鹿児島戦の備忘録

スタメン

トランジションで活路を見出だす岡山

 アウェーだからと言って様子見はしない鹿児島のこれまでの傾向から見て、後方からボール保持をする鹿児島に対して岡山がいかに前線からプレスをハメていくのか、という試合展開を試合前は予想していたが、立ち上がりから鹿児島は前線のハンヨンテに蹴っていく戦い方を選択していた。

 赤尾と水本の両CBをペナ幅まで広げてGKのアンジュンスがパス回しに参加する後方でのボール保持の形は持っていたが、そこからその前にいる八反田やニウドに繋ぐというよりはダイレクトにハンヨンテに蹴っていく形を取っていた。後方からのポゼッションによるビルドアップと見せかけて、岡山の守備を前に引き付けてロングボール⇒ハンヨンテ競ってからのセカンドボールを回収するスペースを作るという狙いがあったのだろうと推測。後述するがこの日の岡山の喜山と関戸のCHコンビは前に食い付く傾向が強く、思惑通りに岡山前に詰めに行ったところを鹿児島ロングボール⇒鹿児島セカンドボール回収⇒大外高くポジショニングするSBとハーフスペース~中央に絞った2列目の連携でゾーン3まで侵入、というシーンも見られた。

 しかし立ち上がりからの鹿児島のこの戦い方は、どちらかと言えば岡山に恩恵をもたらすことが多かった。それは岡山が縦に速いトランジションが連続するような展開を望んでいたためである。ロングボール主体であるとターゲットを絞りやすいこともあって、セカンドボールを回収されてもボールホルダーに強く詰める球際勝負をかなり意識した守備をしていた岡山であった。

 そして鹿児島からボールを奪い返すと、あまり躊躇することなく前線のヨンジェと赤嶺にダイレクトにボールを当てていく岡山。前半は右の椋原が起点となって蹴ることが多く、主にヨンジェが鹿児島最終ラインのブレイク、赤嶺が引き気味で前線の起点になることで役割分担をしていた。あまり後方でのボール保持に拘らなかったのは、喜山と関戸がCBからのパスを引き出す動きをほとんどしていなかったのもあるだろうが、前線の動き出しを見るに主体的、意識的に蹴っていた可能性が高い。
時間は前後するが、32:28~の関戸がゾーン1近辺でボール回収⇒鹿児島最終ラインの背後に飛び出したヨンジェにロングパス、GKと1対1という場面が生まれたのが象徴的なシーン。

 30分くらいまでは前述の流れから両者ともに縦に速く(どちらかと言えば忙しないと言った方が良いかもしれない)、前半のうちからオープンな状態になりやすい展開。そうなれば前線の筋肉で上回る岡山の方が若干優勢。ダイレクトな展開からSHの仲間と久保田も参加しての前プレ⇒それに喜山・関戸が詰めてセカンドボール回収、という流れで鹿児島を押し込む形も見られていた。

喜山の中盤起用の意図について

 前節から武田→喜山というスタメンとなった岡山。ミッドウイークに3-0で勝利した天皇杯の流れを尊重しての起用でもあるだろうが、自分はこの起用を「武田以上に後方でのボール保持に参加して、ボール保持をしたいはずの鹿児島からボールを取り上げることで主導権を握る」役割があるのだろうと思っていた。

 しかし実際には後方でのボール保持に積極的に関わる役割ではなく、相方の関戸とともに前線からのプレスに参加してのボール回収に重きが置かれる役割となっていた。互いにダイレクトな展開が目立った30分くらいまでは、前に食いついても問題ないシンプルな状況が多かったので、有馬監督のこの中盤起用の良い部分が目立つことが多かった。しかし30分以降、鹿児島の振る舞いの変化から逆に良くない部分が目立つようになってしまう。

