見出し画像

「可愛い」を攻略せよ

京都・みやこめっせで開催された文学フリマの帰り道、このまま帰るのもな〜と思い、ふらっと梅田のルクアへ寄り道した。

「可愛い」と私

来冬からコートを新調したいから下見、あとは仕事にも着ていけそうなイケてる春服も見たい!と思い、色んな系統のお店に入る。可愛い系、クールなお姉様系、バチバチのギャル系、しっとり大人系……。その中でふと、目に留まったお店があった。
白とピンクを基調とした、THE女の子な可愛いお洋服が揃ったお店。ひらひらのワンピースにふわふわのニット。ス~~~……っと引き寄せられるように入る。何を隠そう私はTHE女の子な可愛いお洋服も大好きなのだ。

ただこういうお店はなかなか入ったことがなかった。可愛いものは好きだが、お店に入るとなると気後れしてしまう。
それは多分、数年前にイメコン診断を受けて、骨格的にも顔タイプ的にも自分は「可愛いものが似合わない」ことを知っているから。骨太で胸に厚みがある、骨格ナチュラルとストレートのMIX。子供顔でどちらかと言えば直線的な要素が多くボーイッシュな印象。「カジュアル」や「アクティブ」なものが似合う、という結果だった。

診断を受けた当初は「そっかぁ」くらいの感覚だったが、時を重ねる内に「カジュアルもアクティブも、「私」じゃなくない……?」という気持ちに襲われるようになった。オタクをしている時の私は多少フットワークが軽い面もあるだろうが、本来の私はカジュアルな人間でもなければアクティブな人間でもないと思っている。
人と関わることは好きだが、それ以上に1人が好き。ワイワイとした大衆居酒屋のような空間も好きだが、落ち着いた空間で夜が更けるのを感じる時間も好き。そういう人間が、果たしてカラフルなパーカーであったり動きやすいスニーカーを履くだろうか。もしかしたら、私と似たような性格で、そういうカジュアルでアクティブなアイテムを好む人もいるだろう。でも私はそうじゃない。
そんな考えもあって最近では「自分の好きなものを好きなように着ればいいか」と思うようになった。

だってそういうのが好き

ガーリーな空間に挙動不審になりながら、可愛い〜お洋服達を眺める。この時期には珍しく春物のお洋服が揃っていて、寒々とした外の空気感を忘れるようだった。
「気になるものがあったら合わせてみてくださいね〜」と店員さんがにこやかに声を掛けてくれる。アウターの辺りを何気なく見ていると、白いニットのカーディガンが目に飛び込んでくる。ただの白いニットのカーディガンではない、ニットを包むようにチュールがあしらわれていた。

「可愛いですよね、そのカーディガン!」と興奮気味に店員さんが話し始める。「今年はチュールが流行るみたいでして!」「こっち(グレーがかった白)は残り1点なんですよ!」「お色味どちらが気になりますか?!」「こっち(ベージュがかった白)ですね!」「是非合わせてみてください〜!」とあれよあれよと鏡の前でカーディガンを着せてもらう。
少々(かなり)勢いに飲まれてしまったが、カーディガンは文句なしに可愛かった。何よりチュールが全体をほわっと見せながらも、花嫁のベールのような、秘められた感が堪らない。

「よくお似合いです〜!」「ニットのカーディガンなので春先まで着て頂けますよ!」
この店員さん、今まで出会ってきた店員さんの中でも群を抜いてテンションが高い。だがガーリーな空間に緊張していた私にとってはありがたかった。

「今日はお買い物ですか?」
「そうなんです、春物とアウター見たいな〜と思って」
でしたら、と店員さんが売り場に何かを取りに行く。戻ってきた店員さんの手によって連れて来られたのは、胸元の大きなリボンが特徴的な、黒のボウタイブラウスだった。

想定外の出会い

「ボウタイブラウスとか普段着られます?」
「いや〜……着たことないですね……」
口に出してから気がついたが大嘘である。着たことはあるし、何なら一時期持っていた。白とネイビー、色違いで。
イメコン診断を受けるかなり前に、「きちんと見え」するかな、と思い買ったものだったが、私の骨格と素材の相性の問題なのか、着るとボディが、特に胸がえらくボリューミーになった。それが嫌で、結局すぐに手放してしまった。

それ以来、ボウタイブラウスと私との間には深い溝が出来てしまい、手放してからは試着することもなかった。そして今、何の因縁なのか目の前にはボウタイブラウス。と、そんな因縁を知る由もないにこやかな店員さん。

「絶対似合うと思うんですよ!是非合わせてみてください!」
流石に試着室まで行く勇気は無く、鏡の前で先程のニットのカーディガンと合わせてみる。

あれ…?意外と大丈夫…?何なら「良い」…?!

