【ss】海のような人


波の音しか聞こえない夜の海を見つめながら君になんて言おうか考えていた時───

「無理に言葉にしなくていいよ」

またしても、だ。
こういう事は初めてじゃない。
君には何故か心を読まれてるんじゃないかとすら思えるくらい、いつも先回りして助けられる。

でも今日は……

「…いや、ちゃんと聞いてほしいんだ」

「そう?」

「うん。まだちょっと頭の中ぐちゃぐちゃなんだけど…」

「いいよ、ゆっくりで」


ずっと、この優しさに甘えてきた。
君に“いいよ”って言われる度に罪悪感が芽生える反面もう少しこのままをズルズルと引きずって。
あやふやなこの関係を変えることが出来ずにいたんだ。


「今まで、ごめんな」

「謝ることなんてないのに」

「そんなことないよ。今までずっと我慢してくれてたでしょ?」

「……どうかな。もう慣れちゃって、良く分かんないよ」

そう言って微笑む君にズキズキと胸が痛む。
いつもこんな顔ばかりさせてたんだ。
なのに、見ない振りを続けてきた。

「俺、さっき別れてきたんだ」

「……本当?」

「うん。ちゃんと考えて、めちゃくちゃ悩んでさ。すげぇ時間掛かったけど、でもやっぱり俺に必要なのはお前だって思った」

「……どうしよう。ものすごく嬉しいのにうまく表現できないな…」

そう言って君ははらはらと涙を流した。

それが月の光に淡く照らされて、とても綺麗で、儚くて、壊れてしまいそうな錯覚を感じさせるくらいで。

「ごめん。……本当にごめんな」

「どうして…謝らないでよ。本当に嬉しくて、謝ってもらうことなんか全然…」

「あるんだよ!」

君の言葉を遮るように叫んだ声がどこまでも静かな海に響く。

「あるんだ、たくさん」

一度や二度謝ったくらいではきっと償いきれないよ。


君の気持ちを知っていながら自分の都合だけで逢瀬を繰り返して、彼女と別れるでも君の想いに応えるでもない残酷で曖昧な時間を繰り返してきたんだから。

「そんなに自分のこと責めないでよ。今すごく嬉しくて世界一幸せだから。
……だから、本当にもういいの」

ほら、また俺は君の言葉に甘やかされる。

「……ごめん」

「もう。謝るの無しだってば」

「ありがとう」

「私の方こそありがとう」


*end*



(まるで君は海のように、いつもどんな俺でも深く静かに包み込む。)
(感謝してもしきれないよ。
俺なんかを好きでいてくれて本当にありがとう。これからは悲しい笑顔なんて見ることがないくらい幸せにさせてください。)
お読み頂きありがとうございました。

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