福岡戦の備忘録-2周目-

前回対戦

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スタメン

541の泣き所からじっくり攻める岡山

 岡山としては、ヨンジェのベストパートナーとしての地位を確立しつつあった山本の負傷後初の試合。個人的には福岡の方がボール保持して主導権を握りたいと考えていたと思うので、非保持時に3バックの福岡に対して第一ラインからどういう守備をしていくのか、そして機能するのか、ということが一番の焦点として捉えていたのだが、前半は立ち上がり4分ごろから岡山がボール保持する時間が長くなっていく。(前線の守備に関しては後述)

 福岡の非保持時は基本システム通りの523→541。岡山は福岡の1トップ(城後)の脇・背後スペースにCB(田中・濱田)、CH(上田・喜山)が四角形を形成、そこを中心にボール保持⇒前進を図る。また、SB(廣木・増谷)が高すぎず低すぎずのポジションを取って横幅のパスコースを確保。これに対して福岡は、城後+シャドー2枚(松田・前川)で最終ラインでのボール保持を妨害⇒岡山のCHに対してCH(鈴木・加藤)が詰める形で、できるだけ高い位置でボール奪取を狙っているようだった。

 結論から言うと、福岡の第一ラインからの守備は全くハマっていなかった。CB(田中・濱田)へのプレスが決まらず、良い意味で中途半端なポジショニングをするSB(廣木・増谷)に対してシャドー(松田・前川)が横スライドしてマークに行くのか、それともWB(初瀬・輪湖)を縦スライドさせて行かせる(≒上げて行かせる)のかが曖昧なため、第一ラインからのプレッシャーがほとんどかからなくなった。そうなるとCH(鈴木・加藤)も無闇に前に行くことはできない。結果として岡山は、CB2枚+CH2枚を中心に後方からボール保持する体制を確立できるようになった。

 まずは横幅を使いながら、福岡の第一ライン3枚の監視範囲を広げてプレッシャーを回避することに成功した岡山、ボール保持の第一段階は成功。次は523(541)守備の泣き所を突いて前進しようとする。そこが、福岡のCHの脇や背後にできるスペース。そのスペースをSH(仲間・関戸)や列を下りたFW(主に中野)が利用して受けることで起点化⇒FW(主にヨンジェ)や残ったSHが福岡最終ラインの背後を狙う形で前進することに成功していた。
 10:50、①田中→廣木への横パス⇒②CH(鈴木)の背後スペースを取った中野が廣木からパスを受けて上田にレイオフ⇒③上田とのワンツーで中野が前を向く形~ドリブル⇒④中野→ヨンジェと繋いでこの試合初めてのシュートという流れに代表されるように、特に前半は福岡のCHの周囲にできるスペースを利用してボール保持⇒前進させることができていた。

 福岡がCHの周囲にできるスペースを埋めることがなかなかできなかったのは、いくつか理由があった。推測される理由を以下列挙。

①シャドー(松田・前川)の守備役割が、外に出るのか中に閉じるのか曖昧
②WB(初瀬・輪湖)のマークがハッキリしないため、横スライドで圧縮できない
③ヨンジェが福岡の最終ラインと駆け引きすることで、最終ラインを上げられない

 ここまで立ち上がりからの岡山のボール保持ばかりを書いてきたが、一方で前半の福岡のボール保持については、CB3枚(ウォンドゥジェ・篠原・實藤)の距離が広くないので、岡山は京都戦のように仲間を第一ラインに上げるようなことはせず、第一ライン2枚(ヨンジェ・中野)で監視するようにしていた。福岡のCH(特に鈴木)に第一ラインの背後から展開される形が一番良くないので、第一ラインはCHへのカバーシャドーを優先しながら、CBから蹴らせれば良い(≒城後や松田へのロングボールなら濱田と田中で十分勝てる)というような守備を行っていた。
 またSH(仲間・関戸)も、CBに詰めに行くというよりはWB(初瀬・輪湖)から展開されないように守っているようであった。15分ごろから鈴木が列を下りて最終ライン4枚の形になったり、シャドー(松田・前川)が受けに下がろうとしたりしていたが、単発の工夫止まりで岡山からボールを取り上げるには至らなかった。福岡は中央で起点を作る形(≒岡山の第二ラインの背後で受ける形)がほとんどなく、前線に蹴っ飛ばすかサイドに逃がすかしかなかったので、岡山は次の展開を予測するのが容易だっただろう。

