2019年3月第3週の報告ーー漫画『セックス依存症になりました。』・映画『スパイダーバース』etc

近況など
どうしても長くなってしまう。
目次をつけたので任意のページに飛んでもらいたい。

見たもの・読んだもの
漫画:津島隆太『セックス依存症になりました。』(ウェブ連載漫画/週プレNEWS)1~45話(最新話)
映画:『スパイダーマン:スパイダーバース』
・ライブ:「ゾンビランドサガLIVE フランシュシュみんなでおらぼう」ライブビューイング
・あとは『新記号論』『新哲学対話』『小説のストラテジー』などをちょこちょこ。

■津島隆太『セックス依存症になりました。』

はじめに
 以前話題になっていたときに1話だけ読んだ記憶があるんですが、そのときはまだ、この話がどういうものなのか分かっていませんでした。今回不意にタイムラインに流れてきた最新話(45話)を読んでから、これは依存症の治療記録をレポートしたエッセイ漫画に見えながらもっと広い間口で描こうとしているものだとわかり、そこから連載を読んでいる方の後押しもあって1話から最新話まで一気に読みました。初めに読むときは12話あたりまで一気に読むのがおすすめですね。
 一言でいうと「セックス依存症×ラブコメ」漫画です。「セックス依存症ラブコメ」っていうのは自分で勝手にそう呼んでいるだけなんですが、「好きな異性と付き合いたいのに他の障害があってストレートには付き合えない」というラブコメの形式を踏襲しながら、物語上の障害を「セックス依存症」に代入して描いている作品なんですね。主人公は依存症によって未来を信じられた女性との関係を壊してしまうし、治療中なのに異性に手を出しそうになる。物語の最新話に近い話(後述する4のパート)では、セックス依存症同士の恋愛が描かれようとしてますが、お互いに相思相愛であっても性の欲望をコントロールしながらでなければ関係を続けられないという難しさが描かれている。著者が女性が好きなだけあってヒロインが可愛いということも主人公の欲望と葛藤を読者が追体験できるという意味では秀逸です。形式と内容が一致している。

構成
 大きく分けると以下のようになります。
1)心療内科受診編(1話~12話)
2)グループセラピー編(13話~27話)
3)自助グループ編その1(28話~39話)
4)自助グループ編その2(40話~現在)

それぞれを簡単に紹介しましょう。
(1)心療内科受診編
 物語は主人公・津島隆太が女性に暴行された状態で心療内科を受診し、セックス依存症と診断される場面から始まります。ここで衝撃的なのは性依存症のハードルの低さです。ずっと性について考えていたらすでに性依存症である、と言われており、他人事ではない気持ちになります。医師はカウンセリングによって津島にセックス依存症の「自覚」を促し、自分が暴行されても相手を悪く思えないことに自尊心の低さを指摘します。彼の場合、低い自尊心の原因は幼少期の虐待経験でした。そこでEDMRという催眠療法によって虐待経験を治療していくことになります。治療を数ヶ月続けていくと、津島自身も抑圧していた新たな虐待の記憶が蘇ります。激しいフラッシュバックと記憶の受容。ここで津島の治療は一つの区切りを迎えます。
(2)グループセラピー編
 ここでは、自分とは境遇の違う性依存症患者の集まる院内グループセラピーの様子が描かれます。そこには売春依存症の老婦人、露出依存症のギャル、痴漢依存症の男性、津島と同じくセックス依存症の若い女性などがおり、初めは「こんなやつらとは違う」と抵抗感のあった津島も他の依存症患者たちの話を聴いていくうちに共感を抱きはじめ、心を開いていきます。
(3)自助グループ編その1
 津島はグループセラピーで出会った、津島と同じくセックス依存症の患者「グリーンさん」に誘われてセックス依存症の自助グループに参加することになります。教会で行われる自助グループの集会は「神」や「祈り」などの言葉が出てくるため、当初津島は違和感を覚えながら通っていくことになります。しかしそんななかで、津島はSNSで出会った女性と付き合うことになったことが明かされます。その女性と付き合うきっかけも、津島から彼女を押し倒すという依存症の「耽溺」によるもので、彼はまたも依存症を繰り返してしてしまう瀬戸際までやってきます。「耽溺」による誘惑と理性のあいだで葛藤しながら、彼女に自分が依存症であることを打ち明けますが、拒絶されてしまいます。
 傷つき絶望した津島が自助グループでそのことを話すと、中心メンバー「セブンさん」から「神」を信じることを提案されます。セブンさんは信仰の対象は「神」でなくても「のら猫」でもいい、しかし神は「ブレない」し「負担も押しつけ放題」だから便利であり、「本当に精神がやられてしまいそうな人への救済装置」だ、と言います。(38話)
 無神論者で宗教についてのイメージもうさんくさいと思っていた津島ですが、いざ依存症の「悪魔のような誘惑」に晒されると、それに対抗するために信仰をプラグマティックに利用している自助グループの試みは合理的だったのだと気づきます。
(3)自助グループ編その2
 自助グループに新たに援助交際をしている女子高生が参加します。彼女は父親から性的虐待を受けながら他の家族のサポートも受けられず学校で孤立していたところ、売春によって親の世代の男から金を取ることで自尊心を満たしていました。表面上は自分から売春を望んでいるように振る舞っていますが、津島がストレートに意見すると人格の歪み(解離)が露わになり、彼女もまた無理をしていることが明らかになります。少女の姿は津島とグリーンさんの過去を思い起こさせつつ、まだ二人のように「底付き」(依存症によって社会的に破綻する経験)を迎えていないため楽観的に振る舞っていますが、いずれ迎えるであろう悲劇のことを考えると(少なくとも津島は)他人事ではない。そんなところで最新話は終わっています。

