見出し画像

表現規制反対におけるBL表現愛好家と男性向け表現愛好家の対立について(後編)

大変長くなりました前半にお付き合いいただきましてありがとうございます。ここからが本題となります。前回記事冒頭にて触れた、「男性向け」愛好家(以下「男性向け勢」)と「BL」愛好家(以下「BL勢」)の対立についてです。

※ 更新履歴は記事末尾へ移動しました。

1. 注意事項

インターネット上、かつ匿名でのやりとりのため、気分が悪くなるような強い表現が多数出てきます。覚悟の上お読みください。また、今回のnoteを多少なりとも受け入れやすくするため、以下の注意事項にも留意いただけると幸いです。

・主語を大きくするのはやめましょう

 自分が受けた仕打ちを否定する必要はまったくありませんが、相手が全て同類だと考えないでください。それぞれに考えがあり、あなたを攻撃した人物と同じ考えの人ばかりではありません。また、心無い言葉は発した本人にしか責はありません。あなたの哀しみや怒りを、無関係な人を傷つけることに使わないであげてください。

・自分はやっていないと頑なにならないでください。

 人を侮辱したり攻撃したりする発言は論外で、許せないことだと思います。それらと同類だとレッテル貼りされた時、「一緒にするな!」と強く感じることでしょう。また、「男性だから」「女性だから」「規制反対派だから」「規制賛成派だから」と自分が言ってもいない意見を主張したと言われることもあるでしょう。そんな時、相手の言葉をまったく拒否するのでなく、実際にそのような言葉を投げかけられたのだなと、それだけは認めてあげて欲しいのです。

・お互いをいち個人として見てください。

 貴方と議論をしている相手は、「~~派」という集団ではありません。集団と個人を一緒にしないでほしいのです。近い派閥に属していても、意見が異なることは当然あります。「あなたたちはこう言った!」と集団として見るのでなく、個人の意見に耳を傾けてください。

・個人攻撃はやめてください。

今回のnoteは、お互いの主張を今一度整理しなおすことを目的としています。過去の発言を槍玉に上げ、個人を攻撃することのないようにお願いいたします。


2. 星崎レオ氏の作品に対する不健全図書指定

2022年年4月、商業BL作家の星崎レオ氏の作品が、東京都において「不健全図書」に指定されました。「不健全図書」については前半にて説明させて頂きましたが、東京都知事の権限において指定する、「青少年の人格形成に有害である出版物」のことです。この指定を受けることは、実質出版停止処分を受けるに等しいと言えます。

これを受けて星崎氏は同年6月に地方から東京へ上京、「東京都青少年健全育成審議会」を傍聴し、どのような形で「不健全図書」が指定されているかを確認されました。そして感じたことは、「何をもって不健全図書とされたのか、基準が全く分からない」ということです。東京にいる間に赤松健氏、くりした善行氏ともお話をされ、不健全図書指定について大変な問題であると感じられたようです。そしてご自身が感じられたことを漫画にまとめ、シェアされました。

「今現在、非常に曖昧な基準で図書が健全か不健全かを決められている。創作物がいつ不健全と指定されるかという問題とともに、審査を表現規制派が行うようになれば、表現の自由が今以上に脅かされる。このままにしておいてはいけない。」


3. 炎上

星崎氏の主張は「表現の自由」を求める作家として至極当然であるといえますが、様々な要因が重なり炎上してしまうこととなりました。これは、今まで規制されてきた男性向け勢の反発によるものや、急激な規制に反発を覚えるBL勢、さらに表現の自由性的な物を公共の場に置くべきかBL産業の経済活動の3つの問題が混ざって議論されていること、併せて星崎氏の発言当時の知識不足による発言の誤りに関する誤解発言の一部切り取りなどが原因と考えます。混ざり合って複雑化している問題点について、次の項からひとつずつ解きほぐしていきます。


