ひんやりつばき、あまいさくら

空くんと一緒に稲妻の観光に来た七七が、綾人さんと綾華さんと仲良くなる話です。

綾人さん復刻記念(※書いていた当時)も兼ねた七七と神里兄妹のやり取り小説です。

・変転の塵の活用方法自己解釈気味
・綾華さんが緋櫻毬のスペシャリスト設定

参考資料

・綾人さん、綾華さんの元素爆発
・綾人さんのオリジナル料理の説明文
・綾華さんの服装の説明文
・【原神】ストーリーPV「雪晴れに綻ぶ椿」

※初出 2022年12月24日 pixiv


不卜盧。

玉京台の正反対の場所に位置するそこは璃月でも有名な薬舗である。長い階段を登り切ると、そこにはまるでサザエの貝殻のような独特な屋根の造形をした建物が鎮座する。入口はまるで来るもの拒まず、と言っているかのように簾が上げられて開放的になっている店内が処方箋を片手に持つ患者を出迎える。中から漂う薬草の香りが鼻腔をくすぐり棚には所狭しと整理の行き届いた薬草達が並べられている。優れた医学者、白朮が店主を務めるここはよく効くことで有名である。また良薬口に苦しの言葉に違わずよく効いても苦い薬にぐずる子供も多いとか。

そんな不卜盧に在籍する薬採りであるキョンシーの少女、七七は仕事柄、植物や花を見ることが好きで、半ば趣味と化していると言っても過言ではない。

その中でもとりわけ可愛くて綺麗な植物や花が好きなのである。

それが、例えば元素力によって生み出されたものでもあってもその対象に入るのだ。

稲妻、白狐の野付近の浜辺にて。

「「神里流…」」

「水囿!」「霜滅!」

左右のアシンメトリーな長さに揃えられた群青色の髪と藤色の瞳を持つ神里家現当主たる青年、綾人。

氷雪色の瞳を持ち、薄氷色の髪を兜飾りを模した髪飾りで括ったポニーテールの少女、綾華。

見目麗しい2人の兄妹の掛け声と共に、周囲は水元素で作られた椿と空中から滴り落ちる雫、それらを包み込むように氷元素で作られた櫻吹雪が小さな嵐となって前方に向かっていく。

それによって編み出されたこれまた美しく生まれゆく花々は、その美しさに油断すれば、花びらを丸ごと落とす椿のように、刹那の間に散りゆくような終焉を味わうような錯覚に陥るだろう。

そんな元素爆発によって、ヒルチャール・雷兜の王をはじめとする魔物達を一掃していく。やがて黒い粒子となって消えれば、周囲には魔物が居なくなった。

スッ
クルッ
スゥ…、キンッ
「これで、しばらくは大丈夫でしょう。」

スッ
クルクルッ
「えぇ。私もそう思います。」

周囲を確認したして、綾人はくるりと回転させて透明な柄にしまうように、綾華は持ち直してから空中へ放り込んで回転させるように武器しまいながら、安心したように言葉を漏らした。

「やっぱり2人は息ぴったりで凄いな…。」

「いえいえ。旅人さんの手腕による功績も大きいです。」

「そうです! 雷元素を纏った攻撃によって、相手の防御力も下がりました。」

2人の連携攻撃に、長い金髪を三つ編みにした旅人の少年、空は琥珀色の瞳を瞬かせながら、関心したように声を漏らした。そうすれば、すかさず綾人と綾華から称賛の声が上がる。

それは、2人が空に対して、心の底から慕っている証拠だろう。実際、雷元素を纏った空の攻撃によって、綾華の氷元素の攻撃と合わさった超電導反応を起こしたことで、魔物の防御力が下がってより大きなダメージを与えたのだ。

「でも、七七が回復をしてくれたおかげでもあるからさ。」

しかし、空はあくまでも今回の戦闘では、回復役として徹したある少女の活躍のことを述べた。それは、薄紫色の丸い目張りに彩られた大きな牡丹色の瞳と薄紫色の髪を小さめの三つ編みに束ねているのが特徴的なキョンシーの少女、七七である。

