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ポテサラ未遂

私の月イチ帰省中に、母の料理が変わってきたと感じる出来事があった。

テーブルに、小さく切ったじゃがいもを茹でてマヨネーズで和えただけの一品と
きゅうりだけのお酢の物がある。
母はこんなの作ってたかな?
じゃがいもだけ、きゅうりだけの一品なんてあんまり覚えがない。
その日の夕食準備は、
あとはお願いと任された。

そのとき父からリクエストが。
家庭菜園で採れた茄子で煮物以外の料理を作ってほしい。
「お母さんがいっつもおんなじ味で炊いてしまうんや。さすがに俺も飽きてきたわ。」

茄子と油揚げの炊いたん(煮物)を
私は母の味が好きだから美味しいと思う。
だが、採れすぎる茄子で毎日同じ料理が続くと胃袋を掴まれて52年の父も飽きる。
母はたくさん作るのに、自分では少ししか食べないらしい。

ごま油で茄子やパプリカを焼いて、甘酸っぱい焼き浸しをどっさり作った。
グリルの中にこんがり美味しそうに焼けた鶏肉がある。
母が先に焼いたようだ。

あとはスープかお味噌汁か。
かき玉汁にしようかな。
ん?
こんなところにハムが出しっぱなし。卵も置いてある。
ハムは冷蔵庫に戻して、卵はこれを使うか。

野菜を刻んで、かき玉汁を作る。
仕上げに溶き卵をふわーっと流し入れよう。

調理台の卵を割ったら、ゆで卵だった。

ゆで卵、ハム、きゅうり、茹でたじゃがいも。
ポテトサラダやな!

でもテーブルの上を見たら、
ポテトサラダと違うかぁ。

ポテサラ作ろうと思って途中で忘れちゃったのかな。

まあいい、新しい卵を冷蔵庫から出して割ってかき混ぜる。
かき玉汁も完成した。
じゃがいもマヨ和えと、きゅうりだけの酢の物はそのまま出した。

「ごはんできたよーっ」

「はーい!」
母の陽気で元気な返事。
ふたりとも美味しいと言って食べてくれた。母の作ったじゃがマヨときゅうりのお酢の物もそれはそれで美味しかった。

後日、弟にポテサラが完成しなかった話をした。

母の認知障害について話した時、
「オレあんまりわからんけどなぁ」と言ったのんきな弟だ。
最近は両親の様子が気になるのか、時々ふらりと東京から帰ってくる。

弟が言うには、
「オレ、昔からポテトサラダに入ってるきゅうり嫌いやねん。ポテサラは好きやからいっつもきゅうり抜きのポテサラ作ってもらっとったやん。知らん?」

知らんて。

それよりもきゅうりは嫌いじゃないけどポテサラの中のきゅうりが嫌いというめんどくさい人がこの世の中にいるのか?

目の前にいる。
めんどくせーっ!

おそらくポテトサラダを作ろうとしたけど、途中でやめた母。
きゅうりを混ぜるか否か、そこらへんでマヨ和えとお酢の物に変更となったのでは?
ゆで卵とハムは忘れ去られた。

ポテトサラダが完成しなかったのは、認知障害によるもの忘れだと思うが、
もの忘れにも、それまでの習慣や気配りが反映されているのかもしれない。
ずっと前のこととはいえ、弟のためにきゅうり抜きのポテトサラダを作っていたとは。
家族のために料理してきた母なのだ。

今後、実家帰省の回数が増えて、弟と普段の食事を一緒にすることもあるだろう。
聞いてくれ、弟よ。

私が作るポテトサラダには、
きゅうりを混ぜます。

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