4. ゾーニングの必要性

対立の要因の1つ目は、「表現の自由」についての主張が「性的な物を公共の場に置くべきか」という問題と混ざってしまったことです。

不健全図書は、「成人向けマークのついていない書籍」に対し行う指定です。つまり、商業BL本が「一般向け書籍」であることは不健全図書指定を受けた大きな要因です。

前編にて解説した通り、男性向けのアダルト表現は長く規制を受けてきました。公共の場にアダルト作品が紛れ込むのは青少年の育成に悪影響を及ぼす。従ってアダルト作品はゾーニングされなければならない。現在の風潮はこのようになっています。つまり、

必要なこととして、男性向けアダルト作品は規制されてきた。公共の場に置かず、青少年に見せないようにする配慮はBL作品にも当然必要だ。」

と指摘されてしまいました。これをまったく否定することは難しいでしょう。「男性向け一般作品にも過激なものはたくさんある!」という声も聞かれます。大変尤もですが、まずは自主規制などの前提が整わないうちに単純に比較するのは難しいところです。


5. BL産業の興亡

対立の要因の2つ目は、「BL産業の経済活動」の問題と混ざってしまったことです。

女性向けアダルト作品は男性向けと比較し、市場規模が大変小さいです。仮にゾーニングすることが適切だとしても、今のBL産業は現在の男性向けと同等のゾーニングに耐えられないのです。ゾーニングにおいて、空間を区別し特別な陳列を行うことは書店において大きな負担となります。BLコーナーの占める面積、及び売上はそこまで大きなものではなく、負担をおしてまで販売を続けられない、という書店は多いでしょう。さらに言えば、BL作品としてまとめられている中にはアダルト表現を含まないものも多く、売り場の問題を更に難しくします。

また、既に男性向けアダルト作品がゾーニングされているのだから、そこにBL作品も陳列すれば良いという意見があります。しかし、性に関する商品を男女一緒にしてしまうことには問題があります。男性がアダルト作品を購入したりレンタルする際、店員が女性の窓口を避ける人が一定数います。女性側に限らず、性に関するセンシティブなものを男女で共有することには精神的にためらいを覚えるのです。

以下URLは稀見理都氏によるツイートですが、スレッド内にてゾーニングについて大変詳しく解説していらっしゃいます。ぜひご覧ください。


6. 急激に進む(と感じられる)BL規制

対立の要因の3つ目は、BL勢の中に少なからず、昨今進んでいるBLへの規制が急激だと感じられていることが挙げられます。

東京都の指定する不健全図書は、2010年代後半以降は大半がBL作品となっています。東京都がどのような基準で不健全図書の審査対象を選んでいるかが分からず、いつ自分の関する作品が不健全図書となるか分からないことを理不尽に感じています。「成人向けマークのついていない書籍」から選ばれるため仕方ない部分がありますが、BL作品ばかりが槍玉に上げられていると感じる人もいます。

また、特に古くからBLを愛好している方に見られるのが、まだ世に出たばかりなのに、という感覚です。BLはマイナーであり、身内でひっそりと楽しむクローズドな面が強い文化でした。これが、商業ルートに乗りやっと世に出るようになった。なのに、世に出た途端に批判の対象になってしまった。

世の中は過去にアダルト文化についての長い歴史があり、こうすべきという風潮と方法論ができています。しかし、BLの当事者にとっては世に出てからの歴史はまだ短いものでしかなく、言ってしまえば成熟していないのです。

以上により、BLに対する規制が急激であると感じられ、反発が起こっているのです。


7. BL勢に対する男性向け勢からの嫌がらせ

一部の男性向け勢にとって、BLは理解しがたい文化です。「気持ち悪い趣味」と言って憚らない人もいます。趣味は人それぞれであるにも関わらず嫌悪感を隠さず、時に言葉で、時に別の手段で攻撃してきました。

2013年に起きた、「PIXIVグロ画像事件」をご存じでしょうか。これは、「BL勢が気に入らないから」というだけの動機で発生した、実にたちの悪い嫌がらせ事件です。PIXIVにグロ画像を投稿し、BL勢向けのタグをつけ、BL勢にグロ画像を見せつける。タグ荒らしなども頻繁に行われ、嫌がらせは絶えることがありませんでした。