七七の召喚した寒病鬼差、それに元素爆発によって、浜辺で雷元素の攻撃を放って感電を起こしながらも、全員無事でいられたのだ。

何故、七七が稲妻に居るのか。

それは至極単純、七七に稲妻を観光案内する為である。

その途中、綾人と綾華に会って、軽く挨拶をした後、折角だから、と神里屋敷へと案内して貰っている最中、戦闘になったのだ。そうして、魔物達を一掃して現在に至るのである。

「……、って、あれ? 七七??」

「………。」
きらきらきら

「…って、そこに居たんだ。」
スタスタ

そんな七七を賞賛する空だが、七七な姿が見えないので辺りを見回した。すると、しゃがみ込んでいる七七を見つけたので、安堵しながら歩み寄る。

よくよく観察すれば、どうやら七七は、元素爆発によって生み出された氷の椿に目を輝かせているようであった。

綾人と綾華、2人の元素爆発をそのような順番で元素爆発を放った影響なのか、水元素で生み出された椿は、凍結反応によって氷の彫刻のように慎ましやかに花を咲かせていた。

陽の光によって辺りを虹色に輝かせているそれは、まるで、綾人が作るオリジナル料理に添えられた飾りのようであった(同時に、微妙な出来の料理もよく出来上がるので覚えている)。

また、周囲には、氷元素で作られた桜吹雪の残滓たる花びらも舞い散っており、こちらは面積が小さいせいなのか、陽の光に当たればすぐに溶けているものもあれば、やや影になっている場所にあるものは、かろうじて形を保っている状態だった。

スッ
「凍った椿、綺麗だね。」

「………。」
こくこく

しゃがみ込んだ空が優しく問いかければ、七七は同意するように頷いた。その大きな瞳は、尚も氷の椿を見つめたままだ。どうやら相当気に入ったらしい。

「あ、そうだ!」

「??」
こてん

クルッ
「綾人、この椿って、持って帰ってもいいのかな??」

「…………!!」

そんな七七を見ていた空は、何かを思いついたらしく声を上げた。その様子に、七七が首を傾げていると、空は、綾人のほうへと振り返って尋ねた。そのことに、七七も期待に瞳をさらに輝かせた。

「ほう…。旅人さんは面白いことを思いつきますね。えぇ、勿論いいですよ。」

「ありがとう、綾人。」
スッ
サラサラサラ…

空の提案が面白いと思ったのか、感心したようにため息を吐いた後、笑みを浮かべた綾人は、成り行きを見守りたい意志を込めながら承諾した。

そうして、綾人から許可を得た空は、お礼を言いながらバックから変転の塵の瓶を取り出した。その後、中身の塵を別の入れ物に入れて空っぽにした。

スッ

サッ
「ちょっとだけかけるね。」

「………。」
こくこく

サラサラ…
ソッ…

そして、その瓶に氷の椿を慎重に入れた。その後に、七七にひと声掛けてから、塵を少量、ふりかけた。こうすることで、長持ちするので、いつまでも眺められることが可能なのだ。これで、氷の椿はしばらく溶けなくてすむだろう。

そんな空の行う工程のひとつひとつを、稲妻で言うところの飴細工を作る職人の手間を見守るように、七七はじっと見つめていた。

キュッ
「はい、七七、どうぞ。」
スッ

そうして、一連の作業を終えた空は、瓶の蓋を閉めてから七七へと渡す。

すっ…
「………わ……。」

すっ…
すすっ…

瓶を受け取った七七は、喜びにひと言だけ呟いた後、見る角度を変えながらも、中の氷の椿が振動で位置が変わったり傾いたりしないように注意しながら慎重に、かつ、嬉しそうに眺めた。

そして…

すっ…

「……綺麗、………可愛い。」
きらきらきら…

小さな手をめいっぱいに伸ばして、陽の光越しに氷の椿を見つめた七七は、先ほどよりもますます目を輝かせながらそう呟いた。

嬉しそうにしながらも、まだ瓶を斜めにしてしまうと、椿が傾いてしまう、という心配があるのか、真っ直ぐな向きを保ったまま両手を伸ばしているその様は、とても微笑ましいものだ。

