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アメリカ人の物語【番外編】老戦士

※『アメリカ人の物語5』で詳しく取り上げる予定の北西部インディアン戦争の勝敗を決したフォールン・ティンバーズの戦いが終わった直後のお話。

戦場を歩いていたある士官は、丸太に呆然と座っている一人のインディアンの老戦士を見つけた。老戦士は、これまで自分はずっと戦場で過ごしてきたと近づいて来た士官に語った。今後は平和に過ごすつもりだと言うと、老戦士は口をつぐんだ。

身柄を拘束された老戦士の持ち物の中から「メアリ・ミーンズ」という名前が刺繍されたハンカチが発見される。かなり古いもののようだ。

それを見た士官は驚く。なぜならその名前は妻の旧名であったからだ。珍しい名前ではないかもしれない。しかし、士官には思い当たる節があった。

ポンティアック戦争の頃、メイデン・フットという名前の戦士に命を救ってもらったと妻から聞いていた。そして、感謝の印にまだ小さな女の子だった妻は、自分の名前を縫い取ったハンカチを渡したという。

目の前にいる老戦士がまさにそのメイデン・フットであった。士官はメイデン・フットを連れ帰って妻に再会させた。三一年もの年月が経っていたにもかかわらず、二人は互いをそれと認めた。

メイデン・フットは三一年前にメアリの生命を救った理由を語った。実はその時、メイデン・フットは妹を亡くしたばかりだった。そこでビーズの飾りを渡すことでメアリを亡妹の代わりにした。だから危険を顧みず命を救いに駆けつけたという。

その後、メアリはメイデン・フットを一家に迎え入れて一緒に暮らした。四年後にメイデン・フットが亡くなった時、墓石には「一八世紀のインディアンの族長であり文明人、そして、キリスト教徒として亡くなったメイデン・フットを記念して」と刻まれた。

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