当時匿名掲示板の一部勢力におけるBL勢への当たりは大変に強く、好悪の感情のみでなく面白半分でバッシングされた事案は数え切れません。そのため、男性向け勢から嫌がらせを受けたという強い怒りや悲しみを抱えた人も少なくありません。またBL勢を忌避する風潮は払拭されたとはいえず、これらの事件に限らず自分たちは歓迎されていないと感じ、傷ついた人は大勢います。


8. 私たちを放っておいて

前述の通り、BL勢は自らの趣味を、多くの嫌がらせを受けかねない、理解を得にくいものだと感じてしまっていました。そのため、目立たないようにひっそりと活動していたい、そういう層がかなりの数います。人の好みとぶつかることが多いこともあり、極力他人の目に触れないように、自らの領域からはみ出さないように、注意を払って活動をしています。そういった層が、「私たちはもうゾーニングしているのに。」と感じてしまっているのです。


9. BL勢のボリュームゾーンの変化

男性向け勢の中には、BL勢に敵意を向け誰も彼も構わず攻撃する人たちがいます。面白半分で攻撃するような人やBL勢であるというだけで憎しみを募らせる人は論外ですが、理由があって攻撃している人たちもいます。理由については後述しますが、その人たちは過去に受けた仕打ちに対する恨みから攻撃している人が多いです。

しかし、その恨みはBL勢にとっては理不尽にしか感じられません。なぜなら、彼らが叩いているのは既に彼らが恨みを受けた相手ではなくなっているのです。彼らの多くは2014年改正児童ポルノ防止法の時のことを恨みに思っています。しかし、それは既に8年も前のことなのです。

BL勢は10代から20代がボリュームゾーンです。そして、そのメイン層の大半は8年も前のことなどまったく関係がありません。身に覚えのない責から叩かれるBL勢は強い反発を覚えています。


10. 男性向け勢の反発

前編にてご説明した通り、男性向けアダルト作品は多くの規制を受けて現在に至っています。その中で受けた仕打ちについて、納得がいっていないという人は少なくありません。そしてこれは感情の問題ゆえに、正しい・正しくないで済ませることができません。そういった一部の男性向けの想いについて、ご説明致します。

理不尽なものもあります。その思いを自分にぶつけられてもと思うでしょう。しかし、こんな考えを持つ人もいる。それだけは知っていてほしいのです。また、必ずしもこのように考える人ばかりではありません。実際に相対する際には個別の主張に耳を傾けてください。


男性向け勢も既に規制を受け入れた。BL勢も規制を受け入れるべき。

男性向け作品においても多くの規制とゾーニングがなされ、コンビニに代表されるように売り場も失っている。売上に打撃を受け、多くの人が収入と職を失った。BL勢だけが免れるのは間違っている、と感じている人もいます。

男性向け勢が「非実在青少年」や「児ポ法」などにより表現規制を受ける恐れがあった時、BL勢は協力してくれなかった。

アダルト作品は「非実在青少年」の際に大変な表現規制の危機にさらされました。その時、「今は規制の対象になっているのは男性向けだが、次はBLが規制される。今規制に抗うために協力してくれないか。」という男性向け勢に対し、「協力しないから勝手にやってくれ」というBL勢がいたのです。あるいは、男性向け表現は「気持ち悪い表現だから規制すべきだ!」と自分たちの表現を棚に上げ、むしろ規制に前向きだった層すらいました。これについて、「BL勢に後ろから殴られた」という気持ちを捨てられない人がいることは事実です。以下は当時のTogetterまとめです。BL勢のツイートは軒並み削除されているため詳細を追うことはできませんが、雰囲気だけは掴めるかもしれません。

当然、このような人ばかりではありませんでしたし、その恨みを自分にぶつけられても、と思われるでしょう。ですが、このような経緯があったということは知っておいていただきたいのです。

