震災クロニクル3/28(34)

電車に揺れながら、自分の心は東京にいた日々を思い返していた。しかし、感情は驚くほど薄くなり無表情でその思いを噛み締めていた。

カプセルホテルでの出来事
親戚との軋轢

この2つは自分のこれからの糧となるだろう。

良い意味では人の温かさ。
悪い意味では人の業の深さ。

そんなものに当てられて、自分はくたびれた雑巾になった。結局のところ、この世はサバイバル。
生き残りのゲームに身を投じるしかない。

ただ、降り注ぐ災難のなか、最期を迎えるなら故郷をえらんだ、あれだけ嫌っていた故郷を。

この気持ちを説明することなできない。いや、きっと自分自身も理解することはないであろう。震災を通して郷土愛が芽生えた訳ではない。ただゆっくりと目を閉じるときは見慣れた風景の方が心穏やかで逝ける気がしていた。

栃木県の黒磯にたどり着いた。駅から出てみると本当に閑散としている。人の気配はあまりない。
車は……奇跡的にそのままだった。

よかった。足ができた。

とりあえずエンジンをかけると、勢いよく車が唸った。調子が良い。そのまま帰ろうか、それとも……

何を思ったか、自分は役所に向かった。避難所の有無について聞きたかった。役所に着くと受付で尋ねた。

「福島県から避難してきた者なんですが、避難所はありますか」

「福島の方ですか」

そう言うと、受付の中年男性は言葉を詰まらせ、奥の方で数人と相談している。きっとダメなのだろう。予感はしていた。

「今のところ、福島県からの避難受け入れ先はないのですが……」

「そうですか。わかりました」

本当にあっさりしていた。そうなることは大体予測していた。自分も簡単に引き下がった。粘ったところで結論は同じだから。やはり「汚染地域」に帰るしかないのか。

もう夕方。ガソリンは半分くらい。どこまで走れるだろうか。黒磯の街中を国道4号線を目指して走っていた。

あっ!!!

ガソリンスタンドが一件開いている!!

ここで助けが舞い降りた。
しかも今チェーンを外したような開店したばかりの様相だ。なだれ込むように車が次々と入っていく。自分もその列に加わった。

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》