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talkin' about Ayako Wakao 6

The edged age '60s (2)
🔥愛と戦争💀


清作の妻

(web)
監督/増村保造
1965/大映

富国強兵教育の優等生である清作(田村高廣)が兵役から戻った。彼は村の活性化のためにリーダーシップを発揮する。周囲は清作の嫁取で盛り上がる。周りからは当然と見られていたのは村の有力者の娘ですが、清作には今ひとつ気がのらない相手なんですな、これが。

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そこに、借金まみれの貧しい家のために、町の商家の隠居老人に囲われていたお兼(若尾文子)が村に戻ってくる。老人の頓死により、縁切り金を渡されて追い出されたのです。
村八分状態の家になぜ戻ったのか?  一度共同体の規範を踏み外したら、何処へ行けども他所者として疎外される、というリアルが身にしみていたのでありましょう。はじめは捨鉢に、無気力に日々をおくる女として描かれる。

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だが、清作の視野に映ったのは、“ 運命の人” としてのお兼。そのエロスに魅了されてしまう。
男は共同体的利益の思惑を蹴って女と一緒になる。村人から白眼視されようとも。

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戦争が始まり男は召集され、戦功を立てたが、負傷して帰還する。傷が癒えればまた戦場へ戻るつもりだ。お国(村)のために尽くす自分を認めさせるために。まだ足りないのだ。愛する女を認めさせるためには、、、
男の半身半霊は国や村に支配されている。一方、底辺の辛酸を舐めてきた女にとって、男の存在は生きる糧の全てになっていた。

命くれない(covered by 藤圭子)
(オリジナル1986/唄/瀬川瑛子)
(詞/吉岡治/曲/北原じゅん)

(youtube)


全身全霊をかけて大きな戦功を遂げたなら、二人は晴れて共同体に迎えられるのか、、、それは幻想と “ 愛のリアリスト” お兼は感じる。“ 203高地 ”に累々と重なる死骸の山に清作が視えていただろう。お国のために人を殺したり、殺されたりしないで欲しい。自分とだけ生きて欲しい、究極の愛への欲求。

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夫をお国の役に立てない身体にすることで、男の全てを国家から取り返す。自分は監獄行きとなろうとも、夫は生きて、待っていてくれるだろう。女は男の両眼を潰した。

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それは、世間の規範から疎外されて、情死に終わる伝統的な心中物の枠を突き破り、愛のために共同体に叛逆する女の姿。
すがりつきたい存在の全てを自分のものにする、“ 愛を乞う女 ” の表現によって、若尾文子は、またもやファム ファタル像を更新したのだった。

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戦地に再び赴き英雄となり、お兼との愛を共同体に認めさせるという男の一方的な願望は、愛する者によって突き破られた。
清作は絶望に狂っあと、どのように命をつないだかのシーンの記憶が私にはありません。(あるとしても、この作品における繋ぎ的場面でしかなかったろうと思いたい、勝手ですが)、、、
戦争を契機にお兼を認めさせようとする願望は、女が刑期を終えて自分の元に帰る願望へと変わり、赦す気持ちを糧に生きのびたことは自明なのだから。

(web)

耕地に在るラストシーンは、疎外のなかで自身を救った、二つ魂が通い合い生きていく姿である。

*吉田絃ニ郎(1986-1956)の原作(1918)は未読です。なお1924年に映画化された村田實(1894-1937)監督作品は、日活の倉庫火災で焼失しています。
脚本は100歳監督の新藤兼人(1912-2012)、当時53歳。 この方の監督作品を全て観ようというほどの思い入れはないけれど、映画「清作の妻」の脚本は素晴らしかったろうと想像します。     


The End Of The World (vo./Skeeter Davis)
(1962/w./S.Dee & m./A.Kent)

(youtube)


赤い天使

(web)
監督/増村保造
1966/大映


自分の愛(心と体)を生死の極限としての戦場に捨て、無償の愛を捧げることが、硝煙のスクリーンに幻のような愛を乞うているという逆説。

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生きのびる望みのない傷を負って戦場から戻された兵士(千波丈太郎)。、、、男はかつて、従軍看護婦・西さくら(若尾文子)が配属された野戦病院の患者だった時、夜間巡回中の西をレイプした結果、再び前線に戻されていた。

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西は軍医(芦田伸介)に、彼のために今や稀少となった輸血を懇願する。またある時は、両腕を失い内地送還となる兵士(川津裕介)の肉体的な欲求に応えたりした。(帰国後の将来に絶望し、飛び降り自殺してしまうが)。

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これらにフォーカスすると、たんに受忍的ヒロイズムの女となってしまうだろう。さらに東京で最愛の父を失ったさくらが、年長者の軍医・岡部に惹かれていくファザコン的なムードもある。
一方、戦闘でダメージを受けて残骸と化していく兵士たちへの冷徹な眼差しのうちに、戦争という不条理を引き起こす男社会への怨念が、無音の熾火となってあるようだ。

最前線部隊の救護へ向かう前夜、モルヒネ常用で不能となっていた岡部軍医の”男”を回復させた朝、

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「西が勝ちました!」と云う、凛とした若尾の声に天使の響を聞いたようだった。
到着した村は疫病がまん延し、やがて中国人部隊の奪回攻撃がはじまる。
激しい戦闘の末、敵味方すべて死に絶え、唯一人生き残ったさくらは、、、。“女優” 若尾の道は何処へ続くのか。

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*大映の若尾作品では、相手役がその弱さを露呈してしまう展開が多い中、芦田伸介が女優を受けとめる、しぶく強い男を演じてみせる。

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増村保造は、全てを捨てざるを得ない戦場での愛を乞う物語を、若尾ならではのワン アンド  オンリーの作品に仕上げた。

*1996年アカデミー賞を総なめにした、A.ミンゲラ監督作品「イングリッシュ・ペイシェント」の戦地看護師役、ジュリエット・ビノシュにも魅了されましたが、その30年前すでに極東の地で生まれていた映画 「赤い天使」 の若尾文子にあらためて、感嘆面 !!!

Let It Bleed (The Rolling Stones /1969)
(song by M.Jagger & K.Richards)

(youtube)




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