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『レックレス』 ブライアン・アダムス


 80年代はキーボードが一番発達し、音楽が変わった時代である。
シンセサイザーの発展が一番の理由だが、そもそもデジタルという「連続性で無く単一のデータを組み合わせた」概念が芸術を変えてしまった。
それは、テクノサウンドというわけではない。すべての音楽がデジタル化し、作品の定義が変わってしまったのだ。
 「打ち込み」や「サンプリング」、「シーケンサー」などといった語句が生まれ、音楽の作り方をも変わり、今まででは再現できないような音の構成が簡単にアウトプットされるようになった。
 ドラマーは廃業に追い込まれ、生ギターは前時代の化石と言われ、楽譜も読めない素人がパソコンソフトで音楽を作り出す時代に変化していったのだ。これに異を唱えるかどうかはここでは避けるが、そんな1980年代半ばに前時代的なテイストで、且つ、新鮮な風が吹いた。
 ブライアン・アダムスの登場である。もちろんブライアンは1980年代初頭から活躍はしていたが、全世界的に名を馳せたのは自身の誕生日である11月5日に発表された名盤『Reckless』(1984)である。

 このアルバムは、全米アルバム・チャート1位を獲得し全世界で1200万枚以上の売り上げを記録した。
 先に述べた無味乾燥なお気楽な80年ポップスの中で、いきなりアナログチックなこの作品。はっきりいって異質であった。それは、間違えて女子専用車両に飛び乗ったと同じくらい違和感がある(経験者は語る、まぁそれはさておき・・・)。
 その異質な状況・・・ブライアンの若さゆえ、まっすぐな歌がギミックとフェイクに溢れたお気楽なシンセサウンドに喝を入れた形となったのではないか。
正直、私もレコードに針を落とした瞬間、ストーンズやスプリングスティーンのような重厚感あるドラムの音で背筋を伸ばしたものだ。
 おっ、やる気にさせるね。
誰かね・・・ミックスは・・・レコーディング・エンジニア・共同プロデューサーのボブ・クリアマウンテン、マスタリング・エンジニアのボブ・ラディック・・・なるほどね。やっぱりの音だわ・・・。ただ単に古臭くなく、80年代の音でしっかりロックしている音。
パワーステーション系の音が80年代ロックのアイコンであることも付け加えておこう。

 アルバムに針を落とす。
1曲目に相応しい・・・スタートダッシュの表現がぴったり合う「One Night Love Affair」、3曲目の「Run To You」から「Heaven」に続く最初の盛り上がり。高揚する展開。
裏面に進めば「Summer Of '69」で郷愁のロックンロール、B面3曲目の「It's Only Love」でのティナ・ターナーとのゴージャスなデュエット。そしてラストの「Ain't Gonna Cry」まで突っ走っていく。
 これ、CDで聴くのとレコードで聴くので比べたら断然レコードの方がドラマチックな展開なわけ。つまり、盤面をひっくり返すところも音楽の一部と言うくらい、間(ま)が合う。

 時は1985年夏。ブライアンがノリノリで全米ツアーを行ない、そのままの勢いでLIVE AIDに参加。「Kids Wanna Rock」と「Summer Of '69」が世界に生中継された。
大御所たちが出演する中、若さあふれる、さわやかなロックンロールを灼熱のJFKスタジアムに奏でていた。
そしてその年の秋には来日公演を果たす。大盛り上がりで武道館が揺れたという伝説もあるらしい(私は1991年、全日本プロレスでジャンボ鶴田が三冠ヘビー級戦を当時最も勢いのあった三沢相手に防衛した時、武道館が揺れた体験をしているが・・・関係ないか!)。

 話がとっちらかってきたが、ブライアン・アダムスの『Reckless』は、80年代の中でも飛びっきりなロックンロールアルバムで、この先、いつの時代でも聞き手を若々しくさせる作品となるだろう。
ちなみにReckless・・・訳すと「むこうみずな、無謀な・・・、意に介さず」。
これじゃあんまりなので、「青春の暴走」とでも訳そうか。

2014年10月21日
花形

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