美容師さんたちとの思い出。ちょっと悪い思い出だけど。
学生のころ、憧れてたかっこいい美容師さんがいた。
背が高くて小顔で、なんか10頭身みたいな男性だった。口数が少なく、クールで魅力的だった。
「今日どうする?」って言いながら私の髪をシャッと触る雑さがちょっと好きだった。
きっと10ほど年下の私なんて彼の眼中にはなかったはずだけど、それでも彼の気を引きたくて、頻繁に美容院に通って髪型を変えた。パーマをかけたり茶色にしたり、食費を少し削ってでも美容院にお金をつぎ込んだ。
「すごくかっこいい」って美容師さんのことを話すと友達も行ってみたいと言ったから、よく友達を連れていったりもした。彼に会える回数が1度でも増えるのがうれしくて、美容院に行っては彼に話しかけた。
でも、これっぽっちも、一ミリも私に関心を示さない美容師さん。
まったく彼のリーグには入ってないんだろうとは感じていたけど、それでも別に構わなかった。ただ楽しかったからだ。
そしてそのお店にはとても綺麗な大人のお姉さんの美容師さんがいた。髪は肩くらいで柔らかい雰囲気の女性。まだ見習いくらい。私は彼女にも憧れていた。
かっこいいお兄さんと美しいお姉さんのやりとりを眺めるのも楽しかった。
私の髪にラップを巻くときに手間取っている彼女に彼は笑いながらツッコミを入れたりしてて、親しげな二人の空気を眺めていた。もしかしたら彼らは付き合っていたのかもしれないな。そのときは思わなかったけど。
そんなときに大きな地震が起こった。
お店がどうなったのか私は心配した。
私は以前、その女性の美容師さんと電話番号を交換していた。親しくしていたし、彼らがお客さんと気軽にご飯に行ったりすることもあると言っていたので、いつかそんなふうにどこかに一緒に行けたりなんかできないかなって憧れてたから彼女に電話番号を聞いたことがある。
「いつか、ご飯とか連れてってくださいー」とかって軽い感じで番号を聞くと、すんなり「いいよー」って笑顔で紙にご自分の電話番号を書いてくれた。何もためらうことなくスラスラ書いて、紙を手渡してくれた。とてもうれしかった。
地震の後、お店は閉まった。お店どころではなくなったから。
連絡が取れず気になった私は彼女に電話をした。そのときの会話を今でもある程度覚えている。
「○○さんのお宅ですか?」
「いえ、違いますけど」
電話に出たのは年配の女性だった。かけ間違えたと思った私は謝って電話を切り、もう一度番号を確かめながら電話をかけた。
「○○さんのお宅ですか?」
「違いますよ・・・」
同じ女性が電話口に出た。私は違和感を感じた。番号を押し間違えたとは思えない。
「あのぁ、電話番号は○○で間違いないですよね?」
「えぇ、そうですけど・・・」
親切ながらも不審げな返事が返ってきた。教えられた番号は確かにここに繋がっている。もう一度電話をかけなおす失礼はできないので、確かめようと思った。
「えっと、すみません。以前からずっとこちらの電話番号でしょうか?」
「えぇ、うちはもうずっと昔からこの番号ですよ」
電話を切ったあと、嘘の電話番号を教えられたんだなと思った。自宅の電話番号をあんなにスラスラ書き間違えるはずはないよね。受け取った紙は大切にとっていたし、疑う気持ちなんてこれっぽっちもなかった。だから電話して確かめたことももちろんなかった。
すごくショックだったし、悲しかった。
若い子が純粋に慕ってたんだよね。彼と彼女を。ちゃらちゃらして見えてたのかもしれないし、なついてきてうざいって思われてたのかもしれないけど、嘘つかなくてもいいのに。
普通に断ってほしかった。「ごめんね。個人情報は教えてないんだよ」って。それで良かったのに。
だけど彼らも商売だったんだなって思った。私をうまく操っておけば友達も紹介してくれるしね。
彼女が嘘をついた真意は分からないけど、分からないままだからこそ、今でも二人がどこかでヒソヒソとあの子、いいカモだね、なんて笑いながら言ってた姿を想像してしまう。
風の便りで彼が別の都道府県の系列店舗で勤めていると聞いた。
それから数年後、私はその街に偶然、引っ越してきた。
だから大通りにあるそのお店の看板を見たときに、「もしかしたら、ここにいるのかな?」って思った。さすがに行かなかったけどね。これで行ってたらストーカーに思われるよね。
ずっと昔の残念な思い出。
今でも美容師さんの目が笑ってるかどうかちょっと気になるのは、このころの記憶が影響してるのかもね。
お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