 福岡のボール保持攻撃の脅威をほとんど減らして、安定してゾーン2~3近辺までは運ぶことができる岡山。押し込まれると5-4のブロックを構える福岡に対してどうゴールを狙っていくのかが次の焦点となるが、プレッシャーのかからないCH(上田・喜山)を起点に中央へのパスからのスピードアップを狙おうとしていた。実際に上田の縦パスから19:40に中野、20:10に仲間と立て続けにシュートチャンスを作っていく。
 しかし無理に縦に入れてトランジション攻撃を受けるリスクを考えてか、横への展開、後ろに下げる展開も厭わず、福岡の第二ライン4枚を縦横に広げよう(⇒それによって縦にボールを入れるスペースができる)とじっくりボールを動かそうとしていた。じれったく思われるが岡山にとっては決して悪い展開ではない。そして岡山はじっくりボール保持していく中で最大の狙い所を発見する。

ターゲットは右サイド

 30分を過ぎたあたりから岡山は左サイド(=福岡の右サイド守備)から攻勢を強めていく。ボールホルダー(というよりは前にいる相手選手)に食い付きやすい右CB(ウォンドゥジェ)と右WB(初瀬)の習性を利用、そして初瀬はウォンドゥジェが食い付いてできた背後スペースへのカバーリング意識が低いので、2枚を引き付けてできたスペースにボールを送って前進させていくようになる。

①廣木で横幅を取らせて初瀬をピン止め
②仲間が受けに入ることでウォンドゥジェが食い付く
③背後スペースを中野やヨンジェで取る

 ここで効いていたのが仲間の個人能力。今の仲間は、相手が2枚3枚寄せてきてもロストしないでキープ⇒打開まで持って行くことができるので、ウォンドゥジェを食い付かせるのにうってつけであった。39:40にはこの形から、①仲間が中央で起点、ウォンドゥジェ含めて福岡の選手を3枚引き付ける⇒②後方にできたスペースに中野が走りこんで左ペナ角でキープ⇒③芋づる式にバイタル中央にできたスペースに上田が侵入⇒④上田からペナ内に走りこんだ仲間にスルーパス、GK(セランテス)と1対1というシーンを作ることに成功した。

 前半終了間際の先制シーンもこの形から生まれている。44:30、①中央でボールを受けた関戸が左サイド(上田)に展開⇒②上田から仲間が福岡CH(鈴木)の脇スペースで受ける(この動きでウォンドゥジェを引き出し、背後スペースを作ることに成功)⇒③タイミング良く走り込んだ関戸が仲間からのフリックを受ける~仲間が引き出したスペースを使ってドライブでペナ内に侵入⇒④中野が實藤・篠原を剥がしてシュート、という流れであった。
チームの狙いが共有されて生まれたとても連動性のあるゴール。主導権を握り続けたまま先制にまで持っていくことに成功した岡山のリードで前半を折り返す。

試合巧者のゲーム運び…?

 後半は、55分までに福岡の最終ライン3枚がそれぞれ痛む時間があり(55分に篠原負傷→菊池)、プレー時間がなかなか伸びない立ち上がりとなる。そんな中でも前半との変化がいくつか見られるようになっていた。

 岡山の非保持時は、第一ラインの高さが前半より低く、ハーフライン気味のところまで下がってミドルゾーン(ゾーン2)で442をセットして守る形がベースになっていた。狙いとしては、福岡の選手たちを前がかりにさせる⇒ヨンジェ・中野・仲間あたりでトランジション攻撃⇒得点まで持っていければベスト、得点できずとも一度福岡を押し込んでその状態からボール保持できればOK、というところだろう。また、前半の福岡のボール保持を見て、ある程度ボールを持たせても問題なし、と判断したのかもしれない。

 後半になっての岡山の非保持時の振る舞いの変化によって、福岡のボール保持時間は前半よりも長くなる。CH(鈴木・加藤)がボールを持ってWB(初瀬・輪湖)に展開する形もできるようになるのだが、サイドに展開してからのシャドーに付けたり、前線を走らせたりするなど、中央と連動してのスピードアップの手段は乏しいままであった。
 WBの2枚がどちらも縦にスピードがあるわけでも、単独で突破できるわけでもない(≒周囲と連動することで力を出すタイプ)ので、足元で受けてから時間がかかって結局岡山のスライドが間に合ってしまうのは前半となかなか変わらない光景であった。
 60分を過ぎると、岡山のミドルゾーンでのプレッシャー(主に上田・喜山)が強まって鈴木や加藤が消される時間が長くなる。再びCBからのロングボールが増えて攻め手が無くなりかける福岡は、74分に輪湖→石原の交代、77分には石原と初瀬のWBの左右の入れ替えでサイドのテコ入れを行う。

