【U-Prophet】性判別精液の経済性を考える[酪農編](ユープロフェット)

性判別精液を利用する際にどれくらいまで利用したらいいのだろうか?などと疑問に思うことはありませんか?私はあります。
本稿では、昨今の畜産情勢を考慮して性判別精液を利用することでどの程度の経済的メリットがあるかU-Prophetを利用して推定してみることにします。

U-Prophetって?という人はこちらから

性判別精液を利用する際のメリット/デメリット

発売当初は、受胎率が低いなどの問題もありましたが、最近は利用する農家も増えてきており、農林水産省の資料では性判別精液は精液全体の19%と示されています。「性判別精液 & 経済性」でGoogle検索すると、いくつか10年ほどまえの研究報告を見つけることが出来ますが、発表当時とは経営環境が大きく異なる昨今の状況では文面をそのまま解釈するのは難しそうです。

性判別精液を利用するメリットとして

  • メスの生まれる確率が高くなので後継牛の確保が容易

  • オスの出生頭数が減るので育成費用が削減される

  • 交雑種・黒毛和種ET産子を増やすことが出来る

などが考えられます。逆にデメリットとしては

  • 受胎率が低下する通常精液よりも低い

  • 精液代が高価(助成金が出る場合があります)

などでしょうか?

これらメリットとデメリットを考慮して、U-Prophetで比較するシナリオを考えてみます。

シナリオの設定

通常精液の受胎率が35%、性判別精液の受胎率が30%、性判別精液の利用割合が20%と仮定すると、数学的には全体の受胎率は35%から34%に低下します(35×0.8+30×0.2=34)。少し乱暴ですが、解りやすさを優先して性判別精液を使用していない農家が1/4のウシに性判別精液を使用して、残りを交雑種と和牛の生産に振り向けるというシナリオを設定することにします。

条件は以下の通りとし、その他の条件は初期設定のままとしたシナリオで調査してみましょう。

  • 受胎率:35% vs. 34%

  • ホル通常精液の使用割合:100% vs. 40%

  • ホル性判別精液の使用割合:0% vs.. 25%

  • 黒毛和種通常精液の使用割合:0% vs. 25%

  • 黒毛和種授精卵の使用割合:0% vs. 10%

U-Prophetの設定

受胎率の設定

一般論として性判別精液の利用は「初産牛のみに利用する」、「初回授精のみに利用する」など、ある程度のルールに従って使用している農場が殆どではないかと思います。残念ながら生産モデルを簡略化して作成しているU-Prophetでは、このような気の利いた運用方針を反映させることはできません。

そこで今回は、前述のように牛群全体の受胎率が35から34%に低下すると仮定して設定します。図1のように必須入力画面から受胎率を変更設定します。

図1. 受胎率の変更

精液費用

精液費用は初期値のままとします(図2)。詳細入力画面の繁殖費タブを開いて、農場の実態にあわせた精液価格を入力してください。

図2. 精液価格の入力

授精割合

同様に繁殖費タブから、授精割合を前述の条件に従って設定します(図3)。

図3. 精液・受精卵の使用割合を入力する

結果

設定したシナリオに従って性判別精液を利用すると、U-Prophetでは280万円のメリットが発生すると予想されました(図4)。結構大きなインパクトがありそうです。

図4. 性判別精液利用による経済的メリット

内訳をみてみると、次のような特徴がみられます。

  • 子牛売上が増加:△280万円/年

  • 授精費用が増加:▼77万円/年

  • 育成費が低下:△101万円/年

考えてみれば当たり前のことですが、販売単価の高いF1や和牛の頭数が増えるため子牛売上が増加し、精液代が高くなるため授精費用が増加し、無駄な後継牛を確保しなくても良くなるため育成費用が低下するということが示され、性判別精液の長所と短所を反映する結果となっています。

まとめ

U-Prophetを使って性判別精液の利用が農場の経営に与える影響について推定してみました。

今回は分かりやすさを優先して極端なシナリオを用意しましたが、性判別精液を利用して必要な後継牛を確保し、F1やET和牛産子を増やすという経営戦略は、現在の経営環境においても経済的合理性を有していると言えそうです。
農場の条件によって結果も左右されますので、実態にあわせて経済性が最適化されるように性判別精液の使用割合を調整してみてください。


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