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LGBTQ+映画の日々

第28回レインボーリール東京にて鑑賞した5作品の覚え書き。

①エミリーの愛の詩 Wild nights with Emily 84分 アメリカ

19世紀の詩人、エミリー・ディキンソンの伝記をもとにした歴史コメディ。幼なじみで親友のスーザンはエミリーの兄と結婚するが、ふたりはひそかに愛をはぐくみ、エミリーは死後評価される詩の多くを彼女に捧げていた。主人公エミリー役がSNLのスターコメディエンヌ、モリー・シャノンということで、真摯に愛をささやいても笑い泣きになってしまう面白さ。エミリーの死後、妹が彼女の詩を「男性名」で発表しようとする流れもあり、「天才作家の妻 40年目の真実」を思い出した。100年経っても変わっていない現実を感じてしまう。映画祭のオープニング作品としてはバランスよく、優しいテイストだったと思う。



②カナリヤ Canary / Kanarie 123分 南アフリカ

アパルトヘイト下の南アフリカ、国防軍の聖歌隊「カナリヤ」聖歌隊に派遣される19歳の物語。差別と戦争の歴史と友情とすこしの恋。聖歌隊が奏でる歌もワンシーンワンショットの演出もエンディングの締め方も拍手。牧師様と仲間たちがワイルドカードすぎる。あと、クラブシーンの演出。くっそかっこいい(語彙力がない)

映画祭ではカナリア→トランスミリタリーという上映順で鑑賞したので、意図してなのか政府・軍にかかわる作品を続けてみるという機会に恵まれた(過去と未来にはさまれてだいぶ複雑な気持ちになったけれど)

カルチャークラブ!カルチャークラブ!



③トランスミリタリー  Transmilitary 92分 アメリカ

2016年、アメリカ軍はトランスジェンダーの受け入れ政策を発表したが、新生トランプ政権のもと一転した。ローガン、エル、ジェニファー、レイラ。4名の軍人を中心に4年にわたる軍と政府高官との対話を記録したドキュメンタリー映画。現在アメリカ軍には推定10,000~15,000人のトランスジェンダーが勤務していると予想され、トランスジェンダーにとっては最大規模の雇用先でもある。登場人物のひとり、ジェニファー・ピースは高校中退後、ホームレス状態の生活を送っていたが入隊後メキメキ頭角を現し、尉官(rank : captain?)まで昇進、軍隊における360度評価もずばぬけて高い。結婚生活をへてのトランスジェンダーへ移行、家族の理解のもと現在も妻とこどもたちと暮らしている(パッとみレズビアンカップル!)

Leadership, Integrity, Be authentic myself. この3つの単語が語り手をとわず何度も登場する。言葉の端々から、かれらの教育水準、仕事にとりくむモチベーション(国への貢献)が高く、ディベート、スピーチの素材としても学ぶ部分が非常に多かった。鑑賞後も関連動画をあさってしまうほど、インパクトがあった。iTune配信だけれど切実に円盤がほしい。



④花咲く季節が来るまで Between the Seasons 98分 韓国

ビアン映画とは一概に言い切れない、グラデーションを秘めた映画。主人公は諦観のヘスと大人になりたい女子高生イェジン。淡い初恋ともいいがたい何かを抱えたイェジン。桜や花火、初雪など巡る季節とかれらの関係性がもどかしく、しとやかに描かれている。行間を読ませてくれるタイプの演出、陰陽の対比。是枝監督が好きなので、この手の映画はどストライク。ハッピーともバッドとも言えないエンディングまで美しかった。イェジンの感情の激しさ、真っ白なヘスの自宅、カフェのデザインも最高。携帯屋の兄ちゃんも好き。ふたりが再開するのはビタースイートな初雪の日だといい。



⑤ジェイクみたいな子    A kid like Jake 92分 アメリカ

クレア・デインズ、ジム・パーソンズ(シェルドン!)オクタヴィア・スペンサー。 配役の妙。ドリームやビックバンセオリーみてると感慨深い作品。主人公は「家族」というひとつの塊で、ジェンダーについて悩む日々を描いた、2013年の舞台作品をもとに映画化。なぜジェイクはハロウィンでラプンツェルの恰好をできないのか、なぜ人形遊びをしているとからかわれるのか。リトルマーメイドのくだり、息子をかばう母親にちょっと泣けてしまったよ(ケンカで手を出すのではなく言葉でいいなさい、という父親と、ジェイクはリトルマーメイドだったから口がきけなかったのよ、と母親が返す場面)

親がいたひと、子どもがいるひと、教育に関わるひと、今を悩むひと。色んなひとに刺さりそう。


感想:これだけの良作品を一気に鑑賞できる機会はなかなかないと思う。日本未公開、円盤化されないものが多いし、何より世界中のジェンダー問題を覗き見るチャンスでもある。悲恋だとか、むくわれない話が目に付きやすいジャンルのなかでも(ジャンル、というと怒られるかもしれないが)前向きで、優しく、勇気を与えられる物語に多くふれることができて有難かった。LGBTQメインの映画祭だけれど、当事者だけでなく、ストレートのひとも、映画を愛するひとも必ず楽しめる場所なので興味があるひとはぜひ、来年足を運んでほしい。



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