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攻4¥2可愛さ99

※これは誰が何と言おうとゴッフィーのnoteです。

「涼ちゃーん!!!朝だよ!!!起きて!!!!!!」

トーストが焼ける香ばしい匂いと聞き馴染みのないやかましい声で目が覚める。スマホを手繰り寄せるとまだ6時らしいが、昨日は結局寝たの2時とかなんで最低でも5時間は寝かせてくださいお願いだから……

「朝ごはんをちゃんと食べてHPを回復させないと昇天しちゃうよ!早く起きて!」

 結局起きる踏ん切りがつかずに布団にくるまっていた私は、布団を部屋に侵入してきた小さい銀色の生き物に引っ剝がされ、仕方なく洗面所に向かい洗顔と歯磨きを済ませる。すると頭の中の霧状態がようやく解除され、目が覚める。席に着くとエプロンを外した同居人も遅れて席について、いただきますの声が重なった。

「ひとつ聞いてもいい?」
「なに?」
「この料理は何て言うの?」
「涼ちゃん人間界にずっと住んでるのにわかんないの?トーストとハムエッグって料理らしいよ。わたしも今日初めて知ったけどねー」
「いや、私の知ってるハムエッグと随分違うなって思って。ハムエッグのエッグは目玉焼きだけど、これはなんかスクランブルってるし……それにハムに至ってはなんで切らずに丸ごと焼かれてるのコレ?って感じ。」
「ええ!?やっぱりこれって切って食べるものだったんだ!?どんなに頑張っても切れる気配がなかったからそのまま焼いちゃった。」

 こいつの攻撃力の無さがこんなところにまで生きてくるなんて…これからはあまり硬いものは買わせないようにしないと、次は大根が丸ごと入った味噌汁なんてものを飲まされるかもしれない。 

「まあ、初めてにしてはいいんじゃない?トーストは上手く焼けてるし、卵は別にどんな焼き方でも美味しいし。」

 当たり障りのない返事をしながらトーストをかじり、食べきれない分のハムにラップをかけて冷蔵庫に突っ込む。早起きしたせいでまだ会社に行く時間までは結構あって、どうやって暇をつぶそうか考える。とりあえずテレビをつけると朝の番組がやっていて、春のコーデ特集と題してよく分からない服を着たモデルが映し出される。

「こんなに防御力のなさそうな服で外を歩いて人間界は大丈夫なの?死神のカマさんが刺さったら絶対昇天しちゃうよこんなの。」
「初手に死神のカマが飛んでくるゲームはゴッドフィールドだけで十分だから。こっちはそんな物騒じゃないの。」
「死神のカマさんが飛んでこないにしても、防御力なんてあるに越したことはないとおもうんだけどなー。頑張れば私でも倒せそうじゃない?」
「ハムの塊に負ける攻撃力4に言われても信憑性がなー」
「涼ちゃんうるさい!」

この後も、皮の服で防御力が2あるなら現代の機能性に優れた丈夫な服なら防御力3あってもおかしくないんじゃないか。とか攻撃力4に切れるギリギリの食材ってなんだろう?ネギとか?みたいなゴッフィートークを楽しみ、いい感じの時間になったのでスーツに着替えて家を出る。

「じゃあ行ってくるけど、本当に何もしなくていいから。大人しくしてて」
「心配しないで!部屋の片付けでもしとくよ。所有者の役に立つのが神器として生まれたわたしの使命だから!」
「じゃあ攻撃力4でできる範囲でよろしく。無理してオーラでも出されて家を滅茶苦茶にされたくはないから。」
「はい!いってらっしゃい!」
「ん、いってきます。」

***

 私──神崎涼子はとあるスマホゲームとかを作ってる会社で働くプログラマーだ。作ってるのはCMとかで宣伝されるような有名なものではないが、意外と好評で今年3周年らしい。といっても上からの仕様書通りにやってるだけで、自分でプレイしてる訳ではないのでよくわからないけど。

 大きい会社ではなく、私の他にプログラマーは3人しかいないため、忙しい時期は本当に忙しくて夜遅くに家に帰ることになる。そんな私の帰ってからの時間の使い方は近くのコンビニで買った酒を飲みながら大人気ゲーム、ゴッドフィールドをすることだった。世間では神ゲーだの運ゲーだのゴミゲーだの言われているこのゲームは仕事帰りの疲れた脳でやるには丁度良く、最悪の手札を肴に笑い飛ばしながら缶ビールを流し込んで寝るのが日課だった。

 昨日も「初手火の玉でドロー加速するの気持ちよすぎでしょ!」なんて独り言を言いながらそんな夜を過ごしていると、突然家のチャイムが鳴らされた。

「はい。」
「こんばんは!わたしハチェット!あなたの頼みに応えて来てあげたよ!」
「人違いですよね?」
「人違いじゃないよ!プレイヤーネーム【最凶最悪暗黒企業】さんこと神崎涼子さんでしょ?」
この人はなんで私のプレイヤーネームと本名を知ってるんだ?知り合い?詐欺?そもそも小っちゃいな何歳なんだろ?迷子なら警察?なんて考えているとハチェットと名乗る少女は勝手に玄関に上がり込んできた。

