キャプチャ

羊の木

映画の備忘録。ネタバレありますのでご注意ください。


TOHO日本橋で鑑賞。映画仲間が錦戸亮のファンでずっと話題にしていた。ポスターから察するにミステリーかヒューマンドラマなのか?原作マンガは未読。予告もみず事前知識ゼロで挑みました。

感想:おおおおおおおお のろろ~のろろ~


さびれた港町・魚深(うおぶか)に移住してきた互いに見知らぬ6人の男女。市役所職員の月末(つきすえ)は、彼らの受け入れを命じられた。一見普通にみえる彼らは、何かがおかしい。やがて月末は驚愕の事実を知る。「彼らは全員、元殺人犯」。 それは、受刑者を仮釈放させ過疎化が進む町で受け入れる、国家の極秘プロジェクトだった。ある日、港で発生した死亡事故をきっかけに、月末の同級生・文をも巻き込み、小さな町の日常の歯車は、少しずつ狂い始める・・・。
参照 羊の木オフィシャルサイト


去年の松本潤&有村架純の「ナラタージュ」も富山県が舞台だった。ジャニーズ誘致でもしてるのか。ナラタージュの感想はこちら


月末と迷える子羊たち

「ひともいいし、魚も美味いです」

このセリフを、6名の受刑者に伝える様がいい。彼らの反応でキャラクターが浮き彫りにされる(うろおぼえですが)

福元(水澤紳吾)「魚、嫌いなんです…」
太田(優香)黙々とパフェをたべる
杉山(北村一輝)ソフトクリーム舐めながら「タバコ買ってきてよ、セブンスター」
栗本(市川実日子)沈黙
大野(田中泯)威圧感
宮腰(松田龍平)「おさかなとか、おいしいんでしょ?」「この町はひとがいいですね」

宮腰のコメントに、そうなんですよ、と思わず笑顔になる月末。ふたりの昼食シーン、ちゃんと魚をオーダーしてる宮腰。「炭酸、飲みたかったんです」と自販機の前で佇む姿が◎。自分の意志でなにかを購入する、という当たり前の日常を噛みしめてる感じ。

お酒も、甘いものも、ましてやコーヒーやコーラなどは口にできない刑務所。身元引受人がいないから魚深市が実験的に移住させてるわけで。ということは、差し入れするひともいなかったんでしょう。食事を通して伝える余白がお見事!

理容師の福元、シャバにでてビールをガブガブ飲む姿に(お酒好きなフレンズなんだね!)と思ったけど、後の祭りの場面であんな展開になろうとは。福元を演じた水澤紳吾は映画「怒り」にも犯人山神を知る人物として、薄気味悪い役で出ている。犯罪者が似合う顔だな(ひどい)

唯一、ヤクザ上がりの大野だけ食べるシーンがなかった気がする(祭りでビール注がれてたが)田中泯は「無限の住人」握り飯かっくらう姿が印象的でした。


月末役の錦戸亮、はじめてみたけど小市民的お役所マンな感じがぴったりですごい。ヤクザに絡まれて名刺出しかねるとこ、やっかみから宮腰の正体を彼女にバラしちゃったくせに「ごめん言わないで」って卑屈になるとこ。自信ないと前屈みになるとこ。課長に「何やったひとたちなんですか?」と移住者について訊ねる月末。瞳の奥に一瞬煌めく好奇心と、すぐ(やべぇ聞かなきゃよかった…?)と切り替わる表情。最高にうまい。関ジャニは知りませんが。とてもいい俳優だと思います。所々、不憫なジェイク・ギレンホールみがある。「ミッション・8ミニッツ」や「ゾディアック」のときの、周囲に振り回されてる姿を思い出した。聞いたところによると、デンゼルやジェイクを参考に役作りしていたらしい。マジか!

儚げというか、頼りない感じ。ババ引きそうなキャラがたまらない



神は細部に宿るのよ

月末と父の食卓、月末の部屋。これだよこのディテールが見たかったんだよ!

