栃木戦の備忘録

スタメン

前半

 相手のシステムにマッチアップさせることの多い田坂監督の栃木だが、この試合は442の岡山に対して3421でスタートした。狙いとしては守備時には541のブロックを敷いてまずは失点しない、ということを最優先にゲームを運びたいということなのだろう。実際前半の栃木は、岡山が自陣深く(ゾーン1)でバックパスをしたときにイレジュンや西谷が詰めに出るシーンもあるにはあったが、基本はハーフラインを起点に引いて構えることが多かった。5月にしては異例の32℃という気候状態を考えたらそういうゲームプランを選択するのも妥当とも言える。

 ということで栃木の541ブロック守備の前にボールを持つ展開となった岡山。立ち上がりの5分は最終ラインからダイレクトにFWのヨンジェや福元を裏に走らせるロングボールが多かったが、それ以降はCBの田中とジョンウォンを起点にしてポゼッションによるビルドアップでゲームを進めていくことになる。541で構える栃木の前線は1枚、それに対して岡山のビルドアップはCB2枚とCH2枚の計4枚で進めることが多く、自然に数的優位が生まれる。栃木が前線から規制に行くことも少なかったので岡山は後方で安定してボールを持つことが出来ていた。

 栃木の守備はとにかく中央レーンの人口密度を高めることを優先。岡山に外からボールを運ばれる、クロスを上げられるのはある程度仕方ないことと割り切っているようだった。それに対して岡山は、栃木1トップのイレジュンの脇を起点にサイドから運ぶ形。特に序盤の20分間は、無理して中に通して引っかかるよりは外から安全にボールを運ぼうとしていた。90分間全体のゲームマネジメントを考えたら決して悪い選択ではない。中央から縦パスを通すべきCHの武田と関戸のパス能力の問題もあったのだろうが。

 サイドから運んで高い位置を取ったらそこからペナ内にボールを送り込むというのが序盤の岡山の攻撃で良く見られた形であった。主に右サイドはSBの椋原から、左サイドはSHの仲間がボールを入れる形が多かった。特に序盤は椋原のクロスで攻撃を完結させる展開が目立った。15分には右サイドで久保田との連係から椋原がクロス、ヨンジェのヘッドという形が見られたがこれは枠を外れた。

 ボールを持たれ続けていた栃木であったが、序盤の岡山のボール保持はサイドチェンジのような大きな展開が少なく、同一サイドでボールを運ぶことが多かったので、徐々にボールサイドへのスライドが間に合うようになっていった。第二ラインと最終ライン間で起点を作られることもなく、最終ラインは中央の森下を中心に、ヨンジェと福元の裏スペースをしっかりとケアできていた。

 落ち着いて守れているが攻撃はほとんどできていなかった栃木であったが、25分の飲水タイムによる中断明けのゴールキックから攻撃を開始。部分的に前への圧力を高めることで高い位置でセカンドボールを回収する形を作り、左シャドーの西谷や右WBの浜下のドリブルからイレジュンや大島が岡山のゴール前に迫る回数を増やしていった。32分には西谷を起点に左サイドから枝村のクロスに大島が飛び込むシーンもあったが、ここは一森が上手くパンチングで対応した。

 停滞ムード漂う岡山は、35分辺りからCBやCHからの大きな展開(not放り込み)を増やしていく。主に田中から大外に張り出した椋原と廣木の両SBに大きく展開していく形が目立った。栃木のWBである浜下と久富は、ハーフスペースに絞る事の多い岡山のSHを見ることが多く、SBに展開された時にはシャドーである西谷と大島が下がって対応することになっていたので、実質7バックのようになる栃木に対して岡山はよりミドルゾーンの高い位置までフリーでボールを保持できるようになっていった。中央で久保田が受けて打開を図ったり、中央からボールを入れたりする形も見られるようになり、ペナ内でシュートという形も生まれてきたが、人口密度の高い栃木ゴール前を打開するには至らずスコアレスで前半を折り返す。

後半

 多くの時間帯で岡山がボール保持をして敵陣に押し込む展開だった前半。後半立ち上がりも同様の光景が広がることに。後半開始早々には廣木を起点に、仲間が福元とのワンツーで打開を図る形(菅が倒してファール)、48分にも廣木から中央レーンに絞った久保田を経由、仲間が右サイドに流れる動きで起点を作り椋原のクロスを引き出す形(ユヒョンがキャッチ)など、前半の終盤40分辺りから見られるようになった、大外にポジショニングするSBの椋原と廣木が起点となる形から仲間や久保田がより敵陣深くでボールを受けて仕掛ける形を作れるようになる。

 岡山の攻勢が実ったのは52分。久保田の右CKのクリアボールを廣木が拾うと左大外の仲間へ展開、そのまま縦突破からクロスをヨンジェが頭で押し込んで岡山が先制に成功した。

