見出し画像

スナック忘れな草~走れ正直者・2024金鯱賞・フィリーズレビュー・アネモネS~

トップ画像引用:走れ正直者


■ アニメ界の訃報

2024年3月9日(土)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-

スナック忘れな草にはいつもの明るさがなく、梅雨の空模様のようなどんよりとした空気が漂っていた。しかしそれは土曜日の競馬が外れたからではなく、アニメ界で相次いで起こった訃報のせいだった。

「鳥山明が68歳、そしてTARAKOが63歳・・・か。年がちけえやつらの訃報はグッとくるものがあるぜ」

タコ社長はそう言うと、眞露の水割りをグイっと一息であおった。いつもならすぐに新しい水割りを作るのだが、今日は空のグラスを前にしばらくぼーっとしている。

タコ社長は60代であり、スナック忘れな草の常連客の中では高齢の部類に入る。サイン競馬仲間に限ると、真一郎やギョニ子はもちろんのこと、マスターや麗子ママよりも年長であり、訃報には最も敏感な世代といえる。

「さあ、煮込みでも食べてあったまってちょうだいね」

暗い雰囲気を察してか、いつもよりいくぶん大きめの声で麗子ママが言った。みんなの前にモツの煮込みを配っていく。真一郎とギョニ子の前にはアジシオも一緒に置いた。

「もし塩っ気が足りなかったら使ってね」

「ええと・・うちらにだけですか?」

タコ社長の前にはアジシオが置かれていないことに気づき、真一郎が訊いた。

「そうよ。社長さん、最近高血圧気味だから、ちょっと薄めの味付けにしているの」

麗子ママがそう言うと、タコ社長は前を向いたまま軽く右手を挙げた。俺のせいで面倒をかけるぜという意味なのだろう。

■ スランプ脱出

「きぃーーーーーーん!!んちゃ!!」

その時、そう言って店内に入ってくる男がいた。アラレちゃんキャップをかぶり、デニムのオーバーオール、ピンクのTシャツといういでたちのくろたんだった。くろたんはタコ社長の右隣に座ると、棒に刺してあるおもちゃのうんちでタコ社長の頭をつんつんした。

「・・・・・おお、くろたんさんかい。アラレちゃんの恰好をしているってことは、スランプを脱出した・・・ってことだな?」

「・・・は、はい・・・」

テンションの低いタコ社長の物言いに、満面の笑みだったくろたんは急に真顔になった。

「タイミングが悪かったですね、くろたん。ちょうど今、鳥山明とTARAKOの訃報について話していたところなんです」

マスターが響のロックをくろたんの前に置きながら言った。

「それにしても中山牝馬ステークスの馬連的中はお見事でした。50倍近くつきましたよね?」

くろたん X

「まあほんの序の口ですよ。明日は2重賞に桜花賞トライアルのアネモネステークス。3つ全部いただきますよ」

そう言ってくろたんは響を一口舐めた。いつもの饒舌なくろたんに戻っている。

■ 竜星涼

「くろたんさん、フィリーズレビューの狙いは何かしら?難解でちっともわからないの」

ギョニ子が顔を左に向けて訊いた。眉根にしわが寄っている。

「ドナベティはおすすめですよ。出走馬情報の画像が怪しい」

くろたんが言うには、重賞競走において掲載される出走馬情報の画像で、ドナベティが強調されているという。

JRAホームページ

「3番目の画像に2着ドナベティ。その隣の4番目がドナベティ1着のレース。違和感しかありませんね。おまけに・・・」

くろたんはそう言うとスマホを操作し、発表されたばかりの中山競馬場イベント情報のページをギョニ子に見せた。

第3回 中山競馬場イベント

「皐月賞プレゼンターで竜星涼が来場。坂井瑠星騎乗のドナベティは激熱でしょう」

「さすがですね、くろたんさん!」

真一郎が言った。

「坂井瑠星の瑠星に“”はありませんが、隣には和田竜二がいる。6枠2頭でちゃんと“竜星”になっている・・・そういうことですね?」

6-10 ドナベティ(坂井瑠
6-11 マーシーラン(和田二)

