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Kヤイリ DY18

 マーチンD45を手に入れてから、新たにギターを手に入れようを思わなくなったのだが、先日とてもお世話になっている大学の先輩から、ギターを預かってほしいという依頼があった。

 その先輩はギターを数本所有しており、マーチンならD41やD45を所有しているが、一番大切にしているのは学生時代に一生懸命アルバイトをして購入したKヤイリのDY18というモデルなんだそうだ。その先輩はマーチンの良さも理解した上で、この1975年製のDY18を“べた褒め”する。
そして、それを私に少し預かってくれという。なんでも家であまり弾かないから、常に弾いている人に預け、ギターを鳴らしておいてほしいとのこと。
正直、家で鳴らすのも良いが、ライブで使い、でかい音の中に入れておくだけでもギターは鳴りが変わって来るので、それでもいいなら、ということで預かった。
 私は、正直に言うとヤイリについてそんなに詳しくない。周りにヤイリを持っている人が殆どいなかったから弾く機会もなかった。知識として、せいぜいデビューした頃の井上陽水が使っていたのを音楽雑誌で見たことがあるくらいで(これはSヤイリ!ややこしい)、高校生の時に周りのみんなはヤマハとモーリスのギターを持つ中、私は一人キャッツ・アイ、そしてあまり話したことが無いN君が唯一ヤイリを使っていたかなぁ、なんて思い出す始末。増してやヤイリギターは1980年~2000年あたりのアコースティック不遇の時代に会社の施設が水害被災にあったり、経営が行き詰まったりとあまり良いニュースは聞かなかった。また、詳しい人に言わせると、1970年代のヤイリと今のヤイリは全然違うとか。「Sヤイリの創業者とKヤイリの創業者は親族だけど、会社は別々であんまり関係性はない」とか都市伝説みたいな噂話も出てくる。だからどうした、という感じだが…。

 KヤイリDY18は、基本的にマーチンのD18をコピーしている(当時のカタログを調べたら、思いっきり「マーチンD18コピーモデル」なんて書いてある)。
トップはスプルース、サイド&バックはマホガニー、いずれも単板。ペグはグローバー。フィンガーボードとブリッジはエボニーを使っているので、スペック上ではマーチンと違う(1970年代のマーチンD18のフィンガーボードやブリッジはローズウッドで、エボニーが採用されるのはD28以上)。
そのせいか、音がマホガニーのサイドバックの割に重量感のある印象を受けた。持った感覚も重量的にマーチンより確実に重い。以前所有していたマーチンD18やD19などは、同じマホガニーの素材だがもっと軽い音だったことを考えると、表板のスプルースやサイドバックのマホガニーの板の厚さがヤイリの方が厚いのではないだろうか。加えて、このDY18はアコースティックギターの音を形成するうえで一番重要なネックの作りがエボニーボードであるので、マーチンD18よりも太い音が出ているのではないか。それ故、マホガニーボディのギターにしては音が重たいのでは・・・などと謎は深まる。

 ギターを弾き始めた頃はマーチンでもD18というモデルは「一番安いギター」などといった不届きな考えがあり(そうはいっても当時新品で20万円は超えていた)、そのせいか、18と名の付くものは安いという印象だった。アコースティックギターのことを知り始めてからは、それはとんでもないことと思い直したものだが、このヤイリDY18もそんな感じのモデルだろう。
 私はマホガニーのギターが苦手で、先ほどのD18もD19も手放している。最初は良いのだが、段々あの音の軽さが受け入れられなくなるのだ。ローズウッドボディのギターと比べてしまい、お腹にズンと来ない音にもの足らなさを感じ、自然とD28やD45に移行した経緯がある。
しかし、このヤイリをもし当時の私が使っていたら、マホガニーボディのギターであっても手放さなかったのではないか、と思う。それくらい低音が気持ちよく出る。製造から45年というエイジングも相まってボディそのものが乾いているし、胴鳴りもしている。
 
 では、全てが良いかというと厳しい目で見れば、気になるところもある。
綺麗で丁寧なつくりではあるが、塗装が厚く音の抜けが悪い。
鳴りはするが、抜けがワンテンポ遅れるのだ。具体的に言うと少しこもった音。
 例えばマーチンD45は鳴りも抜けも素晴らしすぎて、1弦から6弦全部が均等に出る。これはライブなどでは良いが、レコーディングでは音が出すぎてしまい、調整に苦労する。D28はドンシャリ系の音だが、抜けは素晴らしく、出音がシャープだ。もちろんD18も音は軽かったが、ピッキングの表情がつけやすかった。
その点、このヤイリは音が多少ずれて聞こえてくる。これは、このギターだけのことではなく、日本のギター全般に言えることだ。
 最近、ジャパン・ヴィンテージというジャンルで、古い日本のギターが見直されており、私も何度か弾いたことはあるが、総じて音が固く、サウンドホールから出た音は約1mくらい先で落ちてしまい、消えてしまうようなものばかりだった。
それに反し、マーチンの音はサウンドホールから飛び出すと広がりをみせて先へ先へと音が飛んでいくというイメージがある。

 ギターは弾いてなんぼである。飾っておくだけのギターはいくらマーチンD45でも、全然鳴らなくなる。
先輩に大切に育てられてきたDY18であるが、ここは里子に出された訳だから違う弾き方と音の出し方で育ててみても面白いだろう。
 本音を言うと、もしこのDY18が前述のような古いだけの日本のギターだったら、弾かずに部屋の隅にでも置いておいて「邪魔だなぁ」なんて思ったかもしれないが、出音を聞いて背筋がピンとした。そういう意味では今まで弾いてきた日本製のギターの中では確実に上位に入る個体のヤイリDY18は、私のジャパン・ヴィンテージを見直させてくれた驚くべき一品である。
 部屋でヤイリを鳴らしていたら、それをじっと見ている家内。
私が「新しくギターは買ってないよ!先輩から預かっているだけだよ!」なんていつもより大きな声で言ったりしたもんだから・・・ニヤニヤ笑ってた。
2020年12月11日
花形

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