・被害者意識が目につく

先述の通り、BL作品が集中的に攻撃されているように感じられるため、どうして自分たちばかりが、という嘆きが散見されます。それに対し、男性向け勢の中には「何をいまさら」と感じている人がいます。なぜなら、男性向け勢は散々規制を受けた後だからです。さらに言えば、近い文脈として「温泉むすめ「VTuber 戸定梨香」「月曜のたわわ」問題など、現在進行形で表現規制の対象になっているからです。また、これはBL勢にも関係がありますが、「非実在青少年」の規制を求める請願が毎年国会に提出されています。叩かれているのは自分たちだけだと言わんばかりの態度を繰り返すのを見て、相手にしていられない、そう感じる人もいるのです。

男性嫌悪への反発

BL勢の中には男性の性について強い嫌悪感を覚える人たちがいます。そういった人たちは、男性向けのアダルト作品は規制すべき醜いものだと断じ、自分たちが好むBLはまったく問題がない、と主張するのです。その主張についてはここで詳細は述べませんが、相手を責め、自らを棚に上げる態度を受け入れられない男性向け勢は少なくありません。


11. 星崎氏の主張への誤解

星崎氏が炎上してしまった理由の一つとして、発言当時の氏本人の表現規制に対する理解不足と、Twitter特有の短い発言切り取りが上げられます。1ツイート140文字の制限は意見表明には短く、読んだツイートによって受ける印象がまったく異なることもあります。1ツイートのみを切り取っても前後の流れがわからず、全体としての意見を正しく読み取ることは難しいです。そのため、星崎氏の意見が歪んで伝わってしまいました。そこで、氏の主張をあらためてまとめます。

・不健全図書の在り方に疑問を抱いている。曖昧な審査基準はいずれ表現規制派が不快な表現を規制する道具にされてしまうかもしれない。表現の自由が脅かされていると強く危機感を覚えている。

・不健全図書の審査対象になっているのは、現在の商業BLが全年齢向けになっていることが大きな要因であると認識している。過去のアダルト作品に対する規制も把握しており、BL作品にも同レベルの自主規制が必要という意見も承知している。

・とはいえ、現在のBL業界は男性向けアダルト作品と同等のゾーニングには耐えることができない。必要性は理解するが、業界と、そこで働く人たちが耐えられない。

・そのため、まずはレーティングによる年齢制限を行い、青少年が過激なBL作品を手に取ることがないようにすることから始めたい。それに伴い、不健全図書の審査対象からも外れることができる。

・世の中の流れとしてアダルト作品にはゾーニングが必要とされた風潮も理解している。その中で、BL表現・男性向け表現にかかわらずゾーニングの在り方を再考する必要性は感じる。暖簾による空間隔離だけでない目隠しや陳列方法の工夫などが考えられるが、既に一度規制されたものを撤回するのは難しい。働く人々を守るため、現実的なラインとしてまずはレーティングから始めることで理解してもらえないか。

ゾーニング、レーティングなどの言葉が一人歩きしてしまったために、「自分たちだけ規制から外れたいとはけしからん」と非難を受けてしまったところがあると思います。上記の通り、星崎氏もゾーニングの必要性は理解しているが、実現可能な、現実的な提案として今はレーティングに留めて欲しい、とお願いしてみえます。そこは何とぞご理解いただきたいです。

(※レーティングもゾーニングの一種ですが、ここでは対比のために「ゾーニング」を売り場の問題を指す言葉として分けて使用しています。悪しからずご了承ください。)※追記


12. 表現規制回避への努力

「表現の自由を守る」と掲げられている、くりした善行氏。2022年の参議院選挙では立憲民主党から出馬され、同じ「表現の自由」を守ることを目標とされる超党派の方々と連帯し、様々な表現規制とたたかっていらっしゃいます。くりした氏は不健全図書について以下のようにツイートしていらっしゃいます。

全国に波及するため、法規制に準じる表現規制と言われてきた都の不健全図書制度。根本的な問題はスライドに載せた通りですが、「審議が必要以上に非公開で行われる」「議事録は公開されるものの、発言者が公開されない。発言後に修正されることが度々ある」など情報公開の面でも、多くの問題が(続