「お、おう・・」

くろたんは少し動揺しながら言った。和田竜二のことには気づいていなかったのかもしれない。

「それでは私はこれで失礼しますよ。みなさんのお邪魔になってはいけない」

そう言ってくろたんは店を出て行った。

■ 走れ正直者

「ドナベティ自身かはともかく、6枠はいいかもしれませんね」

マスターがくろたんのグラスを片付けながら言った。かつてちびまる子ちゃんの主題歌だった、「走れ正直者」があるという。

フィリーズレビュー
6-10 ドナベティ
6-11 マーシー(ラン)(岡村善行

「マーシーランの馬名意味は『幸運な走り』。オーナーの“善行”は善い行いのことですから“正直”と言い換えてもいいでしょう」

麗子ママが後を引き継いだ。

「ちびまる子ちゃんの主題歌だった『走れ正直者』を歌っていたのは西城秀樹さん。奇しくも、西城秀樹さんもTARAKOさんも享年63歳・・・この6枠が使われそうな気がするわ」

■ おばあちゃんの誕生日

「ええと、明日の『ちびまる子ちゃん』なんですけど・・」

真一郎がスマホを見ながら言った。

「ネットでググったら『おばあちゃんの誕生日』という話のようです。これって再放送かもしれません」

真一郎が言うには、「ちびまる子 おばあちゃんの誕生日」で検索すると、過去にまったく同じタイトルの放送があるという。

ちびまる子ちゃん 公式サイト

「再放送の可能性は高いわよ」

ギョニ子が言った。

「『ちびまる子ちゃん』の公式サイトを見ると、『3月10日(日)以降当面の間、過去に放送した作品を改めてお送りいたします』とあるわ」

ちびまる子ちゃん 公式サイト

ちびまる子ちゃんの公式サイトには、TARAKOの最終出演回は3月24日(日)に1時間枠で放映される「まる子、水の味がわかる?」とある。また、後任の声優が決まるまでは、3月10日(日)以降当面の間、過去に放送した作品を改めてお送りいたしますとしている。「以降」にはその日付自身も含まれるため、明日の放映も再放送というわけだ。

「するってえと、その『おばあちゃんの誕生日』が最初に放映された日の重賞が、何かヒントになるんじゃねえかい?」

タコ社長が言った。さっきまでのお通夜モードは払拭され、いつものサイン競馬モードだ。

「社長さん、それはいい考えですね!『ちびまる子ちゃん』は競馬にゆかりのあるフジテレビです。さっそく調べてみましょう」

そう言うが早いか、マスターはさっそくパソコンを操作しだした。『おばあちゃんの誕生日』初回放映日はすぐに判明した。

2015年4月5日ですね。『ちびまる子ちゃん』の放映は日曜日なので、必ず重賞があるというのがいいですね」

マスターが示したパソコン画面には第59回産経大阪杯とあった。

2015/4/5(日)
※ちびまる子ちゃん『おばあちゃんの誕生日』放映日
第59回 産経大阪杯 GⅡ
1着:3-03 ラキシス(ルメール
2着:5-07 キズナ ※前年覇者(武豊)
3着:3-04 エアソミュール

産経大阪杯!」

ギョニ子が大きな声で言った。

「フジサンケイグループよね?『ちびまる子ちゃん』にはぴったりだわ!しかも金鯱賞と同じ芝2000のGⅡ戦!」

「ギョニ子!1着馬の馬名に何がある?」

タコ社長が訊いた。みんながハッとした表情になり、店内を沈黙が包んだ。

ラキ(シス

「このレースを使うことは間違いなさそうね」

麗子ママがそう言うと、みんながうんうんと頷いた。

■ 2015年のコピー

「1着ラキシスはルメール騎手・・・となると、菊花賞以来という点が引っ掛かっていた、ルメール騎乗のドゥレッツァでいいのかもしれませんね」

マスターが言った。真一郎がすかさず尋ねる。

「菊花賞以来が不安だった・・というのは?」

「実は、1986年以降のデータだと、前走が菊花賞だった馬の金鯱賞制覇はないんですよ」

マスターが言うには、1986年以降、前走菊花賞馬の金鯱賞参戦はわずか4例。1着はおろか3着内もないという。

<金鯱賞 前走菊花賞馬>

1998 マチカネフクキタル 6着
(前走菊花賞1着)

2003 ダイタクフラッグ 13着
(前走菊花賞17着)

2012 コスモオオゾラ  11着
(前走菊花賞17着)

2015 ベルーフ     6着
(前走菊花賞6着)

「おいおい!ドゥレッツァで大丈夫かい?菊花賞馬のマチカネフクキタルですら馬券になんなかったんだろ?」

タコ社長が腕を組みながら言った。マスターが答える。

「確かに気になるデータではありますが、そもそも今とは施行時期が違います。マチカネフクキタルとダイタクフラッグの金鯱賞は5月施行。コスモオオゾラとベルーフのは12月施行でした。それに・・・」