「涼子さんだと固いから涼ちゃんって呼んでもいい?」
「その前にここ私の家なんだけど?いつ入っていいって言った?」
「わたしは涼ちゃんの神器だからわたしの居場所でもあるんじゃない?」
「さっきからハチェットだの神器だの言ってるけどあなたは誰?涼ちゃんって呼ぶのも許可してないし、とりあえず警察呼ぶから。」
「えーなんで?涼ちゃんが言ったんじゃん『ハチェットがかわいい女の子だったら全然手札に来てくれてもいいのになー』って、だからかわいい女の子になって来てあげたの。」

??事態が飲み込めないが、そんなことを言った記憶はぼんやりとある。確かに目の前にいる少女はハチェットの刃と同じ色の綺麗な銀髪とハチェットの裏側みたいな色の済んだ赤い眼をしている。絶対に酔っているだけだが、薄目で見ればハチェットに見えなくも…ダメだ眠気と酔いで頭が回らない。
「それはごめんだけど、あなたが住めるスペースがこの家にはないから、出て行ってくれない?」
「それは無理だよ。わたしは武器だから一度引いたら捨てられないの。」
「くそグ●ジさんめ、余計なアプデしやがって。」
「というわけでこれからよろしくね!わたしを引けて良かったって必ず思わせて見せるから!」

次の日、流石に交番に連れて行って事情を説明したが、
「一度引いた武器は捨てられないに決まってるじゃないですか。」
と真顔で追い返された。ハチェットの不思議な力?警察がゴッドフィールドのやりすぎで頭おかしくなった?など色々考えたけど、SNSで友達の預言者がガケッツチを名乗る男の子を拾ったと話していたので、最終的にこいつは本物のハチェットなんだと考えることにして今に至るわけだ。

***

「ただいま」
「おかえり!」

 長いこと一人暮らしをしていたせいもあってか、ただいまにおかえりが帰ってくるのは随分新鮮で変な感じがする。でも、返事がないよりはあった方がいい。そう思う。
片付けてでもしておくという宣言通り、昨日まで散らかっていた酒やエナドリの缶、弁当のゴミなどが片されていて床の埃も綺麗になっていた。流石に埃の防御力は4以下だったらしい。

「別に何もしなくても良かったのに。部屋なんて住めれば汚くてもいいし。今までもそれで成り立ってたし。」
「ダメだよ!手札が一杯だと新しいカードは引けないよ。」
「アンタが一番手札を圧迫してるってツッコミ待ち?」
「わたしは可愛くて優秀な神器だから引くだけお得だよー?」
豚肉の塊にも勝てない居候が良く言ったもんだ。可愛いのは否定しないけど

中に入るとテーブルの上にはうどんが用意されていた。今度は上手く作れたらしい。手を洗って服を着替えて席に着く。

「いただきます。」
「どう?今度はいい感じでしょ?茹でるのもネギを切るのもわたしがやったんだよ。」
朝、話した時に攻撃力4で切れそうな食材についての話題が出たが、早速試してみたらしい。私の見立て通りネギはハチェットでも切れるようだ。
「前にご飯なんてカップラーメンでいいって言ったのに、なんでわざわざ作ってくれるの?私の軽率な発言が元になってここに来たんなら一応お客さんじゃん?確かに私にもてなしのスキルはないけどさ。」
「大好きな涼ちゃんにHPを高く保ってもらいたいのは当然だよ。スマイルのしずくよりロマンスウォーターを飲んでほしいもん。」
「まあ確かにコンビニご飯よりHPが回復する気はするかも」

「ごちそうさま。」
 人の作ってくれたうどんは温かくて美味しくてあっという間に食べ終わってしまった。そのまま食器を洗いお風呂に入って出る。寝る前に酒でも飲みながら昨日溶かしたレートでも盛ろう。そう思いながら冷蔵庫からお酒を取り出すとハチェットに腕を掴まれた。

「それは飲んじゃダメ!涼ちゃんが昇天しちゃう。なんか天国草っぽい。」
「今までも昇天しなかったから大丈夫。」
「天国病はある日突然パリーンって割れるんだよ!」

 私の方が力は上だからこのまま押し切って飲んでもいいけど、たまには休肝日を作るべきというのは最もな意見だ。別に長生きしたいなんて思ってないけど、本当に死んでハチェットを泣かせたい訳じゃない。正直、手札を圧迫する最悪な神器でも自分を心配してくれる存在というのは嬉しいもので、手札だけじゃなくて私の心も縛ってくるとは中々勝手なヤツだ。

「わたしはそろそろ寝るけど、こっそりお酒飲んじゃダメだからね。
おやすみ。」
「おやすみ。私もレート100盛ったら寝るから。」

スマホからゴッフィーのアプリを開いて早速真剣タイマンに潜る。夜12時にも1000人くらいこのゲームをやってるのですぐにマッチングして対戦が開始された。

試合も後半、相手の攻撃に夢見る帽子を合わせ、逆転のカードを掴みに行った私は引いた神の剣で攻撃。しかし、神の剣は夢でハチェットに姿を変えてしまい、打点が足りずに返しのダイヤモンドソードで負けてしまい。思わず笑った。

「やっぱりハチェットってどうしようもないカス神器だわ。」

「でも、可愛いからなんか許せるかも。」

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