長崎戦の備忘録

スタメン

前半

 スタメン図で見てもわかる通り、442同士システムが噛み合ってしまっている両者。こういう時の立ち上がりは、得てしてシンプルなロングボールの蹴り合いからセカンドボールをどちらが拾えるかという主導権の握り合いとなることが多い。この試合もそんな立ち上がりとなったのだが、立ち上がり15分の主導権を握ったのは岡山だった。岡山はセカンドボールを回収してのカウンターや高い位置でセットプレーを獲得することで、シュートチャンスを得ることに成功していた。

 岡山が立ち上がりの主導権を握る事ができた理由は大きく2つ。1つはセカンドボールへの反応で長崎を上回る事ができたため。特にミドルゾーン(主にゾーン2のセンターライン付近)での差が顕著で、岡山の武田・関戸の両CHが長崎の磯村・新里のCHを完全に上回る形となっていた。もう1つは前線のターゲットとそれと競り合うCBの質的優位の差。呉屋とイジョンホという長崎の前線は、ターゲットというよりは裏に走らせて、という選手。長崎が前線に蹴っても岡山の濱田と田中の両CBに簡単に跳ね返される。立ち上がり早々に裏に走れるスペースもない。一方で岡山の前線はヨンジェと赤嶺で、どちらもターゲットとして機能する選手。特に赤嶺はポジショニングが良く収まりどころとして機能していた。

 ロングボールの蹴り合いではどうも分が悪い長崎は、最終ラインの徳永と高杉からポゼッションによるビルドアップを行おうとするが、岡山はシステムの噛み合わせを利用してボールホルダーを積極的に掴みに行く。長崎はサイドの低い位置に磯村や新里が落ちて起点になろうとしていたが、ボールを受ける動きの乏しさやパススピードの遅さもあって岡山のプレスを受けてしまい、結局後方からロングボールを蹴る形となることが多かった。SHの大竹と吉岡もあまり攻撃に関わることの少ない前半となった。

 15分を過ぎると長崎が守備を修正。長崎の第二ラインのポジションを下がり目(最終ラインと近い距離を取る)にすることで、岡山のロングボールからのセカンドボール回収に対抗する形を取るようになる。元々長崎の第一ラインからのプレスが強くなかったので、最初から15分が過ぎたら442で撤退するというプランだったのかもしれない。ともかく長崎のこの判断によって、岡山は前線へのダイレクトな展開を減らし最終ラインからポゼッションによるビルドアップを増やしていくことになる。

 岡山のポゼッションによるビルドアップは、ここ数試合武田や関戸が最終ラインに落ちる形が多く見られていたが、この試合では左SBのジョンウォンが濱田・田中と3CBを形成するという形になることが多かった。廣木の体調不良というアクシデントで急遽左SBで起用されたジョンウォンは、TRで何度か試されていたようだが公式戦ではもちろん初めてのSBでの起用。あまり攻撃時に上下動させないで、なるべく普段の景色のままでプレーさせようという有馬監督の意図がうかがえる。逆サイドの右SBの椋原は右大外に高く張ることが多く、普段は左HSまで絞ることの多い仲間も左大外に張る形を取っていた。

 椋原と仲間が大外に張る形を取っていたのは、長崎の守備の狙いどころを突く意図もあった。長崎のSBである香川と亀川は、対面の相手に釣られる傾向があり、背後のスペース管理が上手くない。そこで椋原と仲間を大外に張らせてSBを引っ張り出してチャンネル(CB-SB間のスペース)を広げて、そこをヨンジェや赤嶺が狙ったり、右サイドならSHの久保田、左サイドならCHの片割れが狙ったりしていた。なお岡山のボールの回りは右サイド回りが多かった。岡山はヨンジェや赤嶺のチャンネルランからのクロスや、一度サイド奥で起点を作っての後方からのクロスで長崎のペナ内にボールを入れる場面を多く作っていた。最後の局面で徳永や高杉に跳ね返されてしまっていたが、形としては決して悪くない岡山。

 岡山優勢で進めていた前半は岡山のリードで折り返すことになる。得点が入ったのは43分、全体が右サイドに寄ったゴールキックから一森が左大外に余った仲間にパス、仲間がそのままゾーン3までドリブルで運びクロス、このクロスがそのまま入って岡山が先制に成功した。斜めにゴール前に入るランニングで富澤のブラインドになった赤嶺の働きも見逃せない。ちなみに一森のゴールキックのプレーは愛媛戦でも見られた形。明らかにデザインされたセットプレーであった。

後半

 ハーフタイムに手倉森監督から相当キツく言われたのか、後半は立ち上がりからセカンドボールへの出足が良くなった長崎。ゾーン2でのセカンドボールを積極的に回収して岡山のゴール前に迫る形を作る。SHの大竹と吉岡が中央でプレーする回数が増え、前半には見られなかったドリブルでの打開を試みる。大竹は自身のドリブルから得たFKで惜しいシーンも。またボール保持時でも、なかなかボールを引き出せないCHに代わってSHの大竹と吉岡が中央でビルドアップの出口となり、SBの香川と亀川も前半以上に攻め上がりを増やしてサイドから起点を作って押し込んでいこうとする長崎だった。

 しかし先に点が入ったのは岡山。54分、自陣深くでボール奪取した仲間が、攻め上がった長崎の左サイド奥を自ら突いて起点となり、椋原とのコンビネーションで右サイドを攻略、椋原のクロスに仲間が頭で押し込んで2-0とした。

