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大学で見出せた喜びと後悔、そして自分に向けて…|渡邉直樹

profile
#8 主将 渡邉直樹
出身高校:暁星高校
ポジション:MF
無尽蔵のスタミナと両足の正確なパスが持ち味のア式の主将。チームが
苦しい時も、常に自分達のスタイルを信じ仲間を鼓舞し続けた。

渡邉直樹からのラストメッセージ



今シーズン主将を務めました、渡邉 直樹です。引退して1ヶ月程経った今、自分が思っている事を率直に書いていきたいと思います。部員の人ならよくわかると思いますが、何か上手い事が言えるわけでもなく、うまくまとまった文章になるかも分からないので、先にその点はお伝えいたします。笑


2023年10月8日をもって、自分は部を引退した。この日は日本大学生物資源科学部との最終節の試合で、リーグ優勝がかかった試合だった。その影響もあって、この日の自分たちのパフォーマンスはとても良かったとプレーしていてもよく分かった。ハーフタイムを迎えた瞬間にある事を思った。


「こんなに楽しいサッカーもあと45分で終わりかと。」

前半を最高のパフォーマンスで終えた嬉しさと共に悲しさ、寂しさがあった。

5歳の頃からサッカーを始めてずっと続けてきたが、こんな気持ちになったのは初めてだったと思う。



大学生になった時、サッカーを続けるかどうかで迷っていた。サッカーが別に嫌いという訳では無かったが、これがないと生きていけない程好きというまでにはなっていなかったのだと思う。結局コロナもあって他に何をすれば良いのか分からなかったため、ア式蹴球部でサッカーをする事を選んだ。

やると決めた事を中途半端にやるのは嫌なタイプだったため、入部を決めて、活動が始まった頃には真剣に取り組んでいた。練習が始まって2週間でAチームの練習に参加する事ができるようになった。戸田さんの指導のもと、新鮮なサッカーの側面を見た感覚になった。サッカーってここまで考えてプレーをするのかという事を知り、いかにこれまで自分が何も考えずにサッカーをしていたかよく分かった。1つ1つ知って、それをピッチで実践し、自分の物にできるようになる事が嬉しく、サッカーの楽しさを知る事ができた感覚になった。1年の最後の方にはスタメンで試合に出場する事ができるようになり、これまでの自分より確実に成長する事ができている実感があった。



2年になってスタメンとしてリーグの開幕戦から関わる事ができた。今年は去年よりもたくさん試合に出て、もっと活躍したいと意気込んでいたものの、リーグ戦がいざ始まるとうまくプレーできないし、自信もどんどんなくなっていた。1年の頃あれだけ楽しいと思えたサッカーも楽しめなくなっていた。次第にリーグ戦に出場することも厳しくなっていたし、いつメンバーから外れてもおかしくはない状態だった。


そんな時に上智との試合がやってきた。上智は結局この年に優勝したが、常にリーグの1位として2部リーグの先頭にいた。パフォーマンスが良くない自分の所が間違いなく穴になるという事は自分でも分かっていたが、1位の上智に対してうまくパフォーマンスを発揮できれば、失った自信を取り戻せると思い、リーグ戦に出場して戦うという道を選択した。

自分たちが1週間用意してきた戦い方は前半での失点で変更せざるをえなくなった。ピッチでプレーしていてもなんとなく全体としてうまくプレーできていない事は感じていた。前半が終わってベンチに戻ろうとすると、監督の戸田さんがこちらに向かって歩いてきた。こういった事はこれまで無く、自分のパフォーマンスが良く無かったので、前半で交代なのかと思った。だけど、その時意外な事を戸田さんから言われた。その時の事は今でもよく覚えている。


「ナベ、ボランチできるか?」


正直言うと、とても驚いた。自分は高校までボランチをメインにしてきたが、大学に入ってからは左サイドバックで、紅白戦ですらボランチをやった事はほとんど無かった。ないと思っていたチャンスがきた事、ずっとやっていない自分がボランチをやるという緊急のプランだと思うが、それでも自分にその役割が回ってきた事はとても嬉しかった。


「いけます。」


自分は咄嗟にそう答えた。こういう時の回答はとても難しいものだ。自分はこういう時は到底できない事でない限り、できると答えるようにしているが、できるか分からない、できないならそう言えという人もいる。自分の回答は正解でもあり、間違いでもある。


できるという自信があるわけでも無かったが、逆に言うと、できないという自信があるわけでも無かった。本当に分からない状況だからこそ、自分はいけるという判断をして、自分なりの勝負、賭けをしたのだと思う。それに不思議と怖さは無かった。この時すでに0-2で前半を終えていたので、自分がミスをして失点をしたとしてもスコアが少し変わって負けるくらいだと吹っ切れていた。


体に残っているイメージを頼りに自分なりにプレーをしてみたが、思うままに勢いよく動く事ができていると感じた。自陣の低い位置からボールを回す事も、セカンドボールを拾いに前進する事も、これまでの自分には到底できていなかった事がこの日はできていた。


結局、試合はこのまま0-2で負けてしまった。だけど、こんな事を言ってしまうのはどうかと思うが、勝てた試合よりも、充実感はあったし、自分がチームの1人として戦っているという実感もあり、思うように実力を発揮できず勝った試合よりも何倍もこの日は嬉しかった。


