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もし目立ったせいで悪口を言われたら

木曜日。いわゆる仕事納めの日。相方の体調不良が極まれりで、仕事中に何度も体温計で熱を測っているので、早く帰るように諭す。彼は去年も年末を体調不良で過ごしたそうで、本当に早くよくなるように願っています。みんな定時で上がる上がる詐欺を働くので我こそは、と18時過ぎに退勤。三軒茶屋駅まで歩いて、途中でオブスキュラコーヒーでエチオピアを淹れてもらう。本当に不思議なのだけれど、毎回違う店員さんに淹れてもらっているのにも関わらず、いつもすごく美味しい。嫌な酸味を全く感じない、甘いコーヒー。紅茶のように飲みやすいけれど、決していわゆるティーライクな味でもない。紅茶のような味がすきなら紅茶を飲んでろ、という僕のスタンス(過激派)を持ってしても、素直に香りのよさに感動する。僕の目指す浅煎りのスタンダードはここにある、と思う。

早く仕事が終わったのはよいことだけれど、人出の多さに少し疲れてしまい、帰宅。少し良いビールを飲んで、違国日記と呪術廻戦を読んで眠る。明日からの冬休みを有意義に過ごさなくては、と思ってしまう自分の生真面目さを呪う。

金曜日。人生を回復させる冬休みとなりますように。オブスキュラのブルンジを46メソッドで淹れる。イメージ的には昨日の帰りにお店で飲んだエチオピアに近づけたいのだけど、何かが違う。お店で飲んだエチオピアはもっとあっさりしているのに、豆の持つ香りはしっかり出ている。言葉で書くと簡単だけれど、もどかしくも超えられない壁がそこにある。来年は抽出も人に習いたい。焙煎も。僕の人生の後半はより謙虚に、人に習うのだ。村上春樹がなにかのエッセイで、自分は人から教わるのが得意だ、と書いていた。それってすごく大事なことだ。今の仕事をしていて唯一よかったことは、とにかく分からないことが次から次へと出てくること。人から教わらないと仕事にならないので、とにかく毎日教わっている、習っている(ちゃんと理解できているかは極めて怪しい)。その際、私はあなたの敵ではないです、ということをわかってもらうために、そして効率的に習うために、僕が持っている最大限の感じの良さを発揮するのだ(大して感じ良くないとは思うけれど、それでも)。もちろん、そんなことを毎日しているととても疲れる。どうせなら、自分のすきなことについて教わりたいものです。

中掃除的なのを済ませてお昼の後、また1ヶ月以上空いてしまった整骨院へ。もはや身体の不具合は失笑レベルのようで、前回に引き続きゴキッ!ってやるやつを複数回かまされる。その都度ついつい笑ってしまう自分のリアクションを不思議に思う。担当の方とドラゴンクエストモンスターズの話などする。ポケモンとの共通点、相違点。一度帰宅して白湯を飲み、今度はコジマへ。キャリアをSoftBankへ戻す。めちゃ混みかと思ったらガラガラで今はまさしく年末なのだと知る。新幹線のチケットを発券して、夕飯の買い物と仕込み。コノスルのマルベックをがぶがふと飲む。年末に無茶苦茶な仕打ちを受けた仕事の疲れが全然抜けていなくて、早い時間に寝落ちしてしまう。

土曜日。先月に焙煎して冷凍庫で寝かせていたコスタリカとエチオピアゲイシャをブレンドして淹れる。ゲイシャは手鍋焙煎したもので少し苦味が出てしまったかもしれない。その後、手持ちの革靴をすべて出してきてひたすらピカピカに磨く。もっと日常的にやらなくてはいけないのだけど、こうやって無心に綺麗にしていく行為は極めて年末的な気がする。

スケジュールを勘違いしていたのだけど、バタバタと先に実家へ出発する家族たちを見送る。その後、優雅にハンバーグランチ。黙々とよいハンバーグを食べたかったのだ。だいぶ満足してすぐに帰宅。ねこたちを解放したり昼寝をしたり違国日記や呪術廻戦を読んだりするフリーダム・フリータイム(フリフリ)を過ごす。年明けに飲みたいコーヒーを焙煎。いただきもののケニアとグアテマラを混ぜてみる試み。どちらもきれいなウォッシュトで粒も揃ってるので、何だかうまくいくような気がしている。

夕方には音楽関係のやり残した作業も終えて、クリーニング店へ寄ってから夕飯を買って帰宅。コーヒーの動画を観ながら黙々と食べて、この前の日曜日に焙煎したエチオピアゲイシャをまた46メソッドで淹れて飲む。最近はコーヒーの苦味を意識的に抑えたくて、豆とお湯の比率を1:16.5に変えている。NHKで「ビートルズとロックの革命」を観る。アメリカツアーでの人種差別撤廃のポールの発言にうっかり泣く。今見ると極めて優等生的なイメージのポールらしい発言だけれど、当時こんな見解をアイドルが発することには相当な勇気が必要だったのではないか。ソ連周辺国でのビートルズの受け入れられ方も興味深かった。政治的メッセージとロックについて少しだけ思いを巡らす。少しギターを弾いて、また違国日記を読む。違国日記、ページを開きながら、このシーンってさ…って色々話したくなる漫画だ。きみに会ったらどんなふうな話をしよう。描かれていることはとても個人的なのに、同時に普遍的なテーマを扱っている。「もし目立ったせいで悪口を言われたらぶっ殺せ」という槙生のハードボイルドなセリフに思わず震える。こんな人が近くにいてくれたらいいのに。

気づけば、家にあるビールとワインはすべて飲んでしまった。12時を回っていた。ねむくなった。普段荒くれているねこたちも床でとろけている。静かな時間。なんと自分らしく自分勝手な一日を過ごしたのだろう、と思いながら目を閉じる。

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