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『ゼア&バック』 ジェフ・ベック

今年亡くなったミュージシャンで1番衝撃的だったのは、ジェフ・ベックだろうなぁ。
好きなクルマいじりをしてるギター小僧のイメージなんだよ。
2023年12月


 ジェフ・ベックは本当にわがままなのだろうか。“自分勝手で気まぐれ”という噂がよく聞かれたが本当のところどうなのだろう。
 ヤードバーズからプロの道を歩み始め、自身のグループを幾度と無く作っては壊す。同じメンバーでアルバムが2枚持たない。気に入らなかったやつは直ぐクビ。言い方を変えれば、音楽に対してストイックなんだろうな。孤高のギタリストという印象だ。
 ベックのアルバムを1枚推薦といってもなかなか選ぶことが出来ない。ジェフ・ベック・グループ、BBA、ソロという経歴の中で、毎回スタイルを変えてそのたびに僕らを驚かしてくれるので、どれも捨てがたい。

 高校時代の友達で、U君というベック・マニアがいた。フェンダーのストラトにデュアルスイッチを2個付け、1970年代後期にベックが使用していたホワイトのストラトと同じ改造を施していた。僕達はフェンダーのギターを改造することだけで目を丸くしていたが、本人は至って普通だった。U君は別に坊ちゃんじゃなかったが、いとも簡単にフェンダーを改造した。要はベックしか見えていなかったのだ。その彼が絶対的に支持していた作品は『ワイアード』(1976)だ。理由は簡単。前作の『ブロウ・バイ・ブロウ』(1975)よりもハードになったから。『ブロウ・バイ・ブロウ』はロックのインストとして話題を呼び、ベックの知名度を大いにあげた名盤だ。
プロデュースをジョージ・マーティンに依頼し、丁寧な作りの作品だ。曲間にもリズムが残る演出。特徴的なリズムパターンが多いので発売当初はJAZZ部門に入れられたほどだった。その作品の反動か、『ワイアード』には激しい曲が多く収録されていた。「レッド・ブーツ」や「スキャッター・ブレーン」なんて今でもベックのライヴで盛り上がる作品だ。
 僕はU君の影響もあったが、ジェフ・ベックよりもセッションドラマーのサイモン・フィリップスが大好きだったので、彼の華麗なテクニックとベックがガチンコ勝負している『ゼア&バック』(1980)を推したい。

 インストアルバム(フュージョン・ベックなんて言われていた)3部作の最後の作品で、「エルベッコ」「スター・サイクル」など現在でもライヴのラインナップに乗る名曲ぞろい。前作までパートナーシップをがっちり組んでいたヤン・ハマー(Key)が、レコーディング前半で辞めてしまい、残りはトニー・ハイマス(Key)を中心に制作している。他メンバーはモフォスター(B)、サイモン・フィリップス(Dr)など。このリズムセクションは世界中がピコピコしたリズムのテクノブームに踊らされていた時、渇を入れた。特にサイモン・フィリップスのオープンハンドドラムはパワフルで、ベックも相当気に入っていたようだ。当然時代的な背景から、打ち込みの作品もあるが、それだけに終わらず、しっかりとその上から生身のリズムが重なるところに僕はロックを感じた。余談だが、「スター・サイクル」は当時、新日本プロレスのレスラー紹介のBGMとして使用されていた。

 その後、『フラッシュ』(1985)では旧友ロッド・スチュアートとのコンビが復活し「ピープル・ゲット・レディ」をヒットさせた。作品発表の翌年、ベックは来日した。そして軽井沢プリンスホテル野外ステージのイベントに出た。
 “3大ギタリスト夢の競演”なんてふれこみだったが、僕は悩んだ末に、軽井沢に行かなかった。ジェフ・ベックとサンタナの競演は見たかったが、どうしてそこにスティーブ・ルカサーが加わっているかが理解できなかったからだ。後にテレビで確認したが、明らかにルカサーは2人の巨匠の前でタジタジだった。そりゃそうだ、ルカサーがギターを弾くきっかけになったスーパースターの2人だからね。
そのステージでもサイモン・フィリップスとフェルナンド・サンダースの重たいリズムが心地よかった。「スター・サイクル」や「ザ・パンプ」など『ゼア&バック』からのナンバーを聴く事ができた。やっぱり行けばよかったか。

2005年12月17日
花形

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