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君の小説をまったく理解できないけど、もっと理解できないことは君が私を愛しているということ。

「薔薇のように転んでみて」と君が言うけど、薔薇のような転び方がまったく分からなくて、黙ってしまった。

「紫陽花のように叫んでみて」と君が言うけど、紫陽花のような叫び方もぜんぜん分からなくて、黙ってしまった。

いつもよく理解できないことを私に投げかける君はロマンチックなのにキテレツな物語を書いている小説家。

小説家と付き合うのは初めてだから、こんなものかと思っているけど、どうなんだろう。君が特別、変なのかどうか。

とんでもなくご立派な賞をとっちゃった君を批評家は褒めちぎる。

我々の常識のはるか向こうを描く人だそうだ。

ロマンチックとキテレツはあまり同じ線状には並ばない。それを並べてしまえる君は才能ある若者なんだって。

世界はおかしい。こんなよく分からない君の小説を称賛するなんて。

印税が転がり落ちるように君のポケットに流れてくる。小説家にお金はいらないと君はそのポケットを私にさっと手渡す。

手に乗ったポケットはズシッと重すぎる。こんなのいらない。だからそれを家の近くの橋の下の大きな石の上に置いたら、犬がやってきてポケットをくわえていった。

あの犬はどこの犬だっけ。

「向日葵のように泣いてみて」と君が言うけど、向日葵のような泣き方もちっとも分からなくて、黙ってしまった。向日葵っていつも笑ってるじゃない?

私は薔薇にも紫陽花にも向日葵にもなれない。君の望むことも花たちの気持ちも何一つ分からない。

ひたすら変な質問をする君と、黙ってしまう私。どうせ私は黙ってしまうのに、君はどうしていつも尋ねてくるんだろう。

しかも私が黙るのをうれしそうに眺める。それはそれは愛おしそうな目を向ける。たまに私の頭を撫でる。

分からない。

君が私をどうやら世界一愛していることが一番理解できない。

私はこんなに普通なのに、君は私のどこを愛したんだろうか。


顔かな。


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