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U2 The Joshua Tree Tour 2019


 2019年12月4日さいたまスーパーアリーナ。
U2の大ヒットアルバム『The Joshua Tree』(1987)の完全再現と、新たなメディアであるU2 RADIOのプロモーションも兼ねた内容のコンサートが行われた。

 私が前回観たのは、2006年12月4日。会場もさいたまスーパーアリーナ。ちょうど13年ぶりである。

 舞台から伸びる花道とそれに続くセンターステージを取り囲むようにアリーナでは、前回の時と同様に満員の観客が蠢いていた。そして、開演に近づくにつれ、空から人が降って来るような錯覚に陥るほど、3階までの席を埋め尽くす人、人、人、人。
前回は、3階席からこの蠢く人たちを見ていたが、今日はそこに自分がいる!

 BGMがひときわ大きくなると、ふらっとセンターステージに伸びる花道を、ドラマーのラリー・ミューレンJr.が歩いてくるではないか。そして、センターステージのドラムにスタンバイ。
ラリーの呼吸までもが伝わる距離。目の前に彼がいる。
 彼は気負う事も無く、さも当然な振る舞いの一つのようにスティックを振り下ろし、狂気のマーチングリズムを叩き始めた!
怒号のような歓声が湧き、そしてジ・エッジのあの印象的なアルペジオが…。
花道をゆっくり歩いてくるメンバーたち。
ジ・エッジ、ボノ、アダム・クレイトンが続く。
4人とも黒を基調とした出で立ちで、それは、あたかもデビュー当時のカミソリのように鋭敏な少年の頃のような気負いは無く、近くのコンビニに買い物に行くような足取りだ。

 デビューから40年。1度もメンバーチェンジを行なわず、4人の少年は偉大な音楽家となり、全世界を飛び回る。そんな歴史の中で生まれた存在感なのか。

 観客はヒートアップ!圧倒的な熱量の「Sunday Bloody Sunday」が始まった!
どんなにデジタル技術やマニュピレーターなどが進化しても、センターステージで最小限の音数で勝負している4人は、デビュー以来何千回も演奏したであろうこの歌を高らかに演奏している。そして、そこには嘘や偽りはない、生身のU2がいた。

目の前のU2

 「血の日曜日」---1972年のIRA暫定派のデモ行進にイギリス軍が発砲し14名の死者、13名の負傷者を出した惨劇。その不条理さを声を高らかに歌うボノ。
パンクロックという範疇でデビューした4人は40年経ってもこの歌を力強く歌う。その意味は40年経っても様々な問題を提起し続ける必要があるから。
曲は続く。「I Will Follow」「New Year’s Day」と若者の苛立ちを激しいビートや氷のようなテンションでU2は、我々に突きつけてくる。

 彼らは世界的に見ても十分すぎる音楽の成功者である。音楽ソフトの売り上げや、コンサート動員数など、世界ナンバーワンクラスであろう。
その礎となった初期のナンバーがセンターステージで力強く演奏されている。
「Pride (In the Name of Love)」のリフレインが大合唱のうちに終わると、4人はメインステージに向かって歩き始めた。
今回のツアーのメインである『The Joshua Tree』の全曲再現の始まりだ。

「Where the Streets Have No Name」のシンセサイザーの重厚なイントロがスピーカーから流れると観客は興奮の坩堝。
縦41m×横61mの超大型8K LEDスクリーンの前で4人が立つとスクリーンにはアメリカ南西部に生えるユッカの木(Joshua Tree)がシンボライズに現れ、16ビートの演奏が始まった!
ボノの第一声から、大画面は荒野に伸びる一本道を進む絵に変わった。
Joshua Tree Worldの開幕だ。


どこまでも続く道の先には彼らの求める世界があるのか…。
 アイリッシュ・ビートの4人がアメリカのルーツ音楽を探求した先に、彼らの憧れていたアメリカはあったのか。問われた現実に立ち向かう『The Joshua Tree』の楽曲は、我々の喉元に刃を突きつけるように迫ってくる。