 岡山はボール保持時の振る舞いでも変化を見せる。前半と違って後方でのボール保持に拘らず、中央を閉めて回収したボールをダイレクトにヨンジェ・中野に蹴る形が多くなっていた。福岡のWBが前半よりも高い位置を取るので、その上がったスペースを狙って起点を取るようにしていた。福岡のロングボールからのトランジション(攻→守)が前半よりも速くなり、無理にリスクを冒してロストする必要はないと判断したのかもしれない。それでももうちょっとボール保持しても良かった気はする。
 76:00には、右サイド深くでボール奪取をした増谷から関戸、ヨンジェと縦に速く繋いでヨンジェが右サイドを独走⇒ペナへの折り返しに中野がわずかに合わずというシーン。ここで2点差になっていれば試合は決まっただろうなというタラレバ。
   ある程度福岡にボールを持たせながら、前がかりになってできたスペースをトランジション攻撃で突く。ゾーン3への侵入回数もあわやというシーンもおそらく岡山の方が多く、このまま行けば「試合巧者」と言って良いようなゲーム運びであった…、80分までは。

システム変更、のち暗転

    残り約10分となった80分に、岡山は中野→武田。ここ2戦で馴染みとなった(というか復活した)終盤の451(4141)へのシステム変更である。一方前川や松田が単発的に前を向ける形でしか、これといったチャンスを作れない福岡は、82分に城後→ヤンドンヒョン。松田との2トップ、鈴木を一列上げた352にこちらもシステム変更。

    逃げ切るためにシステム変更をしたはずの岡山の非保持だが、ミドルゾーンでのプレッシャーがかからなくなる。これによってアンカーに入った加藤からより高い位置に上がったWB(右に石原、左に初瀬)への展開を自由に許してしまい、それまで中央を固めることができていた岡山の守備ブロックが次第にサイドに揺さぶられるようになる。こりゃマズイな、と思った矢先のPKシーン。
    83:50、加藤を起点に左右に展開を許す形を連続されると、左サイドの高い位置から初瀬がクロス⇒セカンドボールを回収した加藤がペナ内にボールを入れると、増谷が松田を倒してしまってPK。そのPKを松田が決めて1-1に。

    置かれている状況からすると、より勝ち点3への執着が強いのは岡山の方である。終了間際、関戸→福元で再び前線を増やして攻勢を強めるもヨンジェのシュートも武田のシュートも枠を捉えず。そのまま1-1で試合終了となった。

雑感

・内容は厳しいものがあったがどうにか勝ち点を拾った福岡。勝ち点を拾ったということ自体は残留においてとても大切なことである。個人的には、特に攻撃の面でここ数年の岡山を見るようなチームだったと思う。それなりのタレント(確実に上位10チームには入る)にもかかわらず、どうやってボールを前進させるのか、ゾーン3に侵入するのかがチームとしてコンセンサスが取れていないように感じた。少なくともこういうチームでは初瀬は活きない気がする。

・勝ち点を拾った福岡に対して、結果的には4141(451)へのシステム変更が失策手となって勝ち点を落としてしまった岡山。中央の枚数を増やしてより固めたいはずが、ミドルゾーンへのプレッシャーがかからなくなって自由にサイドに揺さぶられた結果、中央が空いてゾーン3~ペナ付近にボールを入れられる回数が増えてしまっては本末転倒もいいところである。この福岡相手なら下手にシステム変更するのではなく、運動量を補填して442のままで守れたように思う。あくまで結果論だけれども。80分までのゲーム運びが概ね良かっただけにとても勿体ない。

・得点シーンには、明確な狙いを持って攻撃するチームの中での個々の伸びを感じることができた。特に仲間からのフリックを受けた時の関戸のタイミングの良いランニングにそれを感じた。一度止まって、上田から仲間にパスが入ったところで鈴木の背後から走り込んだシーンである。

・昨季までの関戸ならば、前にスペースがあると見るやすぐさまそこに走り込んで、結果としてスペースを潰してしまって攻撃が止まることが多かった。しかし、試合を重ねるごとにチームとしてどこを狙うかを共有して攻撃できるようになっている今季は、どのタイミングで走るのかということが徐々に良くなっているように思う。その結果、技術の高さを試合の中で活かせることも増えるようになっているのではないか。あとはゴールだね。

・ああ勿体ない、マジ勿体ない。

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