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ちゃうちゃう一家

2ヶ月半ぶり実家にいる。
母の通院検査に付き添うため帰ってきた。
消化器内科のMRI検査を受ける母。
カレンダーに予定を書き込み、病院の予約表をクリップで留めてぶら下げ、手帳にも書き込む念の入れようだが、
「お母さん、明日は病院よ。」
と言ったら、
「ええっ?どこの病院?」
と驚きの様子だった。
認知障害があり記憶が定着しない。

言えばわかるし思い出す。
その様子に変化はないように感じる。
だが去年一年間、胆管がん疑いによる検査入院に明け暮れたことに関しては、そんなこともあったっけかな、
くらいの認識である。
私が
「今が元気でよかったねぇ。」
と言っても
「たいそうな病気やなんて思ってなかったわ。それでええんちゃう?」

ええんちゃう?って言われても
ホンマにそれでええんか?って気もするが、
母の認知障害については、明るいほうに振っていくと決めた我が家なので良しとしよう。
病を得て陽気な母。
辛かったとか、不安だったとか、マイナス面はゼロ化されるのかな。

通院日の朝。
朝食の席で朝9時半に家を出ようねと確認。
母も朝食を食べようとしている。
MRIの時って食事制限があるんじゃないのかと一瞬思ったが、
予約表には食事制限については書かれてない。
「関係ないんちゃう?」
母は一向に気にする様子なし。
まあいいか。
コーヒー飲んじゃってるし。

父と母と私、10時ごろ病院到着。
父は別の場所で待つと言う。
採血をしてからMRI受付へ。

問診票をお持ちですか?と聞かれたが、何も持ってきていない。
その場で問診票を渡され、母が記入した。

最後のお食事は何日の何時ですかと質問される母。
「今朝の7時です。」
「え?お食事されたんですか?」
受付の女性が怪訝な顔をしたので、私も母の後ろに駆けつけた。

受付の女性は「お待ちください。」と言うだけで奥に行ってしまった。

やはり食事制限があったんだ。
問診票だって前回もらっていたのかもしれない。
実家の目につく場所にはなかったのだが、私は詳細はわからない。
今日の検査は延期かな。
来週の診察もキャンセルだな。
しょうがない。

看護師さんに呼ばれた。

食事されたのは7時なので、4時間後なら検査できます。
1時間ほど待ってからの検査になりますが、ご都合はどうですか?
終わるのは12時を過ぎてしまうのですが。

大丈夫です!
待ちます!

私が前のめりで答える。
長女です。
お手数かけてしまって申し訳ありません。
平謝りだ。

大丈夫ですよと看護師さんがにっこり笑った。
座っている母の膝に手を置いて、検査の説明をしてくださった。

明るい中庭が見える待ち合い席に移動し、父と合流して待つこと1時間。
母の順番がきてMRI検査室に入室した。

やれやれ。
私は自分の病気の検査で、造影剤CTやマンガン造影MRIを何度も経験して、検査前の食事制限については知っていたのに、なぜ母の朝食を阻止できなかったのか。
自分のポンコツぶりを思い知る。
検査室で対応してもらえて感謝である。
検査は30分ほどだ。

母が検査室から先ほどの看護師さんに付き添われて出てきた。
検査後の制限はないらしい。

ありがとうございました。
お世話になりました。

いつものことだが母のご挨拶は上々。

帰りの電車で母が言う。
「今日はあの道をよく歩いたわ。」

父が即座に言う。
「ちゃうちゃう、歩いてないで。
タクシー乗ったんや。」

「歩いたんちゃう?
ちゃうか、歩いたんは昨日か。」

私「ちゃうやん。歩いたんは一昨日やん。ん?日曜日ちゃう?」

ちゃうちゃうちゃうちゃう
母のペースに巻き込まれ、会話がおかしくなっちゃう!

いろいろ心配事はある。
今日は失敗もしたけど、タクシーの運転手さんはわざわざ桜が咲いている道を走ってくれたし、ランチのお魚は美味しく完食したし、
今日のところはこれでええんちゃう?

それでええんちゃう?で今は正解だ。

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