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Case04|震災ボランティアの縁と、コロナ以降のオンラインの繋がりを大切に活動していく(熊本県宇城市・真宗大谷派・光照寺・糸山公照さん)

熊本地震から七年。毎年、追弔法要を行なってきたお寺に、今年も多様な縁が交わりあう。「被災からの復興は、あたらしい地域づくり」と、奮闘し続ける副住職の活動に迫る。

※ まちに開く まちを拓く『地域寺院』2023年7月号より転載(文・写真/遠藤卓也)


プロフィール|糸山公照さん

1976年熊本県宇城市生まれ。大谷大学大学院文学研究科真宗学専攻修士課程修了。京都大谷高校、熊本県内高校、支援学校等の講師を務め、現在、熊本県内中学校のスクールカウンセラーとして、子どもたちの心のケアも行っている。真宗大谷派光照寺副住職。防災士。


震災を忘れない・繋がる・続ける

地域の宗教者が集い法要を行なった

 2023年4月6日、熊本地震から約7年が経ったこの日、熊本県宇城市にある真宗大谷派 光照寺で震災の追弔法要がおこなわれた。
 本堂には仏教だけでなく、神道・キリスト教・金光教など地域の多様な宗教者が集い、それぞれの方法で哀悼の意を示した。境内には屋台が立ち並び、地域の老若男女たちで賑わう。ボランティアスタッフは北海道・東京・大阪・広島など、全国各地から駆けつけてくれたメンバーだ。この会の発起人は、光照寺の副住職 糸山公照さん(47)。防災士の資格を持ち、2020年の豪雨災害の時も支援活動に尽力した。 
 震災から3年間は「復興祭」と称して開催したが、4年目からは「防災・減災フェスタ」というタイトルに変更。防災の<ぼう>は災害を防ぐだけでなく、「忘れない」の<ぼう(忘)>という意味を含めた。減災の<げん>は災害を減らすという意味だけでなく、言葉で語り継いでいくという願いを込めた<げん(言)>でもあるのだ。
 昨年は七回忌法要ということで、学校や防災センターでワークショップをおこなったり、神戸のアイドルやくまモンにも来てもらい、地域の人々が元気になれるような場づくりを目指したという。

人と人を繋ぐ、糸のような存在

熊本地震一周忌法要の様子

 光照寺も地震の被害は大きかった。本堂の屋根と壁、空殿が崩れてご本尊の阿弥陀様もバラバラになってしまった。寺族全員が心の支えを失い、一気に力が抜けてしまったと回想する。自らも被災地の真っ只中に居たにも関わらず、災害支援に取り組み続けるのはなぜか。その原動力について聞くと「目の前に怪我をしている人や苦しんでいる人がいたら助けるでしょう」という答え。そして、その思いの根底にあるのは 阪神淡路大震災での経験だという。
 当時、高校受験のために熊本から京都へ行かなければならなかったが、震災直後で高速道路は閉鎖。飛行機も飛んでいなかったため、名古屋から京都に入って何とか試験を受けた。復路は伊丹空港から飛行機が出ると分かり、空港へ向かうバスに乗っていると、車窓から見える光景に言葉を失った。まるで戦争の後のようだったという。飛行機が離陸してから見下ろすと、地上一面 にブルーシートが広がり、何もできない自分の無力さを感じた。
 2011年、東日本大震災が起こった時は、大学時代の友人や先輩を助けるために東北へと向かった。しかしそこでもまた、何もできない自分を痛感した。
 家族を失った女性に「私、死んじゃ駄目ですか」と聞かれた。お酒を飲んでいた男性から「仏さんは人を救うのが仕事なんじゃないのか!」と怒鳴られた。宗教者だからこそ聞ける声が、痛い。こんな自分でも何か助けになれたらと、すがる思いで臨床宗教師の資格を取得した。
 そういった出来事が、原動力になっていることは確かだと思うが「結局のところ、自分は考えるよりも先に体が動いてしまうのです」と笑う。

震災時の体験をお話ししてくださった年配女性お二人

 地震で家が全壊したという年配の女性に話を聞かせて頂くと「避難所でも公照君がみんなをまとめてくれたのよ」と言っていたのが印象的だった。確かに、ここまで多くの人々が関わるお寺のイベントは珍しい。被災時の繋がりが今も続いているのだ。糸山さんは「自分は口ばかりで何もやってない」と謙遜するが、糸山さんのような人がいるからこそ、地域の関わりの糸が紡がれ続ける。

