見出し画像

戦略的モラトリアム【大学生活編⑥】

日付 7月中旬  試験終わり次第各自夏季休業!

曇り空の日曜日。鉄塔は相変わらず天を衝くような高さでキャンパスの横に鎮座されている。どんよりとした曇り空と街中の雑多。妙に静まり返ったキャンパス。部活動だろうか、数人のユニフォームが歩いている。講義はないので、日曜の大学は日ごろの雑多とは比べ物にならないほどのがらんどう。

シンと静まり返った大学図書館は自習室には10人くらいの学生が見える。流石に日曜日にまで、大学で勉強する奴は稀なのだろうか。自分はとりあえず個室の自習スペースに入り、前期試験の自習をした。試験直前の日曜日。自分はこんなところで時間をつぶしている。今考えると、とても滑稽な描写だ。高校を辞めて、オフロードをずっと走ってきた自分が、またレールにハマってトコトコ走っている。しかも今度は実直に向かい合って。

高校のときはこんなことなかった。部活で悩み、人間関係で悩み、休み時間に教科書を開く奴なんて……休日に勉強しに図書館に行くなんて……

見つかりでもしたら、「アイツ休みに勉強してたぜ」と、こうなる。何の話題もない地方のド田舎のクズどもの噂話に。

重くのしかかる同調圧力と没個性化。

できるだけ目立たないように。

奇異な行動は控えるように。

必要以上にいい子ちゃんにならないように。

そうやって地元の田舎では、稲穂が丈を揃えるかのように、子どもが大人になっていく。そうやって自分は10代後半まで生きてきた。

今は日曜に図書館で勉強しようが、深夜に松屋で牛丼を食べようが、関係ない。やっぱり大学は自分に合っている。いや、地元から遠く離れたのは正解だったのだろう。

静かに席につき、5時間ほど机に向かった。準備万端かどうかは分からない。しかし、何とも言えない充実感と疲労感が身体を満たしていた。

教養学部のような何でもありの学部なので、とにかく興味のあるものを貪るように履修した。

西洋史概説

発達心理学

プレゼンテーション実習

社会学概論

……まぁ、シラバスの説明は読んだが、とりあえずINSPIRATIONで。

それとは別に教職課程も履修しているため、教員関連の科目も数個入っている。勿論教員になる気なんてありはしないのだが、今までの人生の反面教師として、今後の参考にしようという気持ちからの履修だった。どす黒い腹の中は自分の毒牙がこれでもかというくらい込められていたわけだが。

講義ではいたっておとなしく黙って聞いていた。

「そんなに教科書通りには学校はうまくいかないよ。自分のようなイレギュラーだっているのだから」

半分のにやけ顔は心の奥底に隠しながら、ただ無心で聞いていた。まさに「単位のため」の心理で。本当に「教員養成」というものを近くで見てみたくなったのだ。

それは動物園で稀少種を見るような気分だった。

とにもかくにも、そんな邪な大学生がはじめての前期試験を迎える。

何故だろう。不安と興奮が半々。

それはレールに再びはまった窮屈さを楽しむような列車の気持ちだ。

夜は相変わらずラジオとともに更けていく。

「オールナイトニッポンエバーグリーン!!……♪♪」

深夜か早朝かわからない時間に自分の夜は更けていった。

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》