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変態昔ばなし 続き

☆-HIRO-☆ 番外
2023年12月15日(金)

各地に蔓延する慢性マタギ中毒に苦しむ患者に向け、また感染を恐れる一般人には免疫をつけるべく、懲りずに変態昔ばなしをまた書いてみました。

前回のおさらい

シマやんの里で歓迎の宴に呼ばれ、魔多餽がヘベのれけになっていた頃、悪ガキに連れ去られたハニワは好き放題に遊ばれていた。
投げられたり、玩具の弓の的にされたり、踏まれて土に押し付けられ型抜き遊びされたり…
やがて悪ガキも遊び疲れ、お腹も空いて家に帰る事にした。ハニワの口にワラを通して結びつけ、グルグル振り回しながら帰っていった。つい振り回す手に力が入り、ワラは千切れ、ハニワは空高くへと投げ出されてしまった。
ちょうど近くにいたトンビが投げ出されたハニワを餌と勘違いし、嘴に捉えて飛び去った。悪ガキはなす術もなく見上げるだけだった。

上空を飛びながらトンビは捉えたものが固くて味気なく、餌ではないと気がつく。“なんだぁ”と上空でハニワを放り出した。
“ひえぇぇぇ…” ハニワは木の葉のように回りながら落ちて行く。

落ちた先は、ある年寄り夫婦の家の庭だった。
庭では爺さんがひとり黙々と、婆さんに言いつけられて洗濯物を干していた。そんな爺さんの頭にコツンと当たるものが…
「オイ婆さんや、空から小さい子供が降ってきたぞ」
奥で昼寝していた婆さんが不機嫌そうな顔で出てくる。
「なんだい、うるさいね。どれ、見せてみな」
「婆さんや、これはきっと子宝に恵まれなかったわしらへ天がくださったのに違いないぞ」
「やかましいね。子供ができなかったのはアンタが役立たずだからじゃろうが」
「……………」
ハニワを触っていた婆さんは片方の腕を少し押すと微妙に振動することに気がついた。
「これはアタシが預かっておく。アンタが触ったら承知しないよ」
「いや、ワシらの子として二人で大切に育ててやろうよ」
「口答えするんじゃないよ! サッサと洗濯物干し終えないと、晩めし抜きだよ」

その晩から婆さんはハニワを手にして寝るようになった。
夜中にふと爺さんが目を覚ますと妙な音が聞こえてくる。
“ぶい〜いぃぃん”
何かくぐもったような音が婆さんの布団の中から…何やら婆さんはうなされるように、息も荒い。
爺さんは心配になり、声をかけようとしたが、どうせまた怒鳴りつけられるだろうと思い止めておいた。

ある日、爺さんが取り込んだ洗濯物をたたんで箪笥に直していると、見慣れない小さな箱が目についた。
なんだろうと開けてみると…
中からハニワが出てきた。
「お爺さん、助けて下さい。毎晩お婆さんの相手をさせられて、もうボロボロです。若い娘さんならともかく…もう辛くて辛くて…」
「ほう、それは気の毒に。うちの婆さんは人使いが荒いからな。よし、わしが逃がしてやろう」

爺さんはハニワに、お椀の舟と棹の箸、護身用に針の刀を与えて裏の小川から流してやった。
「達者でのう〜」
「でもお爺さん、後で叱られませんか?」
「なぁに、勝手に旅に出たんじゃろうと、とぼけておくわい」

ハニワは川をゆっくり流されて行き、やがて海に出た。
カモメが飛んできて、魔多餽はシマやんと北へ旅立ったと聞かされる。それでは自分も後を追いかけようと決心した。

途中、何度も渡り鳥にシマやんの里の方角を教えて貰い、時間はかかったが、どうにか迷わずシマやんの里へ辿り着いた。

ハニワは魔多餽を尋ねて何千里…もの旅をしてきたのだと、シマやん達にこれまた歓迎を受ける。早速、魔多餽との感動の再会に…ハニワは懐かしさと嬉しさのあまり会う前から早くもウルウルと…

…あれ、どちらさんですか? 
ハニワが目にしたのは、ぶくぶくと玉のように太ってしまった魔多餽の姿だった。
連日のもてなし、酒池肉林の大宴会のおかげで魔多餽はすっかり太ってしまっていた。それがかつての魔多餽と分かるのはオカッパ頭の髪型だけだった。
シマやんも同様、まるまるとすっかり太ってしまった。もう重くて飛ぶこともできない。

さて、そろそろ帰らねば。しかし、どうやって帰ろうか。
魔多餽は血色も良く、まるまる太ってかなりの重量オーバー。シマやん自身ももう飛べない状態。
魔多餽は里の者に、もう帰りたいのだが“足”がないと相談する。
すると、歩みは遅いが確実に進んで行くと言われ、クマを世話してくれた。クマも黙って請け負ってくれたのだが、道が分からないので、案内役にシマやんがついて行くことに…途中で落ちないようにハニワは紐でくくり、魔多餽が首から下げて行くことにした。

そして魔多餽は道中危険な目に会わぬようにと渡されたマサカリ担いでクマにマタがりノッシノッシと難波に向け歩き出す。
ハイシどうどうハイどうどう。
途中、渡し舟で海を渡り、山の中でマタギに会うこともなく、きのこ村も通り過ぎ、ゆっくりと長い道のりを進んで行く。

魔多餽は家に帰れる事が嬉しくなり、また前後に体を揺らせる。クマはガッシリとした体格なのでビクともしなかった。おかげで魔多餽は長い道中も飽きずに進めた。
また、おしゃべり好きのシマやんもいい退屈しのぎとなった。

何日もかかったが、無事に難波まで戻って来れた。役目を終え、クマは黙って来た道を戻ろうとする。
お礼にアクマキ、モシコ、薄墨、飛火野など北にはないだろうお菓子をたくさん持たせた。クマも甘い物は好物なようで黙って受け取ると帰っていった。

さてシマやんは長旅を終えても体重は戻らずに、もう飛んで帰ることもできなくなっていた。それに魔多餽のそばにいる方が楽しいと思うようになり、当分の間は魔多餽と一緒に暮らすことにした。

それからはハニワも一緒に、三人揃って仲良く変態生活を楽しんだそうな。
めでたし めでたし。

参考文献


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