地域の健康に貢献するお寺

ヘルシーテンプル・コミュニティの皆さん

 今年、ボランティアスタッフとして初めて参加していたのは「ヘルシーテンプル・コミュニティ」の活動で糸山さんと知り合った仲間たちだ。ヘルシーテンプルとは、<地域の健康に貢献するお寺>をテーマに始まった活動で、全国各地のお寺に人々が集い、健康体操やマインドフルネス瞑想を行なうというもの。
 活動が始まった頃にコロナ禍に突入し、やむを得ずオンラインで開催するようになった。各地の僧侶たちが毎朝7時から日替わりでホストを務め、画面越しに体操や瞑想を導く。コロナ禍でも取り組める朝の健康習慣として、毎朝100〜200名ほどの参加者がいるのだからすごい。
 糸山さんもヘルシーテンプルのファシリテーターとして活動を行なってきた。オンラインでもしっかりと継続してきたことで、参加者たちの間では「いつかはお寺にお参りしたい」という気持ちが高まり、ちょうどコロナが収束し始めているタイミングだったので、各地から十数名の参加者がボランティアスタッフとして集まってくれた。

豪雨災害を支援したオンライン活動

 糸山さんが初めてヘルシーテンプルのファシリテーターとしてオンラインで登場した時、 画面の背景に映る光照寺本堂にはまだブルーシートがかかっている状態だったそう。地震の傷跡もまだ生々しく残るその時に、豪雨災害が追い打ちをかけた。糸山さんは被害の大きな地域へいち早く物資を届けたいと考えていたが、十分に積載できるような車がなかった。そこで、ヘルシーテンプルの仲間たちに協力を求めたところ、すぐにクラウドファンディングが立ち上がり、熊本に軽ワゴン車が届けられた。「南無ワゴン」と名付けられ、災害支援に大いに役立ったという。

南無ワゴン(写真提供:糸山さん)

 この出来事を通して糸山さんは、距離が離れていてもオンラインで協力しあえる仲間になれるとわかり、その繋がりをとても有り難く感じた。コロナ禍における被災は本当に大変だったけれど、だからこそオンラインの繋がりが生まれた。これからは、お寺にお参りに来てくださる方々も、オンラインで繋がる方々も、両方のご縁を大切にしたいと語る。

地域をつくりなおすという視点で

花まつりを加えた「うきフェス」として開催

 今回は「花まつり」としての要素も加え、チラシを持って一軒一軒のお宅をまわった。新聞の折り込み広告も出した。少しでも多くの地域の方々に来てもらいたいという一心で広報を行なった結果、当日はたくさんの子ども達が来てくれた。とても楽しそうに遊ぶ光景を見て、糸山さんは目を細める。「地震で色々なものが壊れてしまったけれど、それを元通りにするのではなく、この地域を今からどうつくりなおしていくかを考えたい。コロナも落ち着いて、新しい誕生を祝う気持ちで花まつりをしようと思いついたのです」確かに、この地域のこれからの主役はこの子ども達なのだ。
 地震で被災された方々にお話を聞くと、皆さんがとても鮮明に当時のことを話してくださる。もう7年も経っているのに、記憶は全く薄れてはいない。家族や自宅を失うような体験は、そう簡単に忘れられるものではないと思うが、こうやって毎年語り合える場があることも大切だ。「各地の人たちから支援されたことを忘れずに、もしまたどこかで何かあった時は、次は私たちが助けに行く番なんです。今回、参加してくれた子ども達にもそう感じてもらえたら、地域の先輩として役割を果たせたかなと」後日、子ども達がまたお寺に遊びに来てくれたという。きっと何か感じてくれたのだろう。今後がとても楽しみだ。

【教訓】

  • 誰かを助けたい気持ちに素直に動くこと。

  • 必要な時に助けを求められる勇気を持つ。

  • オンラインのご縁も、続けばいつかはリアルになる。

あとがき

光照寺では、地域の人たちと冷蔵庫のものを持ち寄ってバーベキューを行う「防災バーベキュー」を開催しています。いざという時に、しばらくは食べつなぐことのできる知識や技術が身につくとともに、助けあえる関係性が醸成されます。お寺が災害時の拠点となるために、備蓄や備品の準備も大切ですが、災害時の助け合いコミュニティを育む活動も大切であると感じました。(遠藤卓也/未来の住職塾講師)


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