 このCKにつながる直前の左サイドを打開したプレーがなかなか良質だった。武田から左HSに流れた福元へ縦パス、福元がダイレクトで左大外に走りこんだ廣木に落とし、廣木がクロス、ここからセカンドボールを拾ってCKを獲得するという流れ。岡山としてはこういった形を再現できるようになりたいところ。

 栃木は岡山が先制した直後の54分に右サイドを起点に大島がペナ内に侵入、イレジュンが詰める形でゴールを脅かす。これは一森のセーブに防がれたものの、このプレーを契機に試合の潮目が変わり始める。56分には左サイドのスローインから寺田が右サイドの浜下に大きな展開、そこから仕掛けてクロスまで持って行く形を作ったように、栃木は浜下が高い位置を取ることで攻撃に人数をかけるようになっていく。

 そのような流れで、岡山が先制した後の5分間の振る舞いを見てこれはいけると判断したのか、栃木はシステムを3421から442に変更。浜下が右SHに入り、久富と菅のポジションが左右入れ替わる形となった。「60分から攻撃のギアを上げる」という田坂監督のゲームプランだったようなので、時間帯的にも事前のプラン通りの変更のようである。

 442に変更後の栃木は、多少アバウトな形でも前線にボールをダイレクトに入れてから、前に人数をかけてセカンドボールを高い位置で回収して2次攻撃、3次攻撃につなげていくことを狙いにしているようだった。また守備でもシステムをマッチアップさせることによって岡山のボールホルダーを掴みやすくなり、徐々に岡山は後方でボールを落ち着ける時間が少なくなっていった。

 システム変更で攻勢を強めたい栃木は65分にイレジュンに代わり平岡を投入。平岡は持ち味のスピードで岡山の最終ラインの裏を突くことで、岡山の最終ラインと第二ライン間を広げ、そこのスペースで西谷や浜下が受けて打開する形を作っていた。一方栃木が攻勢に出るので、岡山も中野を投入し、ヨンジェとともに後方にできるようになったスペースを突こうとしていた。75分には栃木が自陣深くでのリスタートから素早い展開で裏抜けに成功した平岡が一森と1対1の場面を作るなど、オープンな展開が増えるようになった試合は徐々にカウンターの差し合いの様相を呈していった。

 そんな試合展開の中、栃木が追い付くことに成功する。寺田に代えてヘニキを投入した直後の76分、CKの流れの中から左サイドで田代がクロス、それを受けた森下がペナ内で武田に倒されるも、そのセカンドボールに素早く反応した平岡の折り返しにヘニキが詰めて追い付く。岡山は森下が倒れた時にPKかも、ということで足が止まっていたのが勿体無かった。その直前のセットプレーで先に触られるシーンが目立っていたので、軽率と言われても致し方ない。

 ラスト15分で追い付かれた岡山は、椋原が高い位置を取って自ら右サイドを打開してクロスを上げるというシーンを作るが、81分のクロスに中野が飛び込む形も、88分のクロスに途中出場の下口が合わせる形もいずれも枠を捉えず。逆に椋原の上がったスペースを西谷に使われ起点にされてしまうシーンもあった。ATには栃木が右サイドのスローインから浜下のクロスに大島が合わせるシーン、同じく右サイドから西谷が打開してクロスにこれもまた大島が合わせるシーンを作るがどちらも得点には至らず。結果は1-1の引き分けに終わった。

雑感

・まず90+4分、大島のシュートを椋原がブロックしたあのシーンはハンドリングだと思います。VARもしくはAAR(追加副審)があれば、間違いなくPKが指示されていただろう。岡山サイドからしたら助かった。(下動画5:20からのプレー) 

・先制するまで(特に前半)の試合運びは、リアルタイムで見ていたときにはとても焦れったく感じたものだったが、試合全体のゲームマネジメントを考えたら、決して悪いものではなかったのかなと思う。有馬監督はボールを保持する時間帯が長くなるであろう試合で、90分全体で得点を取りに行くプランを立てていたようで、実際に焦れずに粘り強くボールを保持して、時間経過とともに徐々に押し込む形を作ることができて先制もできた。チーム全体でプランを遂行しようとして、実際に途中までは現状のスカッドなりに実行できていた点は明確な成長が見える。栃木がオープンな展開に巻き込んだ後に自分たちのペースをひっくり返してしまったのは未熟さが表れたという他ないが。

・セットプレーアレルギーがなかなか治らない。この試合でも失点シーン以外にもセットプレー関連であわや、というピンチを招くことが多かった。特に一度跳ね返した後のセカンドボールを相手に先に触られるシーンが目立つ。気が緩むというよりは、目の前のボールやマーク相手に集中し過ぎてしまって結局足が止まった形で相手に対応することになってしまっているのではないかと推測。こればかりはゲームの中で成功体験を積み重ねていくしかない気がする。

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