東京V戦の備忘録-2周目-

前回対戦

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スタメン

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いきなりの先制点

 キックオフから東京Vのポジションは誰がどこにいるんだ、そもそもこれは3バックなのか4バックなのかといろいろ考えているうちに早々にスコアが動く。
 3:09、増谷の濱田への何でもないバックパスがズレるとジャイルトン・パライバ(以下パライバ)が猛烈なプレッシャーをかけて濱田からボールを奪う。リヨンジがパライバからのパスを確実に決め、東京Vが早い時間帯に先制。僕ほどではないだろうが、ピッチ上の岡山の選手たちも、東京Vのポジションに戸惑っていたのかもしれない。岡山にとっては、落ち着く前にビハインドになってしまったのは「東京Vが後方からボール保持⇒前進を行う時間が長くなる中で、それを岡山がどう食い止めてカウンターにつなげるか」という戦前に予想される展開上痛いなと思われた。

両者のボール保持周り-side東京V-

 狙いとしている形かどうかは分からないが、幸先よく先制に成功した東京V。次第にボール保持時の陣形が見えてくるようになる。永井体制になってから後方は2CB+1アンカーがメインであったはずだが、この試合では3CB(内田・近藤・若狭)+1アンカー(山本)の4バック⇒3バックの可変システム。横幅は左がSBの奈良輪、右がWGのパライバが取り、右SBのクレビーニョは大外に出たり、山本の近くまで中に絞ったり、右サイドである程度自由なポジショニングを許されているようにも見えた。
 またIH(森田・梶川)はライン間で受ける動きだけではなく、頻繁にサイドに抜ける動きを入れることで岡山の第二ライン(特にCH)を外に引っ張り出そうとし、空いたスペースにリヨンジが入って縦パスを受けたり、パライバやクレビーニョが突っ込んでそこから仕掛けたりするのを狙っているようであった。

 このような東京Vのボール保持に対して岡山の非保持はどうだったのか。前から行きたいんだろうなという動きは随所に見られていたが、なかなか第一ライン(ヨンジェ・中野)からのプレスのかけ方が定まらないように見えた。2トップで最終ライン3枚を追いかけてみたり、2トップを縦関係(⇒中野を山本に付ける)にしてみたり、上田を山本に付けてみたり、試行錯誤の跡はうかがえたのだが、前線からの守備に関しては後述する給水タイムまではしっくり来てはいなかったというのが実情だった。

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 岡山の前からのプレッシャーがかかりきらなかったこともあって、ボール保持時はハーフラインを越えてボールを前進させることができていた序盤の東京V。
 それでは岡山はさぞ苦労したのかと問われると、実はそこまででも無かった。理由は「ハーフラインを越えてからは442セットでボールサイドにコンパクトにスライドする形を徹底することでそれなりに守れていた」というのが一点。もう一点は、「戦前の予想以上に岡山がボール保持をする時間ができていた」ということである。

両者のボール保持周り-side岡山-

 岡山の後方でのボール保持はCB(田中・濱田)とCH(上田・喜山)によるボックス型がベース。そこから適時CHがCBのポジションに列を下りる動きを入れて運んでいこうとする普段通りの形であった。これに対して東京Vの非保持は第一ラインがリヨンジとパライバの2枚で442ブロックで守るのだが、その第一ラインからのプレッシャーがほとんどかかっていなかったので、上田や喜山は東京Vの第一ラインの脇・背後のスペースでフリーな状態を得ることができていた。
 そこでフリーな状態を得ることができたCHからの供給でボールを前進させる形を作ることができていたので、通常は前述のボックス型にSB(廣木・増谷)が下がり気味にポジショニングしてサイドへのボールの逃げ道を作るのだが、この試合ではSBが序盤から高いポジショニングをすることが多かった。

 前半15分頃までの岡山のボール前進の手段は、ヨンジェ・中野・仲間をサイドに走らせ、そこにCHやCBからのロングボールを入れていく形がメインだった。ヨンジェ・中野は最初からサイドに流れるというよりは、東京VのCBSB間から走り込んでサイドに流れていく動きをかなり入れていたので、CB(近藤・若狭)をサイドに引っ張りたい意図があったのだろう。
6:00には上田⇒右サイドに流れた中野が起点になって、増谷のクロスにヨンジェが飛び込む形を作っていた。

