ファジアーノの2018シーズンを振り返ってみる
長澤監督、4年間お疲れさまでした。
本当に久しぶりの更新になってしまった。仕事が多忙だったのもあるが、正直なところ「チームとしての」発展が見られないゲームの連続に飽きがきていたのもあってねえ
今回の振り返りは、巷で有名になりつつある「モダンサッカーの教科書」(この本本当にお薦めよ)にある「分析のフレームワーク」を利用して進めていきたいと思っている。その前にフットボールラボによるシーズンサマリーをペタリ
◎守備
・プレッシング
ハイプレス(相手最終ラインやGKがボールを持っているとき、そのボールホルダーに強くプレスに行くこととして扱う)はほとんどなし。基本的に第一プレスライン(ここではFW)はパスコースを限定し、ミドルゾーンに入ってきたボールに対して、コース限定からプレスバックしたFW、CH、ボールサイドにせり出してきたWBが複数関与してボールを取り切る、というのを理想としている。好調だった序盤戦はそれが上手くハマるシーンもそれなりにあった
ただし、ファジの前線はどの選手も守備に対するハードワークに労を惜しまないのではあるが、それが効果的であったかと言われれば少々疑問符が付く。ボールホルダーに単独で突っ込みすぎたり、プレスラインを引きすぎて結局パスコースの限定になっていなかったり。赤嶺が長い時間出場していた時には上手くパスコース限定もできていたが
・組織的守備
チームとしてはボールホルダーを多少無視する形でも迅速にゴール前を固めるブロックを形成することを最優先に考えていて、FWであってもゴール前まで下がる守備意識をチーム全体で持っていた。それがないと試合に出場することはできなかった
ゴール前でのブロックが形成できたら、人口密度の高さを利用してCB陣がシュートブロックで弾き返し、そこを抜けられたら金山や一森といったGK陣がセービングで守る、というのが基本構造だった。ボールを奪うというよりも人海戦術でとにかく守る、耐えるという形である。それで失点数リーグ5番目の少なさなのだから間違っているとは言いづらいところではあるのだが・・・
喜山、濱田らCB陣が相手FWに動かされる傾向が多く、さらに動かされた後のブロックのスライドも組織的に整備されているとは言い難く、動かされたCBとCBの間を通されてしまうシーンが多かった。人口密度の高さで何とか誤魔化せていたときもあったが
またブロック形成意識が高すぎて、最終ラインよりも前の選手(CHなど)までその最終ラインに取り込まれてしまう傾向も多く、結局ゴール前に精度の高いボールを入れられてやられてしまうというパターンが目立った
加えて後述のポジティブトランジションに悪影響を及ぼすシーンも目立っていた。特にCHの上田や塚川が疲労であったり負傷であったりでコンディションが落ち気味になっていった中盤以降は、一度ブロックに取り込まれてから攻め上がるスピードが格段に低下。もともと得意でないカウンターがさらに出来なくなるシーンが多くなっていた
◎ポジティブトランジション
・ショートトランジション
仲間やイヨンジェや斎藤、ジョンチュングンといったアタッカー陣にスピードがあるので、基本的に単独で攻めきるシーンが多かった。ただし、チームとして作為的にショートトランジションを狙えていたシーン自体少なかった
・ミドル/ロングトランジション
スピードのあるアタッカー陣に相手最終ラインの背後を取らせて、上田を中心に縦パスを通して手数掛けずに攻めきるというのが理想形。しかし現実には、前述のようにボールを奪う位置が低すぎること、人海戦術でボールを進めるのが難しいことから、ボールポゼッションを確立することに動かざるを得ないシーンが多かった。ポゼッションからボールを前進することができればそれでもまだ良かったのだが・・・
◎攻撃
・ビルドアップ
長いボールから自軍のアタッカーを走らせて相手の最終ラインにアタックさせるようなダイレクトなビルドアップが非常に多かった。キッカーは左サイドCBの喜山やCHの上田がメイン。ターゲットは最前線のFWでイヨンジェ健在時はイヨンジェに、イヨンジェ負傷離脱時は仲間であったり斎藤であったりジョンチュングンであったり
基本的にFWが収めてそこから突破するか、サイドに流れてボールをキープする形であった。FWが背負う形というよりは、裏に走らせて前向きにボールを持つ形が理想形。横幅を使ってボールを動かすのではなく、縦にボールを動かすことを考えていた
序盤はそれが上手くできていたが、イヨンジェの負傷による迫力の低下だったり、キッカーへのプレスが強まってボールを下げるシーンが増えてしまったり、相手がFWに対して密着マークをすることで相手を背負う形が多くなってしまったりすることでその形が少なくなってからは、ダイレクトなビルドアップから敵陣に進める回数が明らかに減少してしまった
ただし対応策を考えていなくはない節もあって、ポゼッションによるビルドアップをやろうとするシーンも中盤戦には見られていた。塚川の負傷もあって、CHに上田と末吉を置くというテクニカルな組み合わせでそれをやろうとしていた
