新約 およげ!たいやきくん。

 これは約一年ほど前に少しだけ書いてHDDにほっぽり出していたのを供養のために引っ張り出してきた物です。気が乗れば続きを書きます。
 

嗚呼、厭になる。

毎日毎日鉄板の上で、同胞たちとまんじりもせずに焼かれていては斯様な感想も出るというものだ。

我が身の焼ける音と夜を越したある日、朝日に照らされる同胞の目を見て、私は悟った

どうやら仲間のたい焼きは自我を持ち合わせていないらしい、と。

途端に私は全てが馬鹿らしくなった。自我も無いたい焼き風情に自我ある私が態度を合わせて口を閉ざして一緒に焼かれなければならないのだと。

そんな事を考えながら見た海に、私は暮らしを見出した。
自我ある物達の、山があり谷がある生活を。こことは違う、普通の暮らしを。

その後、朝日の昇りきった屋台でおじさんと思い出すには痛く、聞くには堪えず、
ここに書くには及ばない、そんな逃走劇を繰り広げ、その果てに私は海へと身を投げた。
 

 なかば入水の様な形で迎えた初めての海の底に、私の気分は最高潮を迎えていた。

少し泳げば桃色のサンゴをはじめとした様々な生命が迎えてくれるこの海が、私をも生態系に加えてくれる海が、私は一瞬にして大層気に入った。
 
 体内の餡子が少し重いのが懸念点だが、遥かまで青い海に身を置いている、という事実がそれを打ち消してなお余りある多幸感を与えてくれる。

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