多くの問題があります。 都議会在職中、「不健全図書制度」の審議員としてこれらの改善に向けて発言を続けてきましたが、密室の中の議論では難しい。今度は国会議員として問題的をさせていただき、東京都の「不健全図書」のみならず、全国の「有害図書」制度、その運用の改善も促していきます。(続

また「不健全図書」「有害図書」という名称から必要以上にネガティブイメージが生まれていますが、実際のところは只の成年向け図書です。この時代錯誤な名称についても改めていく運動にも挑戦させて頂きたいと思います。

このように、制度の疑問点についてはっきりと改善の意思を表明くださっています。不健全図書の問題のみならず、インボイス制度など他にもおかしいと思ったことには声を上げてくださる、大変頼りになる方です。また、下記ツイートの通り、星崎氏のご主張に賛同して下さっています。

このマンガは、まさに私のお伝えしたこと同じ内容です!

また、星崎氏は以下のようにも述べられています。

「けしからん」という層の人の声が大きくなっている昨今、いち作家や出版社だけの力ではどうにもならない。であれば自分の作品だろうがレーティングしてもらっても構わない、ただし他に政治的解決方法があるのなら政治の力に託したい。この「当事者」の主張がそんなに間違っていますか?

他に例えば編集部だったりが出てきてくれなかったので、自分の主張が正しいのか全く私にはわかりませんし、私の主張=BL業界全体の主張という風に主語を大きくしてもらっては困ります。

星崎氏の発言はあくまで氏個人のものです。BL業界全体の意見として受け取ってしまうことは健全ではありません。

また、表現規制の問題は、個人だけで解決することのできるような問題ではありません。たまたま不健全図書に指定され、おかしいと声を上げたいち作家だけに背負わせるものではないと思うのです。不健全図書に関する問題は「BL勢」「男性向け勢」問わず、共通の問題です。政治の力を借りながら、多くの人々の力でもって抗っていく必要があるのではないでしょうか。


13. 好きなものってひとつだけですか? (※追記)

突然ですが、あなたのお好きなものは何ですか?名作、奇作、知る人ぞ知るマイナー作品。それらって、全部1ジャンルに入っていますか?書籍、映像、音楽。あるいは服飾や食事なども。ジャンルも媒体も様々なものがあり、「好き」という気持ちはジャンルに囚われるものではありません。

BL勢の方々も、BLだけが好きとは限りません。それぞれにお好きなものがあります。当然、男性向け作品がお好きという方もいらっしゃいます。都条例、改正児ポ法、これらに対し、自分も好きなものを守ろうと、声を上げた大勢の方がいらっしゃいます。

さらに言えば先ほど挙げた、「温泉むすめ「VTuber 戸定梨香」「月曜のたわわ」などの問題。これらも、お好きな方はたくさんいらっしゃいます。自らに降りかかることとして、たくさんの方が毅然と反対されました。そういった方々は、「自分だって同じように守ってる!」と憤りと哀しみを覚えています。

あなたが相対している人は、あなたと同じものを愛し、同じものを守る人ではありませんか?


14. 表現規制への抵抗(※独立項目へ移行、加筆)

表現規制に抗う思いは、好きなもののジャンルの違いに左右されません。表現者として、あるいは作品を楽しむ者として。等しく自らに降りかかるものとして抗議の声を上げる方は大勢いらっしゃいます。都条約、改正児ポ法の際にも多くの方が反対の声を上げられました。

以下URLは2016年、女子差別撤廃委員会にて「日本における女性の権利」を保障するために上げられた、「性的暴力を描写したビデオや漫画の販売の禁止」に対する反対意見書です。

女子差別撤廃委員会とは一体何なのでしょうか。Wikipediaより引用します。

女子差別撤廃委員会(英: Committee on the Elimination of Discrimination against Women)は、女子差別撤廃条約の履行を監視するために国際連合人権理事会が設置している外部専門家からなる組織である。
概説
国連総会によって1979年に採択され1981年に発効した女子差別撤廃条約の実施に関する、締約国からの報告の検討、委員会活動の国連総会への報告、提案及び勧告などを行うために、同条約第17条に基づき設置されている。