 15分頃を過ぎると、岡山は田中が積極的に東京Vの第一ライン脇から持ち運ぶドリブルを行ったり、CHから横への大きな展開を交えたりすることでボール前進のバリエーションを増やしていこうとする。特に右サイドでボールを動かした後に左サイドにサイドチェンジする展開が多かった。
 左サイドに展開した後、廣木が大外にいるときは仲間がハーフスペースに、逆に仲間が大外にいるときは廣木がハーフスペースにポジショニングするようにしていた。SBとSHの連動で大外~ハーフスペースの攻略を狙っていこうとする岡山。東京Vは第一ラインからのプレッシャーが定まらないためにコース限定ができず、第二ライン以降もスライドが遅れる形となっていた。19:58には喜山から左ハーフスペースの仲間に縦パスが入ると(⇒このとき右SHは廣木に引っ張られている)、仲間からの展開で逆サイドの関戸がペナに飛び込む形を作っていた。
 このように、両者ともに相手のボール保持⇒前進をなかなか止めることができていなかった25分までの展開。しかし季節外れの暑さによって設けられた給水タイムでこの展開は一変することになる。

水飲んで、さあプレス

 給水タイム後の岡山は、非保持時の振る舞いを修正。まずトランジション(ネガトラ)はボールを失った後の即時奪回を強く意識。ボールに近い選手が複数で素早くプレッシャーをかけるようになっていった。そして前線からの守備は、東京Vの最終ライン3枚に対してSH(仲間・関戸)の1枚が第一ラインに上がっての433⇒442変換に固定。岡山が前からの噛み合わせ方を修正することで、東京Vはなかなかボール保持⇒前進の形を作れなくなる。本来ならば上福元に下げて繋ごうとする場面でも、前に蹴らされることが多くなっていた。

 一方で東京Vの非保持(⇒特に第一ラインからのプレッシャー)は給水タイムを挟んでも、リヨンジがCHにチェックに行くようになった程度で、修正されることがほとんど無かった。そのため給水タイム後も変わらずにボール保持⇒前進の形を作れる岡山は30分辺りから、SH(仲間・関戸)と中野が東京Vの第二ラインの背後でボールを受ける形を加えていくようになる。37:00頃には、仲間が東京V第二ラインの背後で受ける⇒右ハーフスペースの関戸に預けてキープ⇒オーバーラップした増谷のクロスに再び仲間が合わせようとする形を作るもわずかに合わず。

 非保持時の修正で完全に押し込む流れを作れるようになった岡山だが、上福元を慌てさせるような決定機には後一歩届かず。それでもラスト10分はボール保持からも、トランジションからもシュートまで持っていくことができるようになっていたので、このままいけば追い付き追い越せる、という希望を持った状態で前半を折り返す。

強度の高いプレスで押し込む岡山

 前半終了間際に山本と内田のポジションを入れ替えていた東京Vは、システムそのものを変更して後半に臨む。ボール保持時は梶川と内田が2CHとなって、3CB+2CHでビルドアップ隊を増やして岡山の前線からのプレッシャーを回避したい意図だったと思われる。

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 後半開始早々の46:40、トランジションで東京Vからボールを奪い返しに行った岡山。前半同様に2トップ+SH1枚が最終ラインにプレッシャーをかけていく。上福元に下げたらそこまで追っていく、前半以上にアグレッシブなプレスであった。
 第一ラインのプレッシャーに第二ライン以降も連動することで、東京Vのパスコースを限定⇒カットする場所を定めて奪う形を作れていた後半開始からの5分間は、東京Vがボールを持っても、ボールホルダーがたちまち岡山の選手たちに囲まれる状態になっていた。ここで試合を決めてしまえ、と言わんばかりの岡山のプレス強度の高さはおそらく東京Vの想定を超えていたのではないだろうか。

 前述のような状態(=岡山のプレスがハマっている状態)になっていたのは東京Vの布陣にも一因があった。ビルドアップ隊を増やして安全にボール保持⇒前進の形を作るために導入した2CHが、逆に岡山のCHにプレスの基準点を作らせる格好になってしまっていた。後半の東京Vのボール保持の始点は左CB(山本)からが多く、そこから逆サイドに展開できればまだ良かったのかもしれないが、右WBのはずのクレビーニョが大外を取る動きをあまりしていなかった(⇒パライバはシャドーで中にポジショニング)ので、岡山の陣形を広げるのも難しかった。

 そんな岡山のプレスは同点ゴールで報われる。49:45、①リヨンジが下がって山本からの縦パスを受けようとする⇒②リヨンジに田中が強く詰めることでトラップミス誘う⇒③流れたボールをカットして中野→仲間と繋いで仲間が決めて1-1に。
 ①の段階で山本に対して上田と関戸がパスコースをリヨンジへのコースに限定しており、田中も思い切って寄せることができたことで生まれたゴールであった。

 追い付いてからも岡山の強度の高いプレスは変わらずに続行。追い付いた直後の50:42には東京Vキックオフから、上福元へのバックパスに中野がプレッシャーをかける形からマイボールにすると、喜山→仲間→関戸と繋いでチャンスを作る。
 引き続き東京Vは最終ラインが岡山の第一ラインを突破することに難儀しており、仕方なくCHに預けたところを捕まえられる形が続いていた。このままではどうしようもないので59分に内田→新井の交代策を打つ永井監督。システムを433に変更し、横幅を使った攻撃を復活させたい意図か。新井とパライバで大外から仕掛ける形を狙おうとした。