まとめ
この物語の要点は以下ですね。
・誤解されやすい依存症の実態をゼロから描いていること
・依存症はこわい
・最新の治療の案内になっていること
・それでいてルポ漫画ではなくエンタメとして読めるようになっていること
・依存症はこわい
興味があれば読んでみてくださいな。

■映画『スパイダーマン:スパイダーバース』

はじめに
 あまりにも最高だったため一週間で二回も見に行ってしまった。正直もう一回くらいは見に行きたい。どう最高なのか。まず物語として、並行世界のスパイダーマンが出てくるお祭り映画の側面があり、それが少年の成長譚を軸にした継承の物語という本筋に分かちがたく結びついているところですね。日本版の予告編は後者に重きを置いています。https://youtu.be/rSfrXXthnuQ
 映像的にも、アメコミ調や実写調など異なる媒体の表現を横断しながら見たことのないような映像が洪水のように押し寄せてくる。ロゴの段階から飽きさせないという驚異の映画です。やばい。

あらすじ
 序盤のネタバレになりますがあらすじを書いておきます。
 これはマイルス・モラリス(吹替:小野賢章)というアフリカ系+ヒスパニック系の少年が、ピーター・パーカー亡き後のスパイダーマンとして独り立ちする物語だ。師匠になるはずだったピーターを目の前で亡くしてしまったマイルスは、既製品のコスプレスーツを身につけて、スパイダーマンのコミックを参考にしながら先代のようになるべく修行する。しかしお話の中のようには上手く行かずに落ち込んでいると、ピーター・B・パーカー(吹替:宮野真守)という、中年になって人生に不全感を抱いていてる並行世界のピーターと出会う。彼はマイルスの世界のピーターとは違って面倒見はよくないのだが、なんだかんだでスパイダーマンなので能力は確かであり、マイルスは彼とコンビを組み、先代のスパイダーマンと結んだ「約束」を果たそうとするのだが--。

ヒーローの孤独と苦悩
 マイルスが「自分らしさ」や「どうしたらスパイダーマンになれるのか」について迷っているのと同じように、並行世界のスパイダー(ウー)マンたちも悩みを抱えている。ピーター・B・パーカーは人生に挫折感を覚えていてヒーローであることに対してポジティブになれない。もうひとりの主要人物、並行世界のスパイダーウーマン:スパイダー・グウェン(吹替:悠木碧)はヒーローとしての苦悩を共有する仲間がいないことに孤独感を感じている。そんな彼ら・彼女らのヒーローゆえの苦悩も、マイルスのドラマと平行して解決されていく。これは見ようによってはマイルスがこの先でぶつかるであろう障害を一緒に描いているとも言えますね。

信じて、飛べ
 終盤、ピーターBがマイルスにかける言葉、「あとは勇気だけだ。信じて、飛べ。」というフレーズがこの映画を象徴している。コピーに使ってもいいくらいに良い。「信じて、飛ぶ」勇気をもっているのがヒーローだ。ピーター・B・パーカーはかつての自分を思い返しながら、いまの自分を鼓舞するようにこの言葉をマイルスに投げかけたのだと思う。誰を信じるのか? それは自分自身であり、同時にどこかで誰かのために闘っているヒーローという存在そのものだ。他の誰かを、自分自身を信じて飛べ。それが勇気であり、ヒーローの在り方なのだとこの映画は力強く訴えかけてくる。同時にこの映画がなぜこれほど高い品質で作られ、高度な試みに成功しているのか腑に落ちた気がする。これは、かつて勇気を出すことや信じることそのものを信じさせてくれたヒーローとその生みの親への恩返しとして、あるいはその意思を継承するという強い使命感をもって作られた作品なのではないか。いや、そうに違いないのである。
生きることに対する勇気をもてましたね、観ていて。

■「ゾンビランドサガLIVE フランシュシュみんなでおらぼう」ライブビューイング

・久しぶりにライブに参加したら楽しかった。誰かが言っていたけど、合間合間に映像が流れる総集編劇場版みたいな構成だった。
・ライビュは初めてだったんですが、もっと音が大きかったら没入感があって良いかもしれない。
・映画館だけあってホスピタリティがよく、中座するのも楽なのでストレスフリーなのがよかった。
・「あにてれ」という月額登録制配信サイトでライブ夜の部のアーカイブが公開されているので興味があるかたは観るといいですよ。
https://ch.ani.tv/titles/914
・本編も各種配信サイトでも配信中です。ゾンサガもスパイダーバースと同じように「一人じゃないよ」「勇気を出そう」ということについて描いている傑作なんですよ。最終盤で無気力感(やる気が出ない)という大きな問題に取り組んでいるのが個人的に高ポイントでした。

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