小学生の頃、ザリガニを飼っていたことがある。用水路で捕まえたものだった。可愛がっていた。一度、脱皮する際、理由はわからないが右のハサミを失ってしまい、その後しばらくはアンバランスな見た目をしていた。そんな少し馬鹿っぽいところも可愛かった。

　ある日、小学校でザリガニの話をしていると、友達（以下B）もザリガニを飼っていると分かり、話が盛り上がった。するとBが、ザリガニの水槽に入れる水をミネラルウォーターにしている、と言い始めた。本人曰く、そうすることでザリガニが大きく育つらしい。小学生にとって、デカイは正義である。しかもデカくてかっこいいものとなれば尚更である。

　その日学校から帰ると、すぐにミネラルウォーターを入れさせてくれるように親に頼み込んだ。しかし、親の許可は得られなかった。結局、「そんなことよりちゃんと世話をして丁寧に育てた方が大きくなる」みたいなことを言われて丸め込まれてしまった。

　今思えば、ミネラルウォーターを入れたからと言ってザリガニが大きくなることはないのだ。ただ、当時の自分にとってそれは真実だったし、実際に自分で試してみたいと言う好奇心もあった。それまで自分にとってミネラルウォーターはただの飲み物であり、水槽に入れるものではなかったからだ。

　Bも冗談のつもりで言っていたのかもしれない。ミネラルウォーターを入れて飼っている内にどんどん成長していくザリガニを見て、ミネラルウォーターを入れたから成長した、と勘違いしたのかもしれない。個人的には勘違いだったのかな、と思っている。ただ、あの頃よく流れていた“ウラ技”はこう言う勘違いから生まれていたのかもしれない。