すっ…

くるっ
「………ありがとう。」

「うん。どういたしまして。」

そうして、ひとしきり眺めた後、満足したのか、両手を降ろした七七は、空へと振り返ってお礼を言った。

「じゃあ、こっちのお兄さんにも、お礼を言おうか。」

こくん
てってってっ

ぴたっ

「おや? どうしましたか??」
スッ

駆け寄った七七に気付いた綾人は、自然な仕草でしゃがみ込みながら微笑んだ。流石、兄というだけあって、年下の扱いには慣れたものである。

もじもじ
「………ありがとう、真っ白な椿のお兄ちゃん。」

綾人と綾華とは、先程対面してから、まだ時間が経っていないこともあって、七七は恥ずかしがっている。だが、右手に持った氷の椿が入った瓶を見てから、ちゃんと言わなければ、と思ったのか、もじもじとしながらもしっかりとお礼を言った。

キョトン…
「はい、どういたしまして。」
ニコッ

「………。」
こくこく

一瞬、虚をつかれたように目を丸くする綾人だが、やがて笑顔を浮かべてお返しの言葉を紡いだ。それに、静かに目を輝かせながら七七は頷いた。

スクッ
「何だか綾華が小さい時を思い出しますね。」
クスクス

「お、お兄様…!」
もじもじ

七七の様子に、脳裏に幼い日々の情景や綾華を思い浮かべたのか、立ち上がった綾人は懐かしむように笑った。それに対して、恥ずかしがるように向かって右側へと少し俯いてもじもじとする綾華は、まるで先程の七七の仕草が移ったようだった。

「それに、旅人さんの"お兄さん"呼びも、何だか新鮮でしたよ。」
クスクス

「ちょっ、綾人!!」

「おや? どうしましたか??」
クスッ

そして、今度は、先ほど空が流れで綾人を"お兄さん"呼びしたことに対しての笑みを浮かべていた。どうやら、その呼び方が余程お気に召したようだ。それに対して、空は曲げた両肘ごと前のめりになるような仕草をしながら呼びかけた。そんな空の様子を見て、綾人は確信犯めいた笑みを浮かべた。

綾人をよく知らぬ者からすれば、一見たおやかでつい見惚れてしまいそうな笑みであるが、綾人をよく知る者、もしくは親しい者であれば、それが悪巧みが成功した悪戯っ子のようであると感じるだろう。

だが、今この場にて、綾人がそれだけ肩の力を抜いてリラックスしている証拠でもある。先程の七七の仕草が、幼き日々の綾華の姿と同時に、まだ存命中の両親の姿も連想させたのだ。

(たまにはこのような過ごし方も、悪くないですね…)

スッ
「そ、そうです! 最近、作っている緋櫻毬の砂糖漬けを皆さんで食べましょう!!」
パシッ

(ナイスだ、綾華…!!)
グッ

綾人は内心しみじみとしているが、綾華と空からすれば、とてつもなく照れ臭い状況である。そんな流れを断ち切ろうと、佇まいを直した綾華は、両手を合わせてそう言葉を紡いだ。

綾華から、緋櫻毬を見たり、三色団子などの料理で作る以外でも楽しみ方がないか、それを色々と研究している、と聞いていたのでそれの一環であろう。その言葉を聞いて色々な意味で助かった…、と思った空は、内心グッドポーズをしていた。

「??」
こてん…

「多分、おやつのことだよ。」

「おやつ…!」
ぱぁぁぁっ

聞きなれない単語に首を傾げる七七であるが、空が説明すれば小さく呟きながら大きな目を輝かせた(まだ右手に瓶があるので、相当お気に召したようで、しばらく持ったままだ)。

「勿論、旅人さんと七七ちゃんがよければ、ですが…。」

とてててっ

すっ、すっ…

ちょん、ちょん

「?? どうしましたか??」
スッ

遠慮がちに言う綾華に七七は駆け寄って、綾華の行燈袴の端をほんの少しだけ摘もうとする。だが、青紫色の布地に描かれた雪の結晶やせせらぎに舞い散る桜などの綺麗な模様が描かれたそれを摘むのは忍びないと思ったのか、戸惑うように一旦手を引っ込めた。そうして、端の端、という触れるか触れないか、という具合に指先で触れて呼びかけた。