列の移動で主導権を握る鹿児島

 30分以降、岡山の第一、第二ライン間にポジショニングする八反田がボールを引き取るプレーが増えるようになったあたりから、岡山の442のプレスがかからなくなっていった。岡山の前線からの守備は上手く行っているように見えたが、前節1-5というスコアで露見された、ライン間にポジショニングする相手をどう掴むのか、という問題点は解決されてはいなかったということである。

 加えて鹿児島は2列目の五領や枝本も列を下りる動きを見せるようになり、この動きに喜山と関戸が引き付けられたところでスペースのできた岡山第二、第三ライン間に酒本が入ってパスを受ける形から近い距離でのレイオフ連打、岡山の442ブロックを一度中央に寄せてから大外の砂森や田中奏に展開して横スライドを強要し、縦横に広げるボール保持で岡山を押し込むことに成功した。しかしシュートまで持って行けない鹿児島でもあった。

 鹿児島の変化によって岡山はゾーン2以前でボールを奪うことが難しくなり、縦に速いトランジションからのヨンジェや赤嶺が起点となる攻撃も単発に。こうなるとポゼッションで時間を作れず、仲間のドリブルによる前進でないと時間を作れないのが現在の岡山の悩ましいところ。41:15、中央でキープして、寄せてきたニウドを剥がして前進したシーンは見事であったが。

後半~上田が入るまで~

 ハーフタイムをはさんで鹿児島のボール保持に対して前から詰めに行くことを再確認した様子の岡山。これによって後半の立ち上がりは再び蹴り合いの様相。そして岡山は仲間が攻撃時には前半よりも高めのポジションを取ることで前線の起点を増やそうとする。仲間が高い位置で起点となってからの流れと、高い位置で奪っての流れから2度椋原のクロス⇒赤嶺でシュートシーンを演出するなど、岡山が主導権を握り返したように見えた。

 しかし一瞬の隙を見逃さず先制したのは鹿児島の方だった。55:45あたりから、田中裕の無理目の縦パスをカットしたニウドが関戸と接触⇒関戸のファールを取られたところで八反田がクイックリスタート⇒喜山の背後を取った酒本が前を向いてハンヨンテにスルーパス⇒抜け出したハンヨンテが落ち着いてゲット。岡山は関戸のファールに対するセルフジャッジでトランジションが遅れたことが致命傷となった。

 先制後の鹿児島は落ち着いてボール保持を行って時計の針を進めていこうとする。前半よりも砂森や田中奏のポジションを下がり目にして横に広く動かすポゼッションの頻度を高めつつ、前半同様の五領と枝本の列を下りる動きを入れることで、喜山と関戸の背後のライン間スペースを取る攻めを繰り返していた。

 66分に岡山は赤嶺→中野。ラインブレイクの役割をヨンジェと中野の2人に増やすことで流れを引き戻したい意図を感じる采配。68:55~久保田のスルーパスに中野が抜け出してシュートを放つという狙い通りのシーンもあったが、先制を許してからの岡山の攻撃は基本的にはかなりの手詰まり感が強かった。
 442気味で前から人数を噛み合わせて守る鹿児島に対して喜山と関戸の後方からのパスを引き出す動きの乏しさは前半と変わらず、中央を使えずに外に逃がされてからのクロス攻撃やジョンウォンがロングボールを蹴る形を誘導されるシーンが多かった。縦に速いトランジション攻撃ではニウドが広範囲で第一フィルターとなることで防がれていた。

後半~上田が入ってから~

 74分に岡山は久保田→上田。上田が喜山とCHを組み、関戸が久保田のいた右SHに入る形となるのだが、この交代が試合の流れを一変させることとなる。

 交代早々のプレーでバイタル中央でボールを受けると、右大外からペナ内に侵入した椋原の動きを見逃さずに浮き球のパスを出してチャンスを演出。さらに82:35には左CKからヨンジェのヘッドと、短い時間で高い次元のキックの精度を15,000人強の観客の前で見せつける上田。そして上田投入後の岡山は、ゾーン2中央で顔を出すアクションが増えたことで後方からの展開にバリエーションが生まれるようになる。中央からボールを動かす術を見つけた岡山は徐々に鹿児島をゴール前に押し込んでいく。

