震災クロニクル6/1~30(47)

街に活気が戻ってきた。いや、正確には「活気」ではなく、人の「混乱」だ。色んなところから色んな人が来る。もちろん望まぬ輩もたくさん。

稼ぎに来ているのだから、もちろん出稼ぎ感覚でこの街にいるのだろうが、とにかくタチの悪い人が多い。ラーメン屋での喧嘩、居酒屋での喧嘩。中学生への声かけ事案。車に連れ込まれそうになっただの、とにかく不安と治安の悪さがこの街を包んでいた。学校の校庭に黒いトンバッグが埋められた。中身は放射性物質を含んだ汚染土だ。どの学校の校庭にも重機が入り、何十袋もの黒いトンバッグが埋め込まれた。

なんとも悲しい光景だ。ここに何が埋まっているとも知らずに子供は遊ぶのだろうか。いや、カラーコーンをたてて、近づかないように促すのか。

市内の中学校は区域によって、校舎や校庭の除染をし、再開の準備をしている。町の至るところに重機の姿が見える。

「本当に学校再開するのか?」

住民から不安の声が飛ぶ。

この地域の学校は原発から30キロ圏外の中学校に仮説校舎を建て、バスで行き来している状態だ。ここはあくまで「屋内退避」区域であり、避難準備の状態だ。生活することが推奨されていない地域。そんな中で、学校の校庭に汚染土を埋めるということは、どのような意味をもつのか。
もちろん再開は見送ると思うところだが、ここにきて、なんと再開する動きだ。

街全体がとても焦っている。
「急いで復興してますよ」
と、大声て叫んでいるような必死さ。

市内にある各工場にも再開の要請をしているとのこと。

銭湯で人となりの雑談が自分の耳にも入ってくる。市役所がどう動いているのか、人の噂話を繋ぎあわせると、どうやらこの街に人をどうにか戻そうとしているようだ。

気持ちはよくわかる。震災がなくてもゆっくりと人口は減っていくであろう地域だ。地方の過疎化が進んだお年寄りの街である。震災があって、さらに人口が減っていくのに危機感を覚えたのであろう。

しかし、本当は順番が違う。

人を戻すように呼び掛けるよりも先に

戻っても安全な環境を整備することが、地方公共団体の責任であろう。それらを同時に進めることなんてあり得ない。

どんな憤りも街の雑多にかき消されるほどの混乱が、震災の異常さを象徴している。

誰もが「安全」「安心」を復興の引き換えにして、袖の下に隠した。それが大きなしっぺ返しになることを彼らはまだ分かってはいない。

子供の放射線バッジとホールボディ検査が始まっている。いったいどんな結果が出るのであろうか。親は不安で一杯であろう。もちろんその結果が真実である保証はどこにもないのだが。

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》