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喪失

ドクドクドク。

何かが聞こえる。

ドクドクドク。

私の中から何かが聞こえる。

ひどく耳障りな音だ。

ドクドクドクドク。

なんの音だろう。

確かに私の内側から聴こえてくる。

ドクドクドク。

何かが流れ出している。

何が?

ドクドクドクドク。

流れる速さは一定で、音の大きさもずっと同じ。

でも確かにそれは着実に私の中から流れている。

ドクドクドクドク。ドクドクドクドク。

止まらない。

この流れだすものを止めたほうがいいような気がする。

でもどこから流れてる?

手も足も、首も顔も、どこからも何も流れていない。

ドクドクドクドク。ドクドクドクドク。ドクドクドクドク。ドクドクドクドク。

なんだか怖い。

何が流れてるの?

私の中から何が流れてる?

ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク。

何日もかけてそのドクドクはずっと彼女のお腹の奥底から耳元にまでべったりとこびりつくように鳴り響き、何かを流し続けた。

長い時間が経ち流れ出す何かは止まったらしく、彼女は崩れるように倒れていた。

いや、止まったわけじゃない。

どうやら全部、彼女の体から流れ出てしまったらしい。

流れていたものは、

心。

心をすべて無くしてしまった彼女はただそこに目を開けて横たわっていた。

577文字

#詩 #喪失




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