 このゴールは2つの意味で素晴らしい攻撃の形によってもたらされたゴールだった。1つは、サイドで起点を作った仲間の動き。これは後半よりアグレッシブに来るであろう長崎がSBを上げてきたところで、その裏を狙うということがチームで共有されていた。この得点シーンの前にも久保田が狙っており、得点の後も頻繁にヨンジェが狙っていることからもチーム全体で共有されていると言って良いだろう。

 もう1つは得点自体の形。仲間が右サイド奥を狙うも長崎が帰陣して一度攻撃がスピードダウンした後、仲間・椋原・武田でポジション調整をしながらパスを動かし、仲間が右HSから中央へドリブルで侵入、大外をオーバーラップした椋原にパス、そのまま仲間はゴール前に入り椋原のクロスを受けたこの形は、チームとしてのボールの運び、人の動きが共有された素晴らしい形だった。大外~HSを使って相手陣地を攻略していく形は、まだ数少ないもののどの試合でも輪郭として見えている形でもある。再現性を持った形に昇華していきたいところである。

 追い付くはずが追加点を奪われてしまった長崎は、57分に畑と翁長を投入。大竹をCHに入れる攻撃偏重のシステムへ変更。直後の59分には、セカンドボールを連続して回収してからの亀川のクロスに呉屋が合わせるも一森がセーブ。システム変更でCHに起用された大竹は、それまで収まりどころのなかった中央での収まりどころとして機能。岡山の選手がプレスに来ても簡単に奪われずに打開できるプレス耐性の高さを見せていた。また、大竹が岡山の中盤を引き付けるポジショニングから、岡山の第二ラインの背後で吉岡や翁長が受けるシーンも見られるようになった。

 前述の流れから、ゾーン2でボールを止めるのが難しくなった岡山は442で撤退して守る形に。これによって全体を押し上げることができるようになった長崎は、中盤で大竹がゲームを作りつつ、前線の呉屋と畑を裏に走らせるボールを使いながらセカンドボールをより高い位置で奪えるようになり、サイドで高い位置を取ってからのクロスとセカンドボール回収からの2次攻撃で岡山を押し込んでいく。しかし岡山も濱田と田中を中心に粘り強く対応。徐々に攻め上がった長崎の背後を突く攻撃で時間を作ることもできるようになっていった。一方で押し込むが詰めきれない長崎は74分に長谷川を投入、呉屋・畑・長谷川を3トップにして、大竹と翁長がインサイドに入る433に変更。76分には右サイドに流れた大竹から亀川のクロスに呉屋が詰めるも一森にキャッチされた。

 次の得点はまたしても岡山に入る。77分、前述の一森がキャッチした流れから、亀川の攻め上がったスペースを突いた仲間に一森が素早くスローイン、そのまま長崎ゴール前までドリブルで運び赤嶺にパス、折り返しをヨンジェが詰めて3-0。この得点も長崎の攻め上がったSBの裏を突いてカウンターを仕掛けることをGKから前線まで、チーム全体で共有されていたからこそ生まれたゴールであった。

 3-0となって試合の趨勢は決まったかに見えたが、直後の78分、長崎の左サイド深い位置からのスローインの流れから呉屋が決めて3-1に。直接的には香川のクロスに目測を誤って被ってしまったジョンウォンのミスだが、その前に畑に左サイドを簡単に運ばれたことから生まれたスローインによる失点である。岡山は3点差が付いて少し気が弛んだところがあったかもしれない。ここから長崎は3トップにロングボールを多用するパワープレーに打って出る。

 一方岡山は失点直後の80分、赤嶺に代わって福元を投入。ここで仲間を左WB、椋原を右WBにして、田中・濱田・ジョンウォンの3CBとなる守備時541にシステム変更。長崎の3トップに対して3CBがそれぞれマッチアップする形となった。541への変更は失点してから急遽プランを変えたのか、そもそも福元投入時点でこうすることを決めていたのか。それは当然決断した有馬監督にしか分からないが、個人的には前者なのかなと思っている。

 このシステム変更によって自然と後ろに重心が下がってしまった岡山。何度か押し返そうとするが、前から規制をかける形を取ることができず、せっかくマイボールにしても自らのミスで失ってしまっていた。一方ゴール前に放り込み続ける長崎、90分にはパワープレーから得た大竹の右CKから畑がニアでそらしてファーで高杉が詰めて1点差に。最後までパワープレーを続ける長崎はラストプレーで富澤のロングボールから長谷川が繋いで最後は呉屋がシュート、しかしこれは仲間がブロック。ラスト10分のクロージングの危うさから甲府戦とか新潟戦とかの思い出も頭をよぎったが、どうにか凌いだ岡山であった。

雑感

・1点目と3点目の起点となったのはGKの一森。正しい判断でボールを供給できる、ディストリビューションの良いGKであることを改めて示すこととなった(ディストリビューションに関しては下記事参照)。少なくとも2つのファインセーブを含めると、2得点に絡み、2失点を防ぐ。4点の利益をもたらしたのだから文句なくこの試合のMOMだろう。

・赤嶺のコンディションが良化して帰ってきてくれたのはとてもありがたい。開幕当初はボールがなかなか収まらず、攻撃が停滞する要因になってしまっていたが、この試合ではしっかりと前線の収まりどころとして機能し、ゴール前での動き出しも鋭さが戻ってきていた。1点目の動きと合わせて実質2アシスト。前節の中野と含め「攻撃陣第3の男」争いに割って入りそうである。

・ラスト10分のクロージングについてはあえて触れません。あえてね。

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