山口戦の備忘録-2周目-

前回対戦

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スタメン

El Golazo

 互いに長いボールを使ってダイレクトに相手最終ラインに迫ろうとする立ち上がり。岡山はFW(ヨンジェ・山本)を山口のSB(前・石田)の背後に走らせる形を取り、山口はWG(主に田中パウロ、以下パウロ)に展開して仕掛けさせようとする形を取っていた。大雨の影響からか、お世辞にも良いとは言えないこの日の維新みらいふスタジアムのピッチコンディションであったため、立ち上がり特に山口は、後方から繋ぐことのリスクを考慮していたのかもしれない。

 立ち上がりの狙いが奏功したのは岡山の方だった。7:03、関戸からヨンジェを右サイド奥に走らせるロングボールからスローインを獲得。そのスローインからヨンジェがペナ内に折り返し、ペナで関戸⇒上田⇒増谷と繋いで増谷がクロス、逆サイドの仲間がバイシクルで叩き込んでゴラッソ。もちろん今節のDAZNベストゴールにノミネートされました。

球際⇒トランジション勝負で主導権を握る岡山

 立ち上がりの10分でスコアが動いた試合。山口はCB2枚(楠本・菊池)とアンカー(高)を中心に後方からのボール保持の姿勢を強めていこうとする。おそらくこちらが本来の姿だったのだろう。
 山口の狙いとしては、①CB2枚とアンカーの三角形のパス交換で岡山第一ライン(ヨンジェ・山本)の守備をボカす⇒②SB(前・石田)のポジションを浮かしてオープンな状態(≒前を向いて自由に展開ができる状態)を作る⇒③IH(三幸・佐々木)が岡山第二ラインの背後でSBからのパスを受けてボール前進を行うというものだったと推測。山口としては①の状態を作ることさえできれば、現状の岡山の守備であると②・③の状態は芋づる式に出来上がると考えていたはずである。実際そうだと思うし。

 しかしこの試合の前半では、肝心の①の状態を作ることに山口は非常に苦慮することとなった。言い換えれば、岡山の第一ラインの守備が良く機能した。
 山口がゾーン1でボール保持の状態になると、岡山の第一ライン(ヨンジェ・山本)は山口のCB(楠本・菊池)に対して強く詰めに行くのではなく、ヨンジェと山本がアンカー(高)へのパスコースを消すことを優先しているようであった。仮にアンカーに入ったとしてもパスを出す向きを制限させる寄せ方をしていた。特に山本のアンカーへのカバーシャドーは非常に巧みであった。そのため山口のCBはある程度ボールを持つことができてはいたが、そこからドライブをしたり大きな展開をしたりする工夫に欠けていたので、山口はゾーン1でのボール保持で手詰まりになってしまっていた。岡山は第一ラインの2枚で山口のビルドアップ隊3枚を見ることができていたということである。

 山口がゾーン1で手詰まりになれば、我慢できずにSB(前・石田)であったりIH(三幸・佐々木)であったりが下がって出口になろうとする。岡山はそうなったところに狙いを定め、SBにはSH(仲間・関戸)、IHにはCH(喜山・上田)が詰めに行くようにしていた。ミドルゾーンで取り切れればヨンジェと山本に山口の最終ラインの背後(=具体的にはCBSB間の背後)を狙わせるトランジション攻撃に移行、取り切れずともアバウトに蹴らせれば後方で回収できるという守備の形を取ることができていた。10:30には三幸から上田がボールを奪い、そこからヨンジェを走らせて最終的には自分がゴール前に詰める、非保持⇒トランジションではベストに近い形を見せていた。

前半の岡山のボール非保持時の振る舞い
①ボール奪取のターゲットはゾーン2で山口の中盤が後ろを向いて受けに下がった時
②その状況を作るため、岡山第一ライン(ヨンジェ・山本)は山口アンカー(高)へのカバーシャドーを行いながら、CB(楠本・菊池)からの前進を阻害する⇒岡山の第一ライン2枚で山口の後方3枚を防ぐ形を作る
③第二ライン以降の選手たちは山口ボールホルダーへのプレッシャーで出遅れない⇒有馬監督以下チームとして強調していた「球際勝負」