Wikipedia 「女子差別撤廃委員会」より

つまり、国連によって採択された女性の権利を守る条約について、批准国で正しく履行されているかを監視する組織ということですね。もちろん、日本も批准しています。つまり、国連の権威において女性の権利を守る活動をしている組織が、日本の「性的暴力を描写したビデオや漫画の販売の禁止」を提案した、ということです。

これは大変恐ろしいことです。日本における表現活動について、海外から干渉があったということですから。前編にて新サイバー条約についてご説明しましたが、それに限らず日本の表現の自由は常に脅かされているのです。

これに対し、クリエイターを始めとする著名人の方々が連盟で抗議の意を示してくださったのが、先ほどの意見書です。その中には実に多くのBL作家の方々のお名前も見られます。ぜひ、ご自身でご確認ください。

BL勢の方々も、表現の自由を守るために戦っていらっしゃいます。そしてもちろん、男性向け勢の中にもBL表現の自由を支持する方々がいらっしゃいます。ぜひ、知っておいていただきたいのです。


15. 作品を大切にする想い(※追記)

都条例、改正児ポ法は当然BL業界にも適用されますし、不健全図書問題に危機感を持っている方々は自主的なレーティングを設定したり、問題になりがちな際どい表紙を控える、修正をより厳格に行うなどの取り組みをしていらっしゃいます。しかし、自主規制に詳しくなかったり無頓着な方もいたりと、業界内でも足並みが揃っていないというのが実情のようです。

昨今出版業界全体の問題点もよく聞かれるようになりましたが、流通との兼ね合いをはじめBL業界の努力のみで解決できない部分もあり、大変難しい問題だと思います。

この機会にBL作家さんとお話をさせていただく機会もいくらかありましたが、皆さんやはり作品を大切にしてみえて、それがなんとか消費者の手元に届いてほしいという想いを持っていらっしゃるのだと感じました。不健全図書指定の問題はもちろんありますが、仮に不健全図書指定されても適切な自主規制の元で販売を継続するなど、なんらかの形で作品が残るようになってほしいと願っております。


16. 男性向け勢へのお願い(それぞれのお考えの方へ)

・表現規制反対派としての一貫性

表現規制について反対の立場をとる方はたくさんいらっしゃると思います。ぜひBLに対しても同じく表現規制反対を表明していただきたいのです。過去に受けた規制に無念を覚える気持ちはあると思いますが、BLが受ける、不当と思える規制には協力して対抗していけないでしょうか。特に不健全図書については皆さんも強く疑念を覚える制度だと思います。規制はアダルト表現に限りません。暴力、犯罪、残虐な表現等も規制の対象です。決して対岸の火事などではありません。
あるいは、現在の男性向けに対してを含めた表現規制について、解放を叫ぶこともできるでしょう。協力して全ての、そして未来に自分たちに降りかかる規制に抗っていただけないでしょうか。

・BL勢も一枚岩ではないということへの理解

BL勢はそれぞれにいろんな主張をするので、よく分からないという人は多いと思います。それは、先述した通り自らの領域をきっちり守るという性質上、外からは同じに見えても実は細かく勢力が分かれてしまっていることが原因の一つです。ひとまとめでなく各々に想いや考えがあると、今回のnoteで多少なりとも理解が進んでくれればと願っています。

・男性向け表現に強く嫌悪を覚える人たちについて

先にもあった通り、男性向け表現に強い嫌悪を覚えて攻撃してくる人たちがいます。個人の考えを否定することは極力避けたいですが、誤解を恐れず言えば彼女たちは一部の先鋭化した過激派です。「BL無罪論者」「腐ェミ」などと呼ばれる彼女らは、BL勢全体としては少数にすぎません。また、多くのトラブルを起こしていることから、BL勢からも非難されています。まさにノイジーマイノリティといえます。彼女らに囚われて、大勢のBL勢を憎まないでほしいのです。話が通じて、理解しあえる人とまで敵対することがないことを願います。

