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もらいゲロ・スパイラル

電車に乗っている酔っ払いが吐いた。
それが麻里にかかり、彼女はもらいゲロを吐いた。
浩介は臭いにやられ、もらいゲロもらいゲロを吐いた。
さらに国吉、伊織、美波、卓也と、もらいゲロが連鎖してゆく。
嘔吐する音は1分以上続き、車両はゲロで埋め尽くされた。
隣の車両からも「おええ」と声がこだまする。
もはや誰が誰にもらい、誰に与えているか分からない。
同時多発玉突きエンドレス・ゲロ。
初めは小さかった不幸が、ドミノ倒しのように止まる事なく拡大してゆく。

「ごめんなさい」
「私ハンカチ持ってます」
「俺の部分まで拭いてくれてありがとう」
「とんでもないです」

無言でスマホを触っていた人々の間に会話が生まれた。

「あたしもカツカレーです」
「その喋り方、地元東北ですか?」
「このハンカチのブランド、僕も好きです」
「え、同じ駅ですね」

掃除が終わると、何人かは連絡先を交換していた。
何人かは肩を組んだ。
何人かは手を繋いで降りた。

同時に不幸を味わってしまったけれど、助け合い、乗り越えることで縁や愛が生まれる。
確かにあの日、あの時、あの場所いたから、同じ災害に巻き込まれた。
苦しかった境遇は、時間とともに必要だったことに気がつかされる。
その運命を背負ってこれから共に生きてゆくのだろうか。

吐かなかった俺だけが、車両にポツンと取り残された。
「おえっ」
喉に手を突っ込んで見たけれど、ゲロはこれっぽっちも出なかった。


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嬉しい!少年の頃、カブトムシ見つけた時より嬉しい!
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ファビアン@1分小説

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