 個人的に上田のプレーで見逃せなかったのが80:35からのミドルゾーンでの守備のプレー。パスミスをカットした八反田に対して素早く詰めることでコースを消す⇒詰められた八反田は空いている枝本にパスを出すしかなく、枝本に対して迷わず詰めに行くことのできた喜山と中に絞った関戸でボールをカット⇒関戸のロングパスに中野が抜け出してシュートという場面。この試合、前半の序盤以降ほとんど見られなくなっていったミドルゾーンでのボール奪取が上田投入によって復活したシーンであった。

 上田投入後10分足らずで決定機を3本作ったがいずれも決めきれなかった岡山。このままだとヤバいと現地で思ったその矢先に同点ゴール。83:40~のプレー、関戸が右サイドでのボール奪取を起点に仲間がドリブルでゴール前まで運んでFKを得ると、20mほどの距離のFKを上田が直接決めて同点。綺麗とか美しいとかいうよりもただただカッコいいという他ないゴール。

 岡山は立て続けに87分、右から椋原、左から廣木のクロス連打が実を結び、中野がペナ内で倒されPK獲得。PKを中野が自ら決めて2-1と勝ち越し。このPKの流れも上田が中央で受けての右サイドへの展開から始まっているところが見逃せない点である。

 試合はそのまま2-1で終了。15,000人強が集まった中での劇的逆転はリピーターを増やすにはもってこいの試合となりました。

雑感と前半戦を折り返しての感想

シュート数が13-3、更に枠内シュート数でも6-1とスタッツだけ見れば岡山が鹿児島を圧倒したと言える試合。決定機自体もこれまでの試合と比べても多く作れていたので、そういった意味では悪い内容ではなかったと言えなくもない。

・ただその決定機に至る過程に関しては良い内容だったとは言い難い。結局その決定機を演出したのはヨンジェの筋肉であり、仲間のドリブルであり、上田のキックであり、各個人の相対的な質的優位によるものがほとんどだった。各チーム恐らく対策を打っている中でもそれを自ら解決していくヨンジェや仲間、そして復帰早々に違いを見せた上田の活躍そのものは喜ばしいのだが。

・柏や大宮、横浜FCのようにその質的優位を更なる質的優位で打ち消してくるような相手や、水戸や山形のようにグループで質的優位を活かせるスペースを潰してくる相手に対してどうするのか。チーム全体でボールを保持して押し上げる時間を作れるようになるか、もしくはコレクティブなカウンターをどれだけ打てるようになるかが後半戦の攻撃のキーポイントになるだろう。

・そしてやはり気になるのが、442のライン間で受ける相手への対応。各ライン間に入れ替わり立ち替わり侵入する相手に後手を踏み続ける光景がこの試合でも見られてしまった。前節と違って鹿児島に前線の質的優位がなかった分、シュートまで持っていかれることはなかったが。各チームと総当たりして感じたのが、今季のJ2はこういう攻撃のギミックを持ったチームが本当に多い。442守備の宿命とも言えるこの問題点の解決を含めた442守備の練度を更に上げていかないと前半戦以上のペースで勝ち点を積み上げるのは厳しい。

・ただ前評判を考えると、勝ち点としてもゲーム内容としても、下(残留圏)ではなく上(PO圏)を十分に見据えて戦える現状を作れているは悪くない。怪我人続出の中でも「アグレッシブ」をお題目に、武田将平やチェジョンウォンを筆頭とした若い選手だけでなく、一森や関戸などの経験のある選手もプレーの幅を広げていけるチーム作りができている有馬監督以下のコーチングスタッフは相当良くやっていると思う。

・後はこの夏のマーケットで、あの選手(韓国人ストライカー)だったりあの選手(ゴリゴリドリブラー)だったりが引き抜かれないことを祈りましょう…。

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ファジスキー

百合は癒し
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