 しかし交代してからのしばらくの間は岡山の時間帯が続く。あまり守備の上手くない新井(⇒増谷のポジショニングに釣られてしまう)のいる右サイドを起点にボール保持の時間を増やそうとしていた。右サイドに流れるヨンジェで奈良輪と近藤を引っ張り、増谷が新井を釣り出すことでできたスペースを関戸や仲間、そして中野が利用することでシュートチャンスを得ることができていた。しかし、60分にかけての仲間と中野の立て続けのシュートも枠を捉えず。ここで決め切っていれば、ゲームももう少し楽になっただろうが。

疲労を超えても走れるか?

 岡山の後半開始からの猛烈なプレスが落ち着きだした65分過ぎからは東京Vの時間帯。433変更後は2CB(近藤・若狭)+アンカー(山本)でボール保持する東京Vに対して、岡山はなかなか第一ラインからのプレッシャーがかからなくなってくる。ハーフラインを越えてボールを前進できるようになった東京Vは大外から右はパライバ、左は新井がカットインの形で岡山ゴールに迫る。
ゾーン3までボールを運ばれる回数が増えた岡山は、無理にラインを上げて奪いに行くのではなくSHを最終ラインまで下げて大外のケアを図る。68:45にはリヨンジ、73:57にはクレビーニョに決定機を与えるが一森のファインセーブで何とか耐える。78分には、体力的に限界が来ていた中野→福元で再び前線からの活性化を図ろうとする岡山。置かれている状況としては、引き分けでは終われない。

 苦しい時間帯を凌いだ岡山へのご褒美は82:17、ヨンジェを走らせる上田のロングパスから、ヨンジェが右サイドから中央へ折り返し、逆サイドから走り込んだ廣木→仲間と繋いだボールは一度クリアされるも、ゴール前に詰めていた上田がボレーを決めて2-1と勝ち越しに成功する。
 この試合の岡山は、特に後半は押し込んでからのサイドからの折り返しと逆サイドから詰める形をいくつも作っていた。一度下げられるとバイタル中央が空いてしまう東京Vの守備の問題を突くために、体力的に厳しい時間帯でも走り切ったヨンジェ・廣木・仲間・上田のそれぞれの頑張りが報われたゴールだった。(下動画4:15より)

 勝ち越してからの岡山は85分に関戸→武田、90分に増谷→椋原でゲームを閉めにかかる。福岡戦で451(4141)に変更して追い付かれたこともあって、この試合では武田が右SHに入る442のままでクローズしようとしていた。
 東京Vは87分に森田→澤井で442に変更。91分にはリヨンジ→カンスイルでサイドからのクロスを増やして何とか追い付こうとしたが、そのまま2-1で終了。岡山が何とか勝ち切ったゲームだった。

雑感

・ボール保持に拘る姿勢は随所に見えた東京V。ただ永井監督がコロコロポジションやシステムを変えているのに対して、ピッチ上の選手がそれに振り回されているようにも見えた。システムの奴隷になってしまっているというか。ボール保持も大事だが、第一ラインからの守備の形はもう少し手を加えないと厳しい気もする。

・コメントからもっとポジショナルっぽい(⇒序盤の京都っぽい)のかなと思ったが、どちらかと言えばミシャ式っぽく見えた東京V。ユース上がりの山本や森田はめちゃ巧い。攻撃能力は申し分ないがものすごくフリーダムなクレビーニョの使い道をどうするかで今後が決まりそうな気もする。

・前半早々ミスで先制を許す最悪のゲームの入りをしたにも関わらず、東京Vの守備の甘さにも助けられつつ徐々にペースを引き戻し、給水タイムでの非保持時の修正で主導権を完全に握った有馬岡山の修正力は立派。ボール保持で慌てて相手にボールを渡してしまうことも少なくなり、PO圏内を狙う中で自分たちの引き出しを増やしながら戦えているのが好印象。

・個人的にこの試合の勝敗を分けたシーンだと思っているのが、76:06~76:19の岡山のトランジションからの攻撃。梶川のパスミスから廣木→上田→仲間と繋いで仲間がシュートまで持って行くのだが、梶川のパスが廣木に渡ったときに、近くにいた山本もクレビーニョも顔を上げて動きを止めたのに対して仲間はすぐに背後を突くための動きに入っていた。
疲労が溜まっている中でのトランジションの意識の差が、結局ボールへのプレッシャーの強度の差、走り込む人数の差に繋がっていたのではないかと思う。精神論かもしれないけれども、ものすごく印象的だった。


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