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キタダヒロヒコ詩歌集 164 Inspire from A. 2


蜻蛉玉は覚えてゐる
1200度の息を吹き掛けられ


ぽとり、と落ちた日のことを
自分を吹き落とした男の顔を


かつてわたしは紙とインクであつた
一冊の詩集であつた


またかつてわたしは
二足で歩行する獣の骨だつた


またかつてわたしは
難破船のマストの古い柱であつた


電話機だつた
皿であつた


うねる高温の
吹き矢の先で


わたしたちはみな
硝子のしづくとなつて


昇華した 冷たい星を
記憶したまま


信じられぬ速さで
冷えた 誰かが


わたしたちを 手に取り
その体温に なじむとき


ふたたび氷のごとき 衝動が
走つてくる そのひとに


噛み砕かれたい
そのひとの口に 血が


ほとばしる それは
はるかな頭上への あこがれ である


ああ 


そのとき われらは
完全な夏である



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