「ありがとう………。リボンと桜のお姉ちゃん。」

「!! お、お姉ちゃん、ですか…!!」

綾人に続いて、七七は、綾華へとお礼の言葉を紡いだ。その時、七七が呼んだ"お姉ちゃん"呼びに、綾華は衝撃と嬉しさで胸がいっぱいになる感覚に陥る。

何しろそう呼ばれたのは、初めてのことだったからだ。

妹の立場であること、周囲に年上や大人が多いこと。そんな環境も手伝って、自然と綾華は年下として扱われることが多い。無論、社奉行の"白鷺の姫君"として、恭しい態度で相手が接してくる人も居れば、気さくに話しかけてくれる人も居る。

だが、やはり割合的には年上が多く、子どもなどは遠巻きに綾華を見て顔を輝かせる程度で、親しく接する機会はほとんどない(ふと、早柚を連想してしまうが、早柚は"綾華お嬢様"呼びであるし、そもそも年上であるので、対象には入らないだろう)。

こんな時、子ども達とも交流があり慕われている宵宮や誰とでも打ち解けられる空を羨ましいと思うことはある。

だが、思えば、以前よりも社奉行の勤め以外、すなわちプライベートで出かける機会が増えたのは、空と知り合ってからのような気がする。今、七七と対峙しているのも空のおかげだ。

テイワット唯一の島国である稲妻からすれば、璃月はまさに海の向こうにある本でしか読んだことがない想像もつかない場所である。そこから来てくれた七七と出会えたのはまさに僥倖だった。

何しろ…

密かに憧れていた"お姉ちゃん"呼びを実現してくれたのだから。

こてん
「?? 呼び方、ダメ…??」

ハッ
「い、いえ!! そんなことないです!!とっても嬉しいですよ…!!」

「良かった…。」
ほっ

そんな幸福感を味わっていれば、反応が無い綾華に対して首を傾げた七七は問いかけた。それに、慌てて返事をした綾華は嬉しい気持ちを伝えた。そうすると、七七は、安心したように息をついた。

スッ
「緋櫻…、おやつは、私のおうちにあるのですが、来てくれますか?」

「………うん。」
こくん

綾人や空の真似をするように、目線を合わせるようにしゃがみ込んだ綾華は、神里屋敷に向かうことを説明した。緋櫻毬の砂糖漬けも、名前を途中まで言いかけたが、先程、七七が首を傾げていたので、"おやつ"と言い換えた。そのことに、七七は頷いて承諾した。

スクッ
「分かりました。では、参りましょうか。」

くぃ…、くぃ………

「?? どうしましたか??」

立ち上がった綾華は、神里屋敷へと足を向ける。だが、綾華の行燈袴の端を遠慮がちに引っ張った七七が呼び止めたので、尋ねた。そして…

すっ

すっ
「手、繋いで…??」

氷の椿が入った瓶を左手に持ち替えてから、七七は右手を綾華に差し出した。紅葉のような小さな手は、目一杯伸ばされている。

「!! わ、分かりました。どうぞ…。」
スッ

こくん
「…ありがとう。」

ギュッ

その愛らしい様に、先程とは違った幸福感を味わいながら、綾華は左手を差し出した。それに、お礼を言いながら、七七は手を握った。

「では、行きましょうか。」

「………うん。」
こくん

サッ

そして、綾華はと七七は、手を繋いで歩き出した。七七の歩幅に合わせて、綾華はゆっくりと歩く。その和やかな雰囲気は、まるで、歳が離れた仲睦まじい姉妹のようだった。

そんな2人の姿を後ろで見守っていた空と綾人は、顔を見合わせた後、笑みを浮かべて、綾華と七七を追いかけるように歩き出すのであった。

皆、思い思いの笑顔を浮かべて神里屋敷へと向かった。

その後、緋櫻毬の砂糖漬けを食べて目を輝かせる七七が見られるのはこの数刻後である。

-END-


後書き

綾人さんの椿、綾華さんの桜…。

神里兄妹の織りなす花々の美しい元素爆発を書きたかったのと、綾人さん、綾華さんの順番で元素爆発を発動したらこんなことが起こりそう…、と思いついたネタです!

後は、中の人的にも、七七と綾人さん(崩壊3rdのテレサとオットー)とのやり取りを書いてみたかったり…←

まぁ、書いてみたら、綾華さんとのやり取りが主体みたいになりましたが、それはそれでよし!的な気持ちで!!←

書きたいことを詰めた作品になりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございます!

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