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味噌玉とコブシの木

フクジュソウが開花したのは2月18日のことだった。
暖冬、雪不足、早すぎる春の到来。フクザツな思いで輝く黄色い花を愛でた。

そんな思いが天に届いたのだろう。2月後半、遅れてやってきた冬にホッとしながら、湧き水が凍りドキドキしたり、程よい汗をにじませて雪かきをしたりと、例年通りの冬も味わった。
薪ストーブと湯たんぽ、ネコたちに暖めてもらった冬の日も、少しずつ懐かしい時間になりつつある。

3月初め、今年も味噌玉作りをした。お隣に暮らしたばあちゃんの作り方に倣い、豆を煮る甘い香りに包まれて、豆をつぶし、トントン トントン
リズミカルに味噌玉を形作る。

吊るした味噌玉越しに眺める雪原は、刻々と春へ。ここまで来れば氷点下の日があっても雪の日があっても、もう春!

ばあちゃんと過ごした記憶のない2000年生まれの息子も、今では味噌玉を手伝う…というより、主力となって働くようになった。味噌玉の周辺に集まる人たちも年々若くなる。相対的に私が歳をとったことに他ならないのだけれど…。

ばあちゃんの暮らしは体と頭と心を使って、確かなものを生み出してきた。便利な道具や情報が溢れる時代にあっても、それはちっとも古くならず、消えてしまわない。春は味噌玉にばあちゃんの姿を重ねる季節でもある。

先日、大風が吹いて、コブシ(ヒキザクラ)の大きな枝が折れてしまった。春先ばあちゃんが楽しみに眺めたコブシの木で、花のつき具合でその年の作況を占うのだ。沢山咲けばヨナカ(豊作)、少なければケカジ(不作)。

残ったコブシの木を見上げると、幹や伸びた枝にも花芽が沢山ついていた。
小さくも確かな命が次々と控えている。

(文章:山代陽子 写真:山代生)

映画「タイマグラばあちゃん」が完成したのは20年前の3月。この春DVDになりました。澄川監督の労作に感謝です。


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