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永遠に僕のもの

ヒューマントラストシネマ有楽町で初日に鑑賞。*ネタバレ注意

感想:好きだよと言えずに初恋は

あらすじ:1971年のアルゼンチンで12人以上を殺害した連続殺人事件の犯人である少年をモデルに、スペインの名匠ペドロ・アルモドバルが製作を務めて描いたクライムドラマ。1971年のブエノスアイレス。思春期を迎えたカルリートスは、子どもの頃から他人が持っている物を無性に欲しがる性格だった自分の天職が、窃盗であることに気づいてしまう。新しく入った学校で出会ったラモンという青年にたちまち魅了されたカルリートスは、ラモンの気をひくためにこれ見よがしな対応を取り、2人はいとも簡単に殺人を犯してしまう。次第にカルリートスとラモンの蛮行はエスカレートし、事態は連続殺人へと発展していく… 映画.comより

「トーク・トゥ・ハー」「私が、生きる肌」「オール・アバウト・マイ・マザー」のペドロ・アルモドバルがプロデュース。監督はアルゼンチンのルイス・オルテガ。

主人公には本作で映画デビューとなる俳優ロレンソ・フェロくん。子役かつミュージシャンで活躍している若手俳優。ぽってりした唇が魅力的の狂った果実。実話ベースと聞いていたけどだいぶ見かけも似せてきている。主人公のモデルになった実際のカルロス・ロブレド・プッチが犯罪に手を染めはじめたのは15~16歳。20歳の頃には11件の殺人または殺人未遂、17件の強盗、レイプ等諸々の罪で逮捕となった。以来50年近く服役しており、アルゼンチン史上最もながい終身刑をくらっている(1950年代生まれなので今はだいぶおじいちゃんになってます)

左が実際に逮捕されたカルロス・プッチ、右が映画のカルロス


■1970年代

1ドル=360円だった時代。海外にドルショックによりスミソニアン体制で円通貨切り上げがおこり、円高へ。当時クレジットカードなぞないため、海外旅行者は1人あたり3,000ドル(360円*3,000=108万円)までと外貨持ち出し制限があったそうな。70年代前半の世界情勢で思い出すのはベトナム戦争、オイルショック、ミュンヘンオリンピック事件、あさま山荘事件など。WWII以降、アルゼンチンでは社会主義をかかげたファン・ペロン大統領が長らく政権をにぎっていたが、50~70年代にかけてはクーデター、亡命、軍の弾圧による反政府の抹殺などが横行。特に70年代後半はテロを口実に市民への尋問・強制連行が増加し1.5~3万人が行方不明になったといわれている。終盤、凶悪犯罪者であるカルロスを追い詰めるのに軍隊かと見間違うレベルが出動していたが、時代背景を考えると妙に納得。


カルロスの家はいっけんディセントな家庭にみえる。街中の一軒家で父母の身なりもきちんとしており、少年院帰りの息子を専門学校へいれるだけの収入もある。居間にピアノ、家族団らんができるだけの家具、きちんと整えられたテーブル。教育の機会も与えられ、目に入れても痛くないひとり息子が何の因果かふらふら犯罪の道へ。反政府で取り締まりがめちゃくちゃきつくなってる頃なのにためらいもなく闇の世界に身を沈めていくカルロスは、どこか頭のネジがぶっ飛んでいる。


■ファッションと音楽

ミニスカート、パンタロン、ベルボトムのジーンズ。赤のセーター、赤のブリーフ。念願のテレビ出演がかなったラモンのド派手なスーツ。主人公とつきあう双子ちゃんもヒッピー&サイケなスタイルで超かわいい。That's 70's Showそのまんまの衣装です。親の世代はどストライクだろうな…カルロスについてはキャスティングが最高of最高。筋肉もなくて、おなかが愛らしい程度にぽっこりでたキューピー体型の金髪巻き毛のベビーフェイスがごつい銃もってベッドにいるんですよ、上半身裸で。これはもう、制作陣のフェチがすぎる。冒頭&ラストに踊るカルロスをもってくるのが素晴らしい。

音楽に関しては文句なし、特に大好きな2曲がかかったので脳内で喝采。
・「朝日のあたる家」La casa del sol naciente 
・「夢見る想い」Non ho l'eta

踊りたくなるよね


■愛とはいいがたい何か

史実のカルロスが相棒のラモンと関係をもっていたのかわからないけれど、映画ではカルロス→ラモンの想いをにおわしている(ラモンはどノンケだろうけど)原題「El Angel」 を「永遠に僕のもの」とした邦題はうまいし、昨今の「おっさんずラブ」「きのう何食べた?」に繋がるBL層へのアプローチである意図はくめるけれど、天使のようなカルロスが秘めた凶暴性をマイルドにしてしまった気がする。

見終わった後、なぜ村下孝蔵の「初恋」が思い浮かんだ。

好きだよと言えずに初恋は ふりこ細工の心
風に舞った花びらが 水面を乱すように
愛という字 書いてみては ふるえてたあの頃
浅い夢だから 胸を離れない

こんな殊勝な奴じゃないけどね>カルロス


■好きな場面

宝石店の鏡に向かいチェ・ゲバラとカストロだなとカッコつけるラモンに対し、エビータとペロンだと言い返すカルロス。政治思想まで真逆のふたり。

*エビータはペロン大統領のファーストレディーでミュージカル「エビータ」のモデル。33歳で死去。

Che and Fidel," Ramon says. "Evita and Peron," corrects Carlos — which leaves his partner looking vaguely nonplussed. "Hey, we're alive," he continues, as they fill bags with necklaces, "why can't you enjoy it?"

私の推しはもちろんラモンです。夢がむくわれない男

トラックの運転手をいともたやすく撃ち抜くカルロス

宝石の女体盛りならぬ男体盛り

おじいちゃんのゆるやかな死

最初と最後のダンスステップ

ふたりでダンス

カルロスが盗みにつかった車を廃棄してこいと言われ、人里離れたどこかで車を爆発させるシーン。泥まみれになって無表情でガソリンぶっかける姿にかれの真髄を見た。

ポストカードで作られたパンフレットは圧巻。1,000円とか嘘だろ。。

主演のロレンソ・フェロくん、体当たり演技が素晴らしかった。これからも頑張ってほしい!


参考記事



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