マスターは少し間を開けてから言った。

「ドゥレッツァは菊花賞馬。仏前に供えるにはということなのかも・・」

みんながうんうんと頷いた。

「頭がドゥレッツァでいいのなら・・」

真一郎が言った。

「2着キズナは前年覇者ですから、2着にも前年覇者プログノーシス・・・あ!!ラキシスに対しプログノーシス!」

2015/4/5(日)
※ちびまる子ちゃん『おばあちゃんの誕生日』放映日
第59回 産経大阪杯
1着:3-03 ラキシスルメール
2着:5-07 キズナ ※前年覇者(武豊)
3着:3-04 エアソミュール

3-03 ドゥレッツァ(ルメール
4-04 プログノー(シス

「ルメール騎乗のラキシス・・・」

マスターが言った。

ルメールのドゥレッツァと“シス”があるプログノーシスのワンツーなら、ラキシスからの1点サインといってもいいでしょうね」

ギョニ子が続いた。

「しかも3番4番はラキシスの大阪杯の1着と3着の馬番よ!」

「3着まで欲張るなら・・」

タコ社長がニヤリと笑って言った。

「ラキシスの大阪杯の3着がエアソミュール。同じエアのエアサージュはどうだい?」

第59回 産経大阪杯
1着:3-03 ラキシス(ルメール)
2着:5-07 キズナ ※前年覇者(武豊)
3着:3-04 エアソミュール

7-11(エア)サージュ

「そこまで丸っとコピーなら面白いけど・・」

麗子ママが言った。

「3連単の3→4→11は買っておきたいわね」

■ ソメイヨシノ

「裏メインのダービー卿チャレンジトロフィー。これはどっちに使われるかしら?」

ギョニ子が言った。ちびまる子ちゃんの『おばあちゃんの誕生日』。初回放映日の2015年4月5日には、産経大阪杯の裏でダービー卿チャレンジトロフィーが行われていたのだ。

2015/4/5(日)
ダービー卿チャレンジT
1着:5-10 モーリス
2着:5-09 クラリティシチー
3着:2-04 インパルスヒーロー

「中山の芝1600重賞・・・重賞ではなくリステッドではありますが、フィリーズレビューよりも同じ中山芝1600であるアネモネステークスかもしれませんね」

マスターが言った。確かにそうだという声が挙がった。麗子ママが言った。

5枠はいいかもしれないわね。頭が『ソメイ』になっているわ」

アネモネS
5-09()ルトクィーン
5-10(メイ)ショウヨゾラ

ソメイヨシノだな!」

タコ社長がポンと手を叩いて言った。

「桜花賞トライアルにはぴったりだぜ!」

「あら、ソルトクィーンだけど大丈夫かしら?」

ギョニ子が茶目っ気たっぷりに言った。

塩分控えめにするんじゃなかったっけ?」

「よせやい!」

タコ社長が笑って答えた。真一郎が援護射撃を出す。

「クィーンはいいかもしれませんよ。『おどるポンポコリン』は確か、B.B.クイーンズでしたよね?」

みんながうんうんと頷いた。軸は5枠になりそうだ。

■ 上原博之

「相手はどうしましょうか?」

マスターの問いに、すぐに答える者はいなかった。数分間各自がスマホなどで調べものをしたのち、真一郎が言った。

「1番のキャットファイトはどうでしょう?」

真一郎が言うには、2015年のダービー卿チャレンジトロフィーは堀宣行厩舎と上原博之厩舎のワンツーだった。アネモネステークスには堀宣行厩舎の出走はないが、1番キャットファイトが上原博之厩舎だという。

ダービー卿チャレンジT
1着:5-10 モーリス(堀宣行)
2着:5-09 クラリティシチー(上原博之
3着:2-04 インパルスヒーロー

アネモネS
1-01 キャットファイト
(大野拓弥・上原博之

「大野拓弥!」

ギョニ子が言った。

「中山牝馬ステークスで本命にしたタガノパッションも、1番の大野拓弥だったわよね?これは借りを返してもらわなきゃだわ!」

中山牝馬S
1-01)タガノパッション(大野拓弥)6着

アネモネS
1-01)キャットファイト(大野拓弥)?着

みんながうんうんと頷き、5枠の相手本線は1枠に決まった。その後、2015年のダービー卿チャレンジトロフィーがモーリスだったため、モーリス産駒の10番エリカスティームがいる7枠も相手に加えようということになった。

