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呪いの「私なんか」

私の勤め先はブラック企業として報道されたりすることもある世間的に認識されたブラック企業で、地元の高校にも推薦入社を「ブラックだから」と拒否られるレベルなんだけど。氷河期世代で計40社落ちして就職一浪した私が、20年以上しがみついている会社。

だから採用してくれて感謝している、というのもなくはないけど。何より感謝しているのは、新人教育をしてくれた先輩上司。今で言うならパワハラなんだけど。何かにつけて「私なんか」というのを「うるせぇ、やれ。」と言ってくれた人達。

生育歴の関係で少しでも叱責されると身体を固まらせ防御体勢に入り、口癖は「ごめんなさい」「すいません」というくそめんどくせぇ新人だった私。それどころか失敗したり叱責を受けそうと思うだけでも、背中や手足を強張らせアルマジロみたくなってた。私が指導担当なら「こいつやべぇ」と、引くと思う。てゆうか避ける。

おまけに物覚えは悪く、手先はアロンアルファを持たせれば直したいものではなく自分の指をくっつけのたうち廻るレベルの不器用。頭の回転も悪い。親にも「本当に何も出来ない」と言われ続けてきたし、超絶使えないと自分でも思ってた。

だから就職後も、予想通りさっぱり使えるようにならなかった。それを「なんでやらない?」と言われ、アルマジロのようなうなだれ防御体勢で「すいません」連呼の私に「出来るかどうか決めんのは俺だ。責任取るのも俺。お前が勝手に決めんな。うるせぇ、やれ。」と、言ってくれた先輩上司達。成果はさっぱり上がらなくても「うるせぇ、やれ。」と、チャンスをくれた。周囲が見かねて「その子には難しいんじゃ…」と言うのに「ちょっと黙って」と上役相手でも言うので、こっちがハラハラ。

同期よりかなり遅れて、少しずつ成果が見えてくると「出来んじゃねぇか」と、ニッと笑ってくれた。泣きながらお礼を行った時は「俺が泣かしたみてぇじゃん」と逃げられた。

「私なんか」から「私やります」に変えてくれたのは、あの人達だった。

でもその環境は、20代までで。

年齢も成果も上がれば、指導対象でもなくなる。それから出会った人からの評価は「でしゃばりで生意気で我が儘な女」だった。

今年度の上司には「それで成果が上がるでしょうか?」と言うと「少し弁えて」と言われた。過去の成果は「あれ、たまたまなんでしょ?」と。「アルバイトの人が子供の発熱でよく休むから、あなたの子供はそれと重ならないように。」とか。単に嫌われてるとか、頭抑え込んでおきたいとかだったんだろうけど。

そう言われると、処世としてこういうべきと思った。

「はい、たまたま運が良かったです。」

「出過ぎたことを申しました。」

処世として言った、つもりだった。私もうおばさんだし、会社員としても20年以上勤めたベテランだし。あんなに自信着けさせてもらったし、実績だってあるつもり。これくらい全然平気。内心舌でも出しとこう。そのつもりだった。

なのにこれらの言葉を口にした途端、何をしても成果が上がらなくなった。

現上司は叱責などしなかった。

「俺の言う通りにやって。もっと効率よく。勝手に判断しない。余計なことはしないで。」

それは柔らかに言われたのに、足許から何かが絡み付く。膝カックンでもされたみたい。

「ほら、やっぱり。私なんか。」

頑張ってきたつもりでいたものが、私にはそもそも何かあったっけと虚しく萎えていく。かけてもらった魔法が解けるように。どうせ履かせてもらったゲタが脱げただけじゃない?と。またしても手足が強張る。成果が上がらないからか懲罰なのか、権限もどんどん減らされる。

権限を職分に対して最小限にされた頃、これより下はないしと過去を振り向いてみた。調子良かった時って?と。

ずっと自分に言い聞かせていた事を思い出す。呪文のように。

「こんなに頑張った。こんなに教えてもらった。この私に出来ないわけない。やれるやれる、私はやれる。」

と。ほぼ自己暗示の洗脳だけど。そうしないと、すぐに絡み付くから。「私なんか」が、呪いのように。


口に出していたわけでは勿論ない。内心言っていただけ。そして誰もそれを否定してはこなかった。それだけ。要は気の持ちよう。「いつまでそんな『私の中のか弱い女の子』の面倒をみなきゃなの」と気恥ずかしさもあったけれど、そんなことも言ってられない。もう一度、その呪文を自分にかけた。

「私はやれる」

それだけで、成果は上がり出した。ただ、上司から見て反抗的には見えたかもしれない。「弁えた」返答はしなくなったから。でも、それを言葉にしながら自分に「私はやれる」の呪文はかけられなかったから。

インポスター症候群という言葉は、その最中に知った。媒体は忘れたけど、ジェーン・スーさんの声で。私だけではない、と知ることはとても大切。私が、私だけが弱くて出来ないのではないって。

件の上司は、私に直接指示しなくなった。

「私なんか」と言っていては能力を発揮できない、と指導してくれた先輩上司は知っていたのだろうか?単に怯えすぎる私が、とりあえず動けるようにと思ったのかもしれないけれど。

その先輩上司達、今はもう定年退職した人もいる。年の近い最初に指導してくれた先輩はあっという間に出世して、あっという間に主流派から外された。「うるせぇ、やれ。」の中身を解説してくれた上司はその沢山の成果を嫉妬され、うつ病になった。

うん、うちの会社やっぱブラックだ。



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