「わ〜!やっぱり合うと思ったんですよ!」「(ブラウスが)白だと甘くなり過ぎちゃうと思ったので黒を選んだんです!」「あれですね!パリの女性!って感じですね!」
店員さんの言葉通り、恐らくブラウスもカーディガンも白だとかなり甘くなりそうなコーデだったが、ブラウスを黒にすることで甘さは残しつつシュッとした雰囲気も出している。胸元のとても大きなリボンが更にコントラストを強めていて、可愛いけれどどこか大人っぽかった。

驚き、引っ掛かり

「まだお買い物始められたばかりですかね?でしたら是非色々見て来てください〜!」と終始明るい店員さんにお礼を言って一旦お店を後にする。
長年似合わないと思っていたボウタイブラウス。素材やデザインが違えばあんなにも印象が変わるものなのか…もしやこれがあきやさんやガールズ達が言っていた「びっくり試着」というやつでは?!??と、本当に思わぬところで思わぬ出会いを果たしてしまい、jeffrey campbelのパールヒールローファーを見つけた時のようなときめきが胸を満たしていた。

他のお店で色々アイテムを眺めながらも、さっきの店員さんが言っていたとあるワードにずっと引っ掛かりを覚えていた。

「パリの女性!って感じですね!」

パリ。フランスの首都。美と愛を重んじる国。そんなイメージ。「パリの女性」だと、何となくスタイリッシュで、フランスパンの入った袋を持ちながら颯爽と歩いているイメージがある。我ながらだいぶ偏っている。
でも、それを聞いて悪い気はしなかった。脳裏に、しゃんと背筋が伸びて自信に満ち溢れたイマジナリー・パリ・レディが石畳をコツコツと歩く様が思い浮かぶ。何なら、ちょっと、良いかもしれない。

しっくり、びっくり、これは良い?

一通りルクアを見て回り、「もう一回、今度はちゃんと試着してみよう」と、あのガーリーなお店に戻る。先程接客してくれた店員さんとは別の方が対応してくれて、カーディガンとボウタイブラウスを持って試着室へ。

まずはカーディガン。店員さんが「もし宜しければこちらと合わせられますか?」と一緒に渡された白のレースインナーと合わせてみる。
…うん、やっぱり文句なしに可愛い。中が白のレースインナーだとかなり甘めで愛らしい印象になる。でもこのカーディガンに合わせるなら黒か濃い色が良いな、と思い一旦両方脱ぐ。

次だ。問題のボウタイブラウス。
先程は服の上から合わせただけだったが、いざ試着となると色んなことが気になってくる。大きいリボンは魅力的だけど、悪目立ちしない?丈が短めだから、動いてるうちにボトムスから出てしまわない?それ以前にこれ入るのか?!??等々。
着る前から考えたって仕方ないか…と袖を通す。ボタンを留めて、リボンを結びながら鏡の中の自分を見る。一番の不安要素だったサイズは問題ない。ハリ感がある素材のおかげか、胸元の大きなリボンのおかげか、色のおかげか、はたまた全部が合わさった結果か、コンプレックスだった自分の胸もそこまで気にならない。丈は…まぁ短めではあるけれど、ハイウエストのボトムスを合わせるか、上から何か着れば大丈夫だろう。
と考えたところで、そういえば、とカーディガンを上から羽織ってみた。

あ、これ、良い。
これを着てる自分、かなり好きだ。

大事にしたいから

試着室を出て、あの明るい店員さんに「いかがでした?!」と声を掛けられる。
この時点で白いニットのカーディガンは買おうと決めていたが、ボウタイブラウスをどうするか決めかねていた。正直かなり惹かれているし、仕事に着て行って問題がありそうな感じでもない。

というより服に何か問題がある訳ではなくて、自分の気持ちの問題だった。
例えるなら、喧嘩した訳ではないけれど、何となく関わることが無くなって長年会っていなかった相手と久しぶりに会った時に、どう関わったらいいか分からない、あの感覚に似ている。
一度失敗したアイテムを、デザインも素材も違うとはいえ、もう一度迎えて良いんだろうか。またすぐ手放すことにならないだろうか。

でも、カーディガンと合わせた時の、素直な「良い」という気持ちを蔑ろにはしたくなかった。自分の中の「可愛いものが好き」という気持ちを大事にしたい。外見的に似合うことも大事だが、例え似合わなかろうが、自分の好きなものだけ身につけていたい。
自分のことも、服のことも、大事にしたい。だから、これを着て生きていたいと思った。

春を待たずして

時間を進めて次の日。
いつもなら憂鬱な月曜日だが、今日は仕事が終わったら友人とご飯に行く約束がある。いつもなら適当な服を着て仕事に行って帰るだけだが、今日は折角だから買ったばかりのチュールがあしらわれた白のニットカーディガンと、大きなリボンが特徴的な黒のボウタイブラウスを着た。流石に夜帰る時は寒かったが、心は春の陽気に包まれたように満たされていた。

本当は毎日好きなものを着て生きていたい。でも現状、そうはいかないことも多々ある。毎日好きなものを着て生きていくための、私が一番好きな自分になるための自問自答は始まったばかりで、急ぐ必要は無いから。少しずつ、自分らしく、自分の愛せるものたちを手に入れようと思う。

ちなみにご飯から帰ったあと、ボウタイブラウスは袖のボタンが両袖とも外れたので夜なべして付け直したという裏話。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?