 このように岡山がボール非保持時の振る舞いでゲームの主導権を握ると、15分辺りから徐々に回収した後のボールを保持できるようになる。岡山は山口の最終ラインの背後を狙う形は最優先にしてはいたが、そればかりだと必要以上に上下動を続けることになるので、一度CH(喜山・上田)に預けてボール保持を企てる回数を増やしていった。
 前述のように岡山が立ち上がりからダイレクトに山口の最終ラインの背後を狙う頻度が高く、本来は山口も高い位置から人数を合わせてハイプレスで行きたかったのだろうが、無駄追いになってしまうので一度ラインをハーフまで下げて対応しようとした山口側の非保持時の事情も多分にあったと思われる。

 岡山が自分たちでボール保持をして時間を進めようとした15~30分のフェーズで、特に機能していたのが喜山と仲間であった。4141で守る山口の第一ライン(工藤)の背後に上田とともにポジショニングしていた喜山は、CB(田中・濱田)からボールを引き取ると上手く前を向いてサイドへの展開であったり、縦への展開であったりでボール前進を行っていた。そして仲間は、山口の第二ラインの背後でボールを受けると山口の選手を引き付けるようなキープをして味方をフリーにすることができていた。
 この2人が機能した象徴的なシーンが19:35、山本が左サイド奥に抜け出してヨンジェにクロスを入れるまでの展開。喜山が濱田からボールを引き取ると、ターンして山本に縦パス⇒山本の落としを受けた仲間がゾーン2中央でキープし味方が上がる時間を作り⇒仲間から廣木に展開、パラの動きで抜け出した山本がクロスを入れるという一連の流れである。
 ダイレクトに山口の最終ラインの背後を狙うプレーを織り混ぜながら山口よりは効果的にボール前進を行っていた岡山だったが、最後の部分で菊池や楠本に守られており、決定的な場面はそこまで多くはなかった。

 それでも前半は立ち上がりからほとんどの時間を上手くゲームを進めることができていた岡山であったが、35分過ぎから山口がボール保持時の動きに工夫を加えることで徐々に主導権を握れるようになる。アンカー(高)が列を下りる動き(≒サリー)を増やし、IH(特に三幸)も同様に列を下りる動きを意識的に行うようになっていた。これによってそれまでハッキリしていた岡山の第一ラインの基準点が徐々にズレるようになり、SB(前・石田)にSH(仲間・関戸)が詰めに出るのが遅れ、山口はSB(主に前)からフリーで展開できる形を徐々にではあるが作れるようになっていた。

仲間半端ないって(今更?)

 後半立ち上がり最初は、前半終盤にボール前進の手応えを得た山口が押し込む形。三幸が意識的に右サイドの下がり目にポジショニングする動きから前が高いポジションを取り、右サイドでオーバーロード(≒意識的に同一サイドに人数をかける)を行って前進を図る。岡山は、山口のSBに対してSHがマンツーマン気味に付いて対応、中央を無闇に空けずにしようとしていた。52:50には、山口の右サイドでのボール保持から三幸が左サイドに展開、石田のクロスに佐々木が飛び込む形を作る。サイドでのオーバーロードに逆サイドへの展開を加えることで、岡山を外から切り崩すという方針が固まった後半の山口。

 しかし佐々木のシュートの直後53:20からのプレー、一森のゴールキックから上田がセカンドボールを回収⇒ヨンジェを右サイド奥に走らせるパスからヨンジェが抜け出しペナに侵入⇒ヨンジェのシュートのこぼれ球を山本が拾う⇒仲間がドリブル~シュートで0-2と岡山がリードを広げた。
 この試合岡山がマイボールにしたときの第一優先は、常に山口のCBSB間の背後を狙うことだった。それをチームとしてしっかりとパスを出した上田も、抜け出したヨンジェも理解していたことがハッキリとうかがえるゴールでもあった。
 そして相手の動きを見て剥がすことができる、次のプレーを考えたドリブルで楠本・前のブロックを無力化してシュートコースを自ら作った仲間の個人能力の高さである。あそこで1つタメを作ったのは素晴らしい。仲間半端ないって。

