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#21 誕生日だから

白木課長に罪はないのは分かっている。仕事上のトラブルを設計担当の中山さんが対処する必要があるのも分かっている。

だけど、奥さんがいて土日に会えない中山さんと初めて土曜日に会える約束をしてたのに。土曜日は私の誕生日なんだよ。

その土曜日に仕事の指示を出した課長が嫌いになりそうだ。私と約束している土曜日なのに、断ってくれない中山さんだって恨めしい。

仕事と私とどっちが大事? なんて言うほどバカじゃない。そもそも中山さんが私を好きかどうかさえ分からない。だから何かと比べられて勝てる自信なんて少しもないんだ。でもやっぱり思ってしまう。どうにかしてよって。こんなに会いたい私の気持ちをどうにか受け止めてよって。

その夜、中山さんからラインにメッセージが届いた。

「ごめんね。土曜日が仕事になってしまって」

「断ってもらえませんか?」と返信したい気持ちをおさえて「お仕事だから大丈夫です」と物分かりのいい言葉を返す。カレンダーにピンクの丸がついている土曜日の日付が少しゆがむ。じんわりと目に涙が浮かんで、寂しい気持ちが押し寄せる。

「明日、夜にご飯行けそうかな?」

いつもと同じような夜ご飯のお誘い。もう土曜日のことは中山さんの中で終わったことなのかな。会えなくなったことをもっと残念がってほしいと思う私が贅沢なのかな。

「はい。大丈夫です」

私は中山さんからの誘いを断ったことはない。奥さんがいてもいいと覚悟して飛び込んだのは3ヶ月前で、それからどの平日も中山さんが誘ってくれるのを期待して予定は入れなくなった。ラインも中山さんからのメッセージが来ないかと1日に何度も確認するようになった。

私の毎日は中山さんであふれている。

会える日は浮かれ、会えない日は落ち込む。会える日は笑顔で、会えない日は少し暗い表情になってしまう。バランスの悪い私の恋。不倫になんて向かない私なのにどうしてこんなことになってしまったんだろう。

ぼんやりとスマホを眺めながら、中山さんのたわいもない会話を目で追う。仕事のお客さんのこととか、さっき帰りに行ったコンビニでのこととか、ちょっとした雑談をやりとりする。中山さんと繋がる時間はいつも幸せな気持ちと切ない気持ちがまじっているけど、今日はいつも以上に切ない。

岐阜・・・。

中山さんは土曜日は岐阜に行く。

さっきからそんなことが頭に浮かんでいる。仕事で土曜日に岐阜に行く中山さん。土曜日は私の誕生日。仕事だから中山さんは一人だ。そんなに長引かないと課長は言っていた。

私、岐阜に行ってもいいかな。

中山さんと誕生日を一緒に過ごしたい。

1年に1度だけの特別の日だから、毎日精一杯我慢している私にご褒美ちょうだいよ。中山さんの時間をもっとたくさんほしいよ。

明日の夜、レストランでそう中山さんに言ってしまう自分を想像する。

中山さんは優しく頷いてくれるんだろうか。

もし断られたら、私の心はもう粉々になりそうだよ。


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#短編小説 #連載小説 #中山さん #誕生日 #岐阜 #仕事

中山さんはシリーズ化しています。マガジンに整理しているのでよかったら読んでみてください。同じトップ画像で投稿されています。

続きはこちらです。

第1作目はこちらです。ここからずっと2話、3話へと続くようなリンクを貼りました。それぞれ超短編としても楽しんでいただける気もしますが、よかったら「中山さん」と「さやか」の恋を追ってみてください。

『中山さん』シリーズ以外にもいろいろ書いています。よかったら覗いてみてください。



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