳とを酷使して相当疲れていたのだろうが、一方、その後の睡眠はおだやかで一種の達成感を感じながら眠りについたのを覚えている。

普段の業務では、主にアプリやWeb、業務ツールなどの開発に携わっているが、この経験は業務へ活かせる新しい視点をたくさん与えてくれた。特に物理的に解決できないことはサービス心遣いで、またはオペレーションの工夫を入れるなど仕組み考え方を変えたりすることで解決できるだろうと思う。

ハード(施設)は変えられなくても、
ハート(行動)は今すぐ変えられる。

まさに検定のキャッチコピーの通り。今すぐハート(行動)から変えていこう。

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