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『クリムゾンキングの宮殿』 キング・クリムゾン

 ビートルズの音楽に疲れてきたロックキッズは、混沌とした音楽シーンに耳をそばだてていた。相変わらずR&Bを追い続けるストーンズはブライアン・ジョーンズの変死という、ありがたくないニュースを発表。鳴り物入りでデビューしたクリームも個性がぶつかり合い2年しか続かず、その後のブラインド・フェイスはクラプトンにとって居心地の良いものではなく、1年もするとアメリカ南部音楽へ逃亡した。
 ディランは交通事故からウッドストックに引きこもり、ザ・バンドとビッグ・ピンク・ハウスで連日リハ三昧。そんな1969年4月、おどろおどろしいアルバムジャケットとともに緊張の音楽が突如出没した。
キング・クリムゾンの『クリムゾンキングの宮殿』(1969)である。

 ロックの定石は魂の解放や反体制がつきもので、音楽的にはノリが良く高揚する音楽とされる。しかし、ことプログレッシブ・ロックに関してはその類ではない。緊張感が高ければ高いほど良質とされ、そこに様式美などといった独特のベクトルが重なる。
 変拍子や難解なリフが重なり合い、それぞれのパートのセメントマッチの様相を呈する。演奏能力とセンスを兼ね備えた中で、そのバンドのワールドをいかに構築するかにかかっているのだ。中でもキング・クリムゾンは特別だ。ピンクフロイド、イエス、EL&Pがプログレの代表として名前があがるが、これらのバンドと一線を画している。それは、リーダーのロバート・フリップが音楽を構築するためには、その音が出せる人間を連れてくるという“人選”というキーワードが存在することを意味している。
 キング・クリムゾンは間違いなくロバート・フィリップのバンドである。オリジナルメンバーなどという観念は毛頭無く、ロバートがその時気に入ったメンバーがバンドになるという形式である。いや、バンドという概念では無く、ロバート・フリップの家の名前がキング・クリムゾンで、そこに呼ばれた人間が家を改築していくと言った方が良いか。

『クリムゾンキングの宮殿』は発売されるとその音楽のインパクトからセンセーショナルな扱われ方をし、ヒットチャート1位を走るビートルズの『アビーロード』(1969)の座をあっさりと奪ってしまった。この事象も新しいロックの夜明けのひとつだった。ビートルズを一夜にして古いロックグループにしてしまったのだ。
 デビュー時のメンバーはロバート・フリップ(G、メロトロン)、イアン・マクドナルド(Sax、Key、Vo)、マイケル・ジャイルス(Dr、Vo)、グレッグ・レイク(B、Vo)、ピート・シンフィールド(作詞)である。
 グレッグ・レイクのヴォーカルは、感情の赴くままに時に激しく、時に寂しく歌い上げる。そのバックにはイアン・マクドナルドのサックスやマイケル・ジャイルスのドラムが空間を埋めていく。緻密なアレンジと超絶なテクニックが作品を構成していく。
「21世紀の精神異常者」「風に語りて」「エピタフ」「ムーンチャイルド」「クリムゾンキングの宮殿」のたった5曲に集約されたキング・クリムゾンの世界は、脅威だ。5曲目が終わったとき、自分の顔がアルバムジャケットのようになっていたという笑い話もまんざら嘘でない。
 彼らの演奏をブートレッグ・ビデオで観た時、この難解な曲を涼しい顔でこなしていた。見た事の無い世界に驚愕したものだ。

 翌年、ファーストの延長線上に位置する『ポセイドンのめざめ』(1970)を発表。その後も彼らはアルバム発表のたびにメンバーチェンジを繰り返し、名作『太陽と戦慄』(1972)を発表する。このアルバムは、ファーストに負けず劣らずの出来で、メンバーはロバートはもちろん、ビル・ブルフォード(Dr)、ジョン・ウェットン(Vo、B)、デヴィット・クロス(Key、Vl)、ジェイミー・ミューア(Per)といった名手が集まっていた。
 ロバートのギター・テクニックは、緻密で正確無比である。冷徹な印象は拭い去れないが、そのロバートのお眼鏡に適ったミュージシャンだけがクリムゾンを名乗ることが出来るのだ。

 キング・クリムゾンの作品は彼らにしか再現できないし、彼らもファーストから現在まで完璧に再現できるのはロバートを除いて誰もいないはずだ。
 ロバート・フィリップは、彼の頭の中にある世界をどうやって表現するか、ということだけを考えて行動している。それは、音以外の詞の世界もしかりである。その意味で考えると、僕は初期の音の集団とピートの詞が融合したファーストを推したい。
とにかくとんでもない音の集団が生まれてしまった軽音楽のビッグバンだったからだ。

2005年12月5日
花形

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