「花火」

「花火で?」

「そう、ファイア―フラワー。今日、やらない?」

日本人のカタカナ英語で話す友人は、片手にライターを持って軽く振った。

「今三月だよ」

「大丈夫、ある極秘ルートから手に入れたから」

「なにそれ」

「で、どうするの?」

「……やる」

火をつけると、暗闇にカラフルな光が飛び散る。嫌なものが吹き飛んでいく。その瞬間を思い描いただけで魅力的だった。火は危険なものなのに。不思議だ。

彼女はニコリと笑って言った。

「言うと思った」

「けど、どこでやるの? 場所とか決めてるんでしょうね」

「うちの裏庭。今日うちの家族いないんだ」

「了解。じゃあ、また後で」

彼女のうちに着く頃には日が暮れていた。花火には丁度良い時間だ。

「お待たせ」

「じゃあ、始めるよ」

火をつける。花火から火の粉が飛ぶ。下に置いた紙に火が移り、赤々と燃えた。

「これ、見られたらやばいね」

「そんときはそんときよー」

あ、キャンプファイアーとか言ってごまかそうか。

そう明るく言って花火を振り回す。紙は燃える。私と友人の中学時代、すべての写真。もらったばかりの卒業アルバムさえ入れてしまった。女子生徒の笑顔の写真が、炎に包まれていく。

「さよなら」

見なくて済む。もう、二度と。

「やっと復讐できたね」

彼女は穏やかに笑った。

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