スナック忘れな草
アネモネS 勝負馬券
◎5枠
〇1枠
▲7枠
単勝:5番、6番 2点
枠連:5-(1.7)2点

■ 加藤みどり

10分ほど休憩を取ろうということになり、各自トイレに行ったりスマホで調べものをしたりして過ごした。

「長寿番組の宿命だよなあ・・」

タコ社長がしんみりと言った。

「日曜の夕方といやあ『ちびまる子ちゃん』に『サザエさん』。同じフジテレビだ。マルコちゃんのTARAKOが亡くなり、『サザエさん』に至ってはサザエさん役の加藤みどり以外みんな入れ替わっちまったぜ・・・」

「社長さん、それかもしれません!」

マスターが言った。みんなきょとんとしている。

加藤みどりですよ!フィリーズレビューは加藤みどり馬券じゃないでしょか?」

フィリーズレビュー
1-01 コラソンビート(加藤志津八)
※1枠は唯一の一頭枠

6-10 ドナベティ
6-11 マーシーラン

「なるほどなあ!放映開始からの演者で唯一残ったのが加藤みどり。15頭立てという妙で1枠だけが一頭枠加藤志津八・・・そして相手がみどりの6枠なら加藤みどり馬券だ!」

タコ社長がそうまとめると、異論はないとみんなが同意した。

スナック忘れな草
フィリーズレビュー 勝負馬券
◎6枠(みどり)
〇1枠(加藤)
単勝:10番、11番
枠連:1-6
ワイド:1-(10.11)

■ おばあちゃんの誕生日

「加藤みどりさんも84歳になるのね・・」

麗子ママがスマホを見ながら言った。加藤みどり、1939年11月15日生まれ。昨年の誕生日で84歳になっていた。

「TARAKOさんの訃報を受けての初回放映が『おばあちゃんの誕生日』・・・同じフジテレビの長寿アニメ『サザエさん』の、加藤みどりさんの誕生日を使わないかしら?」

すぐにみんなが調べだした。だが、現役のJRA所属騎手と調教師には、11月15日生まれないない。そこで直近の11月15日開催を調べることにした。

「2020年ね!」

ギョニ子が言った。

「エリザベス女王杯があった日だわ!」

2020/11/15(日)
加藤みどり 81歳の誕生日
エリザベス女王杯
1着:8-18 ラッキーライラック(ルメール
2着:7-13 サラキア(池添学
3着:6-11 ラヴズオンリーユー

ローカルメイン 福島記念
1着:2-03 バイオスパーク(池添謙一

金鯱賞
7-11 エアサージュ
池添謙一・池添学・ラッキーフィールド)

「いいですね!」

マスターが言った。声が弾んでいる。

「その年のエリザベス女王杯はラッキー池添学のワンツー。金鯱賞のエアサージュは池添兄弟の馬で馬主がラッキーです。ぴったりですよ!」

みんながうんうんと頷き、金鯱賞のドゥレッツァの相手筆頭はエアサージュと決まった。

スナック忘れな草
金鯱賞 勝負馬券
◎3番ドゥレッツァ
〇11番エアサージュ
▲4番プログノーシス
単勝:11番
馬単:11→(3.4)
3連単:3→(4.11)→(4.11)

■ 締めのお茶漬け

金鯱賞にフィリーズレビューの2重賞、そして桜花賞トライアルのアネモネステークス。すべての検討が終わった。麗子ママは、みんなに締めの料理を出した。

「うわあ、おいしそう!お茶漬けね!」

ギョニ子がまだ熱いくらいの茶碗を両手で押さえながら言った。真一郎が続く。

「飲んだあとのお茶漬けっていいですよね!」

だがタコ社長は、少し浮かない顔をしている。

「ママさん、お茶漬けはいいんだが、具らしいものが見えねえぜ?」

「社長さん、下のほうを見てみて」

麗子ママに言われて、タコ社長は箸で茶碗の下のほうをすくってみた。出てきたのは、オーブンで軽くあぶったピンク色をしたものだった。

「・・・・・たらこ茶漬けか・・・・・こりゃあゆっくりと味わわねえとな・・・」

そう言って茶碗の中を覗き込んだタコ社長だったが、手が動かなかった。そうしているうちに、茶碗の中にボタリとしずくが落ちる。

「ちょっとー!!」

ギョニ子が手を止めて言った。

「せっかくママが塩分控えめで作ったのに、しょっぱくなっちゃうじゃん!」

真一郎は、そう言うギョニ子の目からも、今にも涙があふれそうなのを見逃さなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?