 発表30周年ということから2017年から始まったこのツアーは、彼らと我々がアルバムの答え合わせをしている様にも感じた。
歌の内容も去ることながら、大画面に映し出される映像がそのままPVとして成立するほど完成度が高い。この進化も一つの答え合わせであろう。
大画面の映像が『The Joshua Tree』の世界観を雄弁に語りかけてくる。アルバム全曲再現は、時間を感じさせる事なく、集中した永い一瞬だった。

 センターステージでの「Angel of Harlem」を挟み、アンコールへ。
時代を追って彼らの楽曲は進んでいく。

「Elevation」「Vertigo」とビートナンバーが我々の身体を包み込んでいく。
U2が目の前で演奏しているんだと感激しながらも、冷静に「本当にこのバンドは、ギターソロが無いんだなぁ」と思いながらボノと一緒に声を上げている自分がいる。

 U2がデビューした1979年はニュー・ウェーブやテクノサウンドが世界的にヒットはしていたが、それでもロックバンドを組むのであれば、ギタリストはギターソロを弾く事が必然であった。ギターソロの無い楽曲は、どこか物足りなさとバンドの技量の無さを露呈するイメージもあった。
 そんな時にU2は既成の概念にとらわれないギターアンサンブルを提示してきたのだ。ジ・エッジの奏でるサウンドに長いソロは必要無く、あくまでもバンド全体のサウンドコーディネイトとしての主張を行う。それは枯れる事のない想像力であり、以前も書いた事があるがコロンブスの卵のような革新的な奏法で我々をワクワクさせてくれたのだ。

 ボノは社会性の強い楽曲を書く。薬物中毒に侵された友人のために書いたとされる「Bad」。人種差別撤廃を高らかに叫ぶ「Pride (In the Name of Love)」。アメリカのカオスを歌う「Bullet the Blue Sky」など、様々な警告や問題提起を我々に提示する。
コンサートではそれらが音楽と映像の融合となりU2ワールドを構築しているのである。

 コンサートのクライマックスは、「Ultra Violet (Light My Way)」である。
世界で活躍する女性たちの映像が次から次へと画面に映し出された。これは貧困救助のための非営利団体[ONE キャンペーン]の活動の“Poverty Is Sexist Campaign”の一環という。
この歌を観ていた時にU2はいくつになってもただの懐古趣味で世界を周るバンドにはならないだろうな、と思った。
 ロックンロール・ミュージックは反体制の音楽と言われた。中々言葉に出して言えない事を激しいビートに乗せて訴える。その精神は10代でバンドを組んだ時と何ら変わっていないのだろう。もちろん、それを商売にするのでエンターテイメントの演出は必要であるが、彼らの歌はただの作品ではなく、彼らの生き様として創出されているのだ。だからなのか、音が音楽を奏でるというより、彼らの拳がビートを刻んでいるのである。

 あんなに煌びやかだったスクリーンは消され、素に近い照明で歌われた最後の曲「One」。
宴は終わった。

 プロテスト・エンターテイメントの3時間を終え、みんなそれぞれの場所に戻ろう、と言わんばかりに4人は軽く手を振りバックヤードに消えていった。
夢の時間が終わった。

12/4 セットリスト
Sunday Bloody Sunday
I Will Follow
New Year’s Day
Bad
Pride (In the Name of Love)

Where the Streets Have No Name
I Still Haven’t Found What I’m Looking For
With or Without You
Bullet the Blue Sky
Running to Stand Still
Red Hill Mining Town
In God’s Country
Trip Through Your Wires
One Tree Hill
Exit
Mothers of the Disappeared

Angel of Harlem

Encore:
Elevation
Vertigo
Even Better Than the Real Thing
Every Breaking Wave
Beautiful Day
Ultra Violet (Light My Way)
Love is Bigger Than Anything in its Way
One

2019年12月7日
花形

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