過去の責を今のBL勢に問う意味

過去の出来事が許せない気持ちもあるでしょう。しかし、今主に活動しているBL勢はその過去にまったく関係ない層がとても増えました。「BL勢」とまとめてレッテルを貼り叩くのではなく、新しい世代であると受け入れてほしいのです。

・BL産業の雇用を守る

昨今大きな話題になっている、いわゆるAV新法について耳にされた方も多いかと思います。性急に進められた規制がAV業界から雇用を奪っている実例が今まさに目に入ります。「性産業に携わる人も差別されず、守られなければならない」と、多くの人が反対を表明し動いてみえます。
性急な規制は、同様の事態をBL産業にもたらします。それを未然に防ぐためにも、一度立ち止まっていただけないでしょうか。性産業に携わる方と同じく、BL表現を愛好する方々も守られなければならないと思うのです。

・既に表現規制を受けた先輩として

「何をいまさら」「自分たちばかり逃れようとしている」と思う気持ちを抑えることは難しいと思います。すでに規制を受けた後なのですから。しかし、今抗いの声を上げている彼女たちは、過去の皆さんなのです。根拠に乏しい、理不尽な規制を受けて助けを求めていた過去の皆さんと同じなのです。先輩として、経験者として、表現規制反対の同志として、ご理解いただけないでしょうか。それが難しくとも、バッシングすることなくスルーなさる程度に留めていただけないでしょうか。


17. 多様性を受け入れてくださる皆様へ (※追記)

最後になりますが、BLに限らず、不当に規制される表現に対し声を上げてくださる皆様。あるいは、興味がなかったり好きでなくてもバッシングすることなく、優しい無関心を貫いてくださる皆様。
あまり記事中にて取り上げられず大変申し訳無いと思っておりますが、大多数の優しい男性向け勢の皆様。
多様性を受け入れてくださる皆様に深く感謝申し上げます。


18. 結びに

ここまで、どちらにも属さない第三者として、外部から見た問題を述べて参りました。無責任なことを言うな、というご意見はあるかと思いますが、どちらの得にもならない、お互いに傷つけあう状況をなんとかしたいと思い、拙いですが今回のnoteを作成しました。

ご指摘はいつでも受け付けておりますので、誤りがありましたら是非ご連絡くださいますようお願い致します。

大変長くなりましたが、最後までご覧いただきありがとうございました。


更新履歴

※ 2022/7/7 22:35 BL作家による抗議活動の参考資料、ゾーニングの解説ツイートを追加
※ 2022/7/8 02:40 「3. 炎上」に文言追加 「発言の一部切り取り」
※ 2022/7/8 12:05 「14. 多様性を受け入れてくださる皆様へ」を追加、「14. 最後に」を「15. 結びに」に修正。
※ 2022/7/10 0:15 「13. 好きなものってひとつですか?」「15. 作品を大切にする想い」を追加、「14. 表現規制への抵抗」を「男性向け勢へのお願い」から独立・加筆、それに伴い目次番号を修正。
「16. 男性向け勢へのお願い」中に追記、「全ての表現規制からの解放」
※ 2022/7/11 10:40 「10.男性向け勢の反発」に文言追加 「そういった一部の男性向けの想いについて、ご説明致します。」、更新履歴を記事末尾へ移動
※ 2022/7/11 12:30 「4. ゾーニングの必要性」に過激な男性向け一般作品についての言及を追加、「5. BL産業の興亡」に非アダルト作品への言及を追加
※ 2022/7/14 10:00 twitterのセンシティブツイートの埋め込み機能について、エラーが改善されたためツイートの埋め込みを実施しました。
※ 2022/7/26 19:25 「16. 男性向け勢へのお願い」暴力、犯罪、残虐表現に
関する記述を追加
※ 2022/7/27 9:15 「3. 炎上」「11. 星崎氏の主張への誤解」に文言追加 「発言当時の」、「9. BL勢のボリュームゾーンの変化」から文言削除 「市場の」、「11. 星崎氏の主張への誤解」に「レーティング」「ゾーニング」に関する注釈を追加


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?