これも喜山と上田の左サイドのラインが中心となって構成。GKが加わることはほとんどなかった。中央ではなくサイドから運ぶのでボールサイドのWBやFWもこのビルドアップの構成に加わる。一度CHもしくは下りてきたFWに当ててから落としたボールをサイドに広げてそこから前進させていくのが理想形
ただしチームとしての連動性に欠けており、相手のプレスラインを剥がしきれずに結局ダイレクトに前線にボールを蹴る形となってしまうシーンが多かった
・ポジショナルな攻撃(アタッキングサードに入ってからの攻撃)
アタッキングサードに入ってからの攻撃に関しては、FWがサイドに流れてそこを起点にWBを絡めて突破ないしはクロスというのがほとんどだった。中央からの攻撃はほとんどなく、最近流行りのハーフスペースをチームとして攻略するという考えもなかった
右サイドはWBの椋原を起点にボールサイドの人数をかけて突破、攻略することをメインに考え、左サイドはWBの三村の突破を中心に考えているというところがあった。ボールサイドと逆のサイドのWBとCHがゴール前に入ることでゴール前の人数を確保するように、という考えがあった模様
ただしどうバイタルエリア、ないしはゴール前を攻略するか、というのは多分に個々人の裁量に任されている部分があり、チームとしての明確なパターンに欠けていた。これはファジアーノがJ2昇格以来ほぼ毎シーズン悩まされている点でもある。結局ゴール前にとりあえずボールを入れる(いわゆる放り込み)というシーンになっていたことが多い。それでなんとかなるのならまだいいが、何とかなっていないことが多かった
◎ネガティブトランジション
敵陣に人数をかけて攻めるシーンが少なかったので、基本的にはリトリートして待ち構えるというのがほとんどだった。ダイレクトなビルドアップからアタッキングサードに効率的に入るシーンが何度か見られた序盤は、ボールサイドのFWとWB、そこにCHを投入しての即時奪回に取り組むこともあったが、プレスを組織化できずに剥がされてしまうシーンも多かった
◎セットプレー
・ゴールキック
GKからFWにダイレクトな形がほとんどだった。後ろから繋ぐというシーンは全くと言っていいほど見られず。主にFWがサイドに流れてそのエリアで競り合うという形
・スローイン
一番近い選手に入れて、その選手が落として大きく展開するという形がメインだった。アタッキングサードでは椋原や仲間がロングスローをすることもあった。ただしそこから得点に結びつくことはほとんどなかった
・コーナーキック
基本的にはニアポストの選手をターゲットにしてそこでそらす(いわゆるニアそらし)形がメイン。一度弾かれたら今度は逆にファーサイドをターゲットにしていたことが多かった。ショートコーナーでもその傾向は変わらず
・フリーキック
直接ではないFKではファーサイドからの折り返しを行ない、それを詰めるのがメイン。速いボールではなくゆったりとしたボールがほとんどだった
直接FKに関しては序盤は上田の直接FKが猛威をふるっていた(15試合で3点)が、ゴール前の位置でファールを奪える回数が減っていった中盤以降はFKからの得点シーンもなくなっていた
◎まとめ
4つのフレームワーク+セットプレーで見てきたが、結果としてチームの中で4つのフレームが繋がっておらずそれぞれがブツ切りな傾向にあった、というのが一番気になった
というよりは序盤はシンプルなフレームワークと重要選手(今季で言えばイヨンジェ、塚川、上田、後藤、椋原あたりか)の良コンディションによって何とか繋がることができていたが、その重要人物の負傷やコンディション不良によって繋がりを保つことができなくなっていったと言った方が正しいか
シーズンが深まるにつれて各セクションで選手個々の能力でそれぞれの状況を何とか解決するしかない、というチームになってしまったという印象。チームとして戦う、というのはあくまでも精神的な連帯の部分でしかないというか。前述のように各セクションでの重要選手の負傷やコンディション不良がシーズン通して多く、それを代わりの選手で補うことがなかなかできなかったので、15位という順位も致し方なしというところ
現状を大きく変えないで継続していくとなれば、即戦力の補強でしかスケールアップできなさそう、というのが厳しいところ。ただし資金力で何とかできるというチームでもないので、これも現実的ではないというところか
とりあえずはポジティブ・ネガティブ両局面でのトランジションの組織的整備を何とかお願いしたい。カウンターがずっと下手なのもハッキリ言ってここ(トランジションの組織的整備)が弱いからだと思っています
有馬賢二新監督がどのようなチーム作りをするのかはまだ全く見えてこない未知数の部分があるが、その未知数の部分に4つのフレームを繋げる仕組みを見出せることを願いつつ、2018シーズンを労いたいところであります
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