父親「みそ変えたか」
月末「うん、減塩にした」
父親「まずい」

このやりとりだけで関係性が見えてくる。ごはんと味噌汁、買ってきたコロッケ。幼馴染が地元に戻ってバンドに夢中な月末。料理もそんなにしないんでしょう。父親は病気のため体が不自由でデイケアセンターに通っている。右手は麻痺しているし、普段は車椅子。母親はおらず(死別?)月末とふたりぐらし。たまに妹の叔母が様子をみにくる。公務員で役所勤め、はなから実家を出るなんて選択はないだろう月末の「こどもの時から同じ部屋で寝ている」インテリアがたまらん。カーテンやベッド周りの小物とか。ひとり息子で色々買い与えられていた感じ。

実は先日みた「嘘を愛する女」のインテリアに不満がありまして…その点、「羊の木」ではそれが一気に解消された。ありがとう!


羊たちの沈黙

出所したばかりで服がカビ臭いと気にする太田、宮腰のトレーナー、杉山のチンピラなジャージ。こんなの着てらんないわ!と、駅の売店でピッチピチのTシャツを購入するところも太田のセクシャリティの強さがにじみ出てる。太田の服装、雰囲気、しゃべり方に目を奪われる。「ああ田舎の親戚にいるわ、このひと…」と感じさせるリアルさ。リアルすぎて吐き気がした…。6人の羊たち、キャスティングすごいなーと思ったけど、演技も含めて優香はダントツでしたね。監督に拍手。

チャンピオンの萌え袖トレーナーがツボすぎた


羊たちは多くを語らない。懲りずにひと山当てようぜ、と息巻く杉山を除いては。彼らにとって月末は先を照らす羊飼いのはずだけど、のろろ様というローカルな神が所業をウォッチしていることを知らない。唯一、宮腰だけは感づいてたのかな。ラストの「一緒に飛び込んでよ」発言、びびりました。ラブ?それはラブなのか宮腰?この世の名残、世も名残、死にに行く身をたどふれば…おまいら曽根崎心中かよ!ってツッコミが止まらなかった


ハレとケの概念

移民問題に照らし合わせると語りがいのある映画だなと感じました。日本は受け入れぜんっぜんないけれど、ヨーロッパは陸続きのため難民・移民問題と常に隣り合わせ。素性の知れない人間がやってきたとき、どこまで信じ、どこから疑うのか。地元民ではない=異端の魔女なのか。民俗学の柳田國男が書いた「ハレ」と「ケ」は、日本の土壌にしみついていて、のろろ祭りにも顕著に描かれている。直視してはいけない神様、荒ぶる神はヒトに倒されると守り神になる、白装束を纏う、酒でケガレをとる、新しい住民は参加すべきイベントである、等々。ハレ(神聖性)ケ(日常性)そしてケガレ(不浄性)って三位一体なんですよね。このあたりは聖書っぽい。


英語圏で、群れに黒い羊(またはヤギ)がいるっていう表現があります。ヤギは悪魔の象徴なので、裏切りものってこと。スペインのサッカーチーム、FCバルセロナでロナウジーニョがこう批判されたことがあったな…

黒い羊=ケガレ=不協和音が生まれていくのに合わせて、差し込んでくる音楽にうわーとなった。学生バンドを再結成して最初はブイブイいわせてるのに、須藤がぬけ、宮腰とあやちゃんが付き合いはじめ、彼らの均衡がくずれていく。ボブ・ディランのエンディング曲までおいしい。エンドロール、最後に魚深の海が映るんですよ。最後の1ページまでつくりこみがすごいね。ずるい!


栗本が海岸で拾った謎のアイテム。羊は5匹しかいない。6匹目は枯れたのか、それとも羊として熟れなかったのか?オープニングの東タタールの言葉も印象的でした。


というわけで、誰かと語りたくなる素晴らしい映画でした。

以上です!


いただいたサポート費用はnoteのお供のコーヒー、noteコンテンツのネタ、映画に投資します!こんなこと書いてほしい、なリクエストもお待ちしております。