大学の乱立と学士号の価値

韓国の名門女子大が実業高校卒業者や無職女性に対し、面接のみを入学試験に課す学部を新設しようとしたところ、在学生や卒業生から猛烈な反発を受け、件の構想を白紙撤回するという騒動が起きた。200人の学生が建物を占拠し、その排除に1,600人の警察官が動員され、負傷者も出ているようだから相当な事態である。

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韓国の名門女子大、卒業式で「総長辞めろ」の大合唱 背景に根強い学歴社会

http://www.huffingtonpost.jp/2016/08/28/korea-ehwa-womens-univ_n_11756596.html

韓国の伝統女子大で起こった「ITデモ」

http://diamond.jp/articles/-/100549

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反対の理由としては「学位商売」「学閥主義への迎合」などが取り沙汰されており、これを「名門意識」「ネームバリュー」によるものだとする向きもあるが、それは読みかえれば自分たちの手にする学士号の「質」を重視しているということでもある。「苛烈な受験戦争を勝ち残り、高度な学問を修めた」という保障は超学歴社会の韓国においてそのまま人生を左右することであるので、彼女たちが死守しようとするのは当然のことだろう。実際、この騒動を契機に別の大学へも反対運動が伝播している。

単純な比較はできないが、日本では東大や京大で推薦入試を導入すると発表のあった際、大規模な反対運動が巻き起こったということは無い。少し前の話だが国立大学でAO入試が導入された際もここまでの衝突はおこらなかった。学力を担保できるのかどうかについて危惧する声はあったが、センター試験を課すということで一定の水準が保たれるという理解を得られたのだろうか。最高学府のひとつとかぞえられる慶応大学SFCについてはその存在や入試のスタイルが揶揄されることはあるが、設立時に在学生と卒業生が暴動をおこしたという話は聞いたことがない。設立より20数年を経た現在では卒業生が様々な分野で活躍しており、認めざるを得ない状況にあるのかもしれない。

しかし、いずれにしても当初より「歓迎された」ということはないにせよ、「さほどの興味を惹起しなかった」ということなのだろう。

「全入時代」と称されるほどに大学が乱立し、学士号を得ようとする人口の多いことを鑑みるまでもなく、日本は韓国ほどではなくとも学歴社会であることは間違いない。高学歴者の率が高ければ高い場所ほどそれは顕著だろう。ただし、この乱立の影響が問題なのである。

規制緩和以前であれば大学へ進学するような学力を保持していない層をターゲットにしたために、到底、大学で教えるような内容ではない授業が実施されたり、また、そういった大学とは言えないような大学へも補助金を出すのと並行するように高等教育を実施している大学への補助金がカットされるなどの問題もある。

だがここでは別の話をしたい。

「全入時代」、全員が大学へ進学する(ことが可能になる)とはどういうことか。

これは本来であれば大学へ進学する条件を持たない層も進学せざるを得なくなるということだ。

つまり先述のように学力はもちろんのこと、金銭に余裕の無い家庭の子息であっても、求人に「大学卒」を条件にしたものが増えると奨学金を借りてでも進学せざるを得ない。

たとえ家庭に余裕が無くても本人に学びたいことがあり、卒業後の返済を視野に入れ奨学金を借りて進学する、というのであれば全く問題は無い。これが本人の学びの意欲は乏しい、家庭に余裕も無いのに就職を考えると借りるしかない、しかもいわゆるFランを卒業したところで就職できるのは若者を食い潰すブラック企業や極めて賃金の低い小企業・零細企業であったりすると返済も覚束なくなる。さらに、昨今問題になっているが、日本学生支援機構の奨学金を借りるには連帯保証人を立てる必要があり、本人の返済が滞った場合、その責任は(ほとんどの場合、連帯保証人である)親にいくことになっている。授業料の支払い能力が無かったからこそ奨学金を借りるのであり、それを利息を付けて返済を求めるというのは完全に本末転倒である。

先ほどは「乱立の影響」と述べたが、これがその結果なのか、または学士号の価値の低下によって乱立を招いたのか、恐らくはその両方のサイクルが噛みあった結果なのだろう。

就職率を上げることが大学の価値を上げることのように言われて久しいが、大学はそれに振り回されたり嘆いたりするばかりではなく、高等教育の在り方、学士号の持つ意味についてそれぞれの姿勢を明確に打ち出すべきだろう。

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