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繋がる日々

昨晩、ポストにオレンジ色の封筒が届いていた。中には黒猫を模したカード、すこしかしいだ筆記体で Happy Halloween! と書かれている。2001年からずっと手紙のやりとりをしているキャロルからだった。年齢的には私の親とあまり変わらず、アイリッシュ系でボストンなまりの強い彼女はアメリカの母ともいえる存在で、私が在籍していたコミュニティカレッジ(二年生の短大)のTutorをしていた。Tutorは大学における家庭教師に近い存在で、補修が必要な生徒への無償サポートを提供する。私のような英語力ほぼセロで入学した留学生にはしぬほどうれしいシステムで、特典でベーグルもコーヒーもタダでもらえたし(生協のベーグルは80セント、コーヒーが$1だった)勉強もみてもらえて会話も学べるという最高の環境だった。教える側としてはカレッジに在籍するアメリカ人学生や、地域のひとがほぼボランティアで回しており、後で聞いたら時給5ドルとかそんなもんだったらしい。


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Quincy College Tutor 講師名と時間割が提示されるので希望のクラスを予約するシステム。Criminal Justice 刑法・犯罪学はむずかしすぎてドロップした


留学当時の私は高卒だったので数学、コンピューター、会計学あたりは勘で単位を稼げたけれど、英文学とスピーキングだけはダメだった。ベオウルフ、ナサニエル・ホーソーン「緋文字」、テネシー・ウィリアムズ「ガラスの動物園」など基礎編から悪戦苦闘していた私をみかねて、シェイクスピア文学の教授がキャロルを紹介してくれたのだ。彼女の専門は主に English Literature 英文学だったけれど、生粋のアメリカ人で大卒、博識、しかも元看護士で刑法以外はなんでもこいというスタイルだったのでそこそこ人気があるひとだった。以来、毎週木曜放課後にTutor roomへ通うことになり、2年後にコネチカットへ転校したときも、シカゴのホテルに就職したときも、お祝いのカードを送ってくれた。帰国してからもおりにつけグリーティングカードのやりとりをしている。あれから20年近くが経過し、気づけば私も彼女も年をとり、長男にいたってはまさかの日本人と結婚してこどもをもうけている。しかも奥さんはキャロルがTutorしていた生徒だったりする。キャロルの夫は数年前に亡くなり、いまは息子夫婦と暮らしているのかわからないけれど、ふと思い出したように届く封筒がなによりの楽しみになっている。この冬、ニューヨークから日帰りでボストンに立ち寄りたいのだけれど、会えるだろうか。少しの期待と不安に胸をこがしつつ、変わらぬ愛をこめて、返信用のポストカードに筆を走らせた。


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