 0-2とリードが広がった岡山。後半の非保持時の振る舞いは、山口のSB(前・石田)の高さに合わせてSH(仲間・関戸)がポジション調整、WG(パウロ・山下)にはSB(廣木・増谷)がマークに付き、中央へのボールはCH(喜山・上田)とCB(田中・濱田)で迎撃態勢を取る形。プレスラインは前半と比べて低くなったものの、ボールホルダーを掴まえてからのトランジションへの移行は60分くらいまでは継続できていた。

オープンからサンドバッグへ

 58分に山口は佐々木→高井。山口はこの交代で433から442にシステム変更。高井が左SHに入り、三幸が高と2CH、山下が工藤と2トップを組む形となる。岡山は山口のシステム変更に乗じてマッチアップしやすくなることから前プレを敢行して一気に流れを岡山に向けようとしたが、体力的に厳しくなっていたのかプレッシャーがかかり切らず、かえって山口にオープンスペースを与える格好となってしまっていた。

 山口はSBを高い位置に上げてSHと2枚でサイドの高い位置に起点を作り、サイドへの展開を増やそうとしていた。そしてFWを2枚にすることでサイドからのクロスのターゲットが増える形となっていた。その形が早速実ったのが61:25からのゴールシーン。
 左サイドでの山口のスローインから三幸が右サイドに展開、右ペナ角まで上がった前のクロスに工藤が頭で合わせて1-2。

 ここからゲームは80分ごろまで両ゴール前を行ったり来たりするオープンな展開となっていくのだが、そうなった理由についていくつか考察。

岡山非保持⇒①:前半から強度高く行っていたボールホルダーへのプレッシャーの強度低下 ②:山口SBが高いポジショニングをするようになり、SHが下げさせられるようになる
岡山保持⇒岡山非保持②の理由によりボール回収後時間が作れなくなるようになり、背後へのボール一辺倒になる
山口保持⇒①:442へのシステム変更から、SH・SBでサイドの高い位置で起点を作れるようになる ②:岡山非保持①の理由により後方でのプレッシャー・パスコース制限が低下、後方から横に大きな展開ができるようになる

岡山は64分に山本→中野、山口は66分にパウロ→池上と攻撃のカードを切る。オープンな展開を利用したチャンスが両者に訪れるが、両ゴール前を行ったり来たりするアップテンポな流れはどちらかと言えば山口のペースと言える。

 80分を過ぎると岡山はプレスラインを明確に自陣深くに設定。追加点よりも1点差死守にシフトチェンジ。ある程度サンドバッグになることを受け入れる形に。それに伴い第一ラインも縦関係に変更。中野をSH(仲間・関戸)が外に引っ張り出された時のカバー、サイド深い位置に展開された時の蓋役にする。とにかく最終ラインとCHを中央で構えさせたい岡山。
 岡山は89分にヨンジェ→ジョンウォンで5バックに変更。山口はゴール前に籠城する岡山に対して菊池を前線に上げてのパワープレーを敢行するも、94:15の高井のシュートは途中出場の武田将のブロックに遭い得点ならず。最後の場面でギリギリで決壊しなかった岡山が2-1で勝利した。

雑感

・山口は前回対戦同様、中盤と連携しながら前が高いポジションを取って攻めて来た時が一番怖かった。前半はほとんどの時間帯でその形を許さなかった、前半の岡山の非保持時の振る舞いが最後に凌ぎ切る時間を与えてくれたのかもしれない。

・そんな岡山の非保持時の振る舞い。この試合の週のコメントを見ると有馬監督以下選手たちが口をそろえて「球際勝負」「目の前の相手とのバトル」と言っていたが、特に前半はボールホルダーに自由を与えないプレッシャーをかけることでこれらの言葉を体現できていたのではないだろうか。何のための「球際勝負」なのか、自己満足にならずしっかりと相手を見て振る舞うことができていたのが良かったように思う。


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