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きのこ、静寂の庭園を訪れる【アデレード編】

【きのこの冒険】

(1) 静寂の庭園

門で一礼した若い豪州人のカップルがいました。

慣れた振る舞いで二人で揃って顔をあげ、ゆっくりとした足取りで門をくぐり庭園に入っていきました。

美しい所作。ここはアデレード姫路ガーデン。前日に急な夕立で立ち往生し、ふらりと入ったカフェの店主、たみこさんのおススメの場所でした。

海外で、外国人の若いカップルが見せた日本の礼節に何かどきりとして、ただただ若い二人の後ろ姿を見つめていました。


(2) 少しだけ、お付き合い頂けないでしょうか

歴史を遡りたいと思います。

アデレードと姫路が姉妹都市の関係を結んだのは1982年。経済の更なる発展のために両市がとった新たな策でした。

両市の友好関係の更なる発展を願い、アデレード市議会の造園部は日本人コミュニティにも協力を呼びかけ、アデレード市内中心部サウステラスに庭園を作り上げたのでした。奥の院燈籠も日本から贈呈され、1985年開園。


サウステラスの一角にひっそり佇む庭園
地図から想像できるかもしれませんが素敵な街です

(3) しかし酷評されてしまった開園当初の話

まずは一礼。
庭園の中に入ってみたいと思います。

季節は春、門の脇には満開の藤の花。
奥の院燈籠も見えます。

現在の庭園、藤の花

しかしこの公園、開園当初、酷評を受けました。

「公園を取り囲む、むき出しのフェンスは、まるで第二次世界大戦時のカウラの戦争捕虜収容施設のようだ。」
「贈呈された魚、、(多分コイ?!)が現地の鳥に食べられてしまった。」

(🍄ややや、それは逆に見てみたかった)

この当時の庭園を見たアデレードの記者は以下のような辛辣な言葉を使い、公園を正面から批判したそう。

「quite ignorant pastiche無知な模倣」
「aesthetic disaster駄作」
「日本の庭園の心を理解していない。日本の数々の素晴らしい庭園が何故何世紀も世紀を越えて存在できたのかを全く理解できていない。」

(🍄‼️…うわわわわ…)

遠い目…😑
一旦落ち着きましょう……記事とは無関係な写真です……

(4) 救いの神現れる

神に見放されたか…

そんな1986年2月に南オーストラリア州150年祭のアデレード姫路ウィークに参加した姫路の使節団。当時の日本庭園を視察しました。その中に熊田造園の熊田義孝さんがいました。

「本物の日本庭園を見てもらいたい」

この後とった行動に、私には何か全ての日本人の根底にある美しさを感じ得ずにはいられないのですが、

「私費を投じて全てボランティアで改修したい」

という気持ちと、即行動に移す情熱と行動力。

熊田さんの熱心な提案をアデレード市議会も受け入れました。そして日本の確かな技術で庭園は見違えるような美しいものに改修されました。

オーストラリアンブルーと庭園

熊田義孝さんはその後も毎年F1レースの時期にはアデレードを訪れ(当時の開催地はアデレードでした)、現地の職人に庭園の手入れの方法を指導。F1が開催されなくなった年からは(F1 アデレード1985-1995)、訪れなくなったそうですが、その頃までには人材は育っていた模様。

今日でも、熊田さんが伝えた造園の技術や植物の手入れの方法はアデレードの市民ボランティアに代々引き継がれているそうです。

生まれ変わった庭園

(5) 市民の安らぎの場

一歩足を踏み入れると、懐かしさ、オーストラリアに調和し、根付いた日本の美にハッとしました。郷愁の念も込み上げてきます。

多国籍国家のオーストラリアらしく、様々な国をバックグラウンドに持つ方々に等しく愛され、ひっきりなしにアデレード市民が訪れる場所になっているように見えました。

最後に一筆、外国を訪れた際に日本庭園に行くことを考えることは少ないかもしれません。それでももしも少しでも興味を持ってくださった方がいたとしたらアデレードを訪れた際にはどうぞ姫路ガーデンに足をお運びください。

外国に作られた小さな日本、エンクレーブのような存在。あなたの目にどう映るでしょうか。

枯山水

(6) 番外編: カフェの店主たみこさん

本好きの私が(あっ、でも、、難しい本は読めないです…)、カフェと古本のお店がコラボしたカフェに何となく呼ばれるようにして入りました。そこにいらしたのが店主さんであるたみこさんです。参考文献にリンクを残しますが、それはまた何か別の機会にお話しできたら嬉しく思います。

読んでくださり、ありがとうございました。

(参考文献)

熊田造園さんhttps://www.kumadazoen.co.jp/business/business08/australia/

たみこさんhttps://www.matildabookshop.com.au/katherine-tamiko-arguile

How a Japanese landscape designer rescued Adelaide’s garden of tranquility
日本の造園師がアデレードの「静寂の庭園」を救った物語
https://www.adelaidereview.com.au/form/design/2019/10/11/adelaide-himeji-garden/

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