この日を境に自分のサッカーへの取り組みは大きく変わったと思う。練習1つ1つの意味を汲み取り、自分なりに考えてプレーをする。うまくいかなければなぜうまくいかなかったのかをよく考え、分からなければ聞く。もちろん、前からやっていた事だし、意識はしていたが、意識の度合いが大きく変わったと思う。毎日の練習が楽しみになり、サッカーを始めたての頃のとにかく楽しい感覚に似て、純粋にサッカーを楽しめるようになった。うまくいかなかった事をポジティブに捉え、改善に取り組む。試合では練習で積み重ねた事を発揮できるように取り組む。これこそ自分が大学サッカーで見出せた大きな喜びである。


今年こそ優勝と昇格という大きな目標を達成する事ができた事はチームとしてこの上ない喜びであるが、自身として大きな壁を乗り越え、選手として大きく成長する事ができたのは大学2年のこの瞬間だった事は間違いない。大学に入ってもサッカーを続けるという選択をした事は間違いではなかったと確信できた瞬間だった。


そして、同時にこのようにも思った。

「中学高校の時もこの熱量で取り組んでいたら、もっとサッカーというものに対して真剣に向き合う事ができていたら、どうだっただろうか?」


たらればを言い始めたらキリがないし、別に中学高校の頃の取り組みを特段悔やんでいるわけではない。高校の頃、先生に、「勉強とサッカーに真剣に取り組め。」と聞き飽きるほど言われた事に忠実に従い(無理にしていたわけではなく、そうしたいと思ったからしていたが)、自分としては後悔ないほど真剣に向き合っていたが、大学の頃に感じたこの喜びをもう少し早く感じる事ができていれば、もっと良かったのではないかと考えてしまう事はある。喜びと同時に後悔に似た気持ちを抱いた瞬間でもあった。



話が少し変わるが、最近ゼミの授業でこんな事があった。少し授業の時間があまったので、発表の担当だったあるゼミ生が質問を投げかけた。

「皆さんの人生の分岐点はいつか?」


確かこんな感じの質問だったと思う。自分はその時、大学受験か就職活動か中学受験だろうな、となんとなく考えていた。先生が指名され、「大学時代ですね。」と答えていた。自分はその時、まあそうだよなと思ったが、先生の次の言葉を聞いて少し考えさせられた。


「社会人になると、受験や就職活動などのように何もしていなくても勝手に差し迫ってくる分岐点はない。そもそもその分岐点がどこにあるのかを探さないといけないし、自分から何も行動しなければ分岐点もない。」


うろ覚えだが、こんな事を言っていたと思う。めちゃくちゃ深いな、と思った。


人生の分岐点ほどではないが、サッカー人生の分岐点は2年の上智の時だったと思う。だけど、これはもしかしたら、自分から掴んだのではなく、試合という機会が設けられて掴む事ができた分岐点だったのかもしれない。

自分が人生の分岐点と考えた、受験や就活は、誰しもが通らざるを得ない、考えざるを得ない、「設けられた分岐点」だ。



今後の人生ではもう、「設けられた分岐点」というのは来ない気がする。自分で探すしかないし、追い求めるしかない。

大学の体育会の活動の魅力とか身につけた事として「主体性」というものが挙げられる。この手の話をするのは正直好きではないし、体育会の活動を通じて本当に「主体性」というのが身に付いているのかも分からない。

だけど、本当にこの「主体性」が身についたのだとしたら、大学生になっても体育会のサッカー部でサッカーを続けた事はとても価値のある事だ。

この「主体性」をもって行動し、これからの人生を生き、数々の分岐点を探し、見つけ、最善の選択をして、成長し、自分の事を誇り続けられるようにしたい。



また少し話が変わるが、暁星高校サッカー部の頃の顧問の先生、林先生(この呼び方が1番しっくりくるので名前を出します。) は練習や試合の後などに数々の話をしてくれた。分かりやすく話してくれるものから、少し回り道をして、あえて伝えたい事を分かりづらくして、後になってあの時の話の意味が分かるものまで様々ある。


その中で自分が結構好きなものを挙げたいと思う。自分が直接言われたかは覚えていないが、確かYouTubeかテレビのような映像で残っていたもので見た気がするので、暁星高校サッカー部員なら分かる人もいるのではないかと思う。


最後の選手権の大会で負けてしまい、引退するサッカー部員に対して、

林先生は「お前ら、人生の良いウォーミングアップをできたな。」と確かこんな内容の事を言っていたと思う。映像で見た限りで、自分が言われてもいない気もするが、逆に言うと、そんな自分でもよく覚えているので、相当なインパクトがあった言葉だと思う。

今年、主将として練習や試合の最後に話す機会がたくさんあり、必ずしも伝えたい事をうまく伝えられなかった事を経験してこそ、林先生の偉大さがよく分かる。



自分のこれまでのサッカー人生は良い事も悪い事もいろいろあったが、とても良い経験になり、最高までとはいわないものの、「人生の良いウォーミングアップ」になったのではないかと思う。



暁星高校の話でまた回り道をしてしまったが、


「人生の良いウォーミングアップ」を終えて、これから始まる「人生の本番」でも自分の事を誇り続けられるように行動したいと思う。



長々と、話も色々な方向に逸れてしまい、伝えたい事も伝わっているのか分かりません。

だけど、それでも良いと自分は思っています。(開き直っているということではありません。)


引退のブログという事で、部員や保護者、OB、高校の頃の同期の人などが読んでくれていると思います。

だけど、自分の性格だから未来の様々な時点で読み返すと思うので、1番この文を読む事になる人は自分になると思う。

だから極論、書いた自分にさえ伝わる文章であればそれで良い。


このブログは未来のどこかの時点で読むことになる自分に向けての、宣言であり、戒めでもある文章として終